ロシアによるウクライナへの侵攻が始まってからまもなく1年。500万人以上のウクライナの子どもたちが教育機会の喪失の危機にさらされています。
祖国を追われ日本で暮らす18歳未満の避難者はおよそ400人。言葉の壁に阻まれ、授業についていけない現実があります。
避難者たちの現状や、それを支援しようとする人たちの姿を描きます。
人物の心情を汲み取った素敵なナレーションで番組に命を吹き込んだ奈緒さん。収録を終えてVTRの感想を聞きました。
–Q:ナレーションを終えて、率直な感想を教えてください
【奈緒さん】
「すごく苦しいこととか、すごく胸が苦しくなるようこととか…きっと心を動かされすぎて、原稿を冷静には読めないだろうなと思っていたので、事前にVTRを拝見していたのですが、ナレーションブースで、やっぱりどうしても胸が熱くなる瞬間がありました」
–Q:日本で暮らすウクライナの子どもたちの姿から どんなことを感じましたか?
【奈緒さん】
「九九の歌を覚えたヤン君が笑顔になっている姿を見て、本当に嬉しかったです。そして、ヤン君が「ありがとう」の気持ちを返すだけじゃなくて、その先のアクションを起こす姿に、私自身すごく学ばせてもらいましたし、希望やパワーをたくさんもらいました」
「子どもって私自身もそうでしたけど、嫌なことは嫌って素直に言ったり、でも嫌だったことが乗り越えられた時に、心から喜べたりしてほんとに純粋で素直ですよね。ウクライナの子どもたちは、いろんなことを、きっと我慢しないといけない状況だと思うんです。でも、そういう状況だからこそ嫌なことは嫌って言っていいし、なるべく我慢せずにのびのびと育ってくれたら嬉しいなと感じました」
「大人になって振り返ってみると、学校で勉強したことよりも、逆上がりができたとか、友だちとけんかしたけど、仲直りできたとか、何かを乗り越えた体験の方が、すごく今の自分にとって大切なことになっているなぁと思います。ヤン君に私自身を重ね合わせて、乗り越えたこととか、それでもやっぱり乗り越えられなかったこととか、自分の学生時代を思い出していました」
–Q:今でも大切にしている学生時代の出来事、“何かを乗り越えた体験”はありますか?
【奈緒さん】
「私の場合は絵ですね。小学校の時から絵を描くのが好きで、小学校の時、漫画クラブに入っていたのが、私1人だけだったんですよ。似顔絵を描いたり、いろんな絵を描いて、友だちに喜んでもらえたっていう経験が今振り返ると、すごく自信につながっていましたし、自分自身を肯定できることにつながっていたと思うんです。でも、中学で美術部に入ると、どうしても『うまく描かなきゃ』『人に評価されなきゃ』っていう気持ちになって、純粋に絵を描くことを楽しむ気持ちがどんどん失われてしまって…そんな時、私が絵を描いている途中に『あっ失敗した』ってひとりごとをつぶやいたら、美術の先生が『絵に失敗はないよ。失敗してないよ』って言ってくれたんです」
「私は、その言葉がすごく心に残っていて、先生からその言葉をもらうまでの私は、誰かの基準で失敗したと思いこんでいたので、その言葉で失敗のない世界というか、そういうものに気づけたと思います」
「ずっとその言葉に支えられながら、先生のおかげで、今でも絵を描くことって楽しいなって思いますし、それは他のことにもつながっていて、お仕事でも、もちろん『今日、うまくいかなかったなぁ』とか、ナレーションをしていて『あそこで嚙んじゃったなぁ』と落ち込むこともあるんですけど、それでも失敗ではないと思うようになりました」
「今回映像で、ヤン君や彼の周りにいる人たちの姿を見た時、私の子ども時代、自分のことを想ってくれる先生や、想ってくれる大人が近くにいてくださったことは、ほんとにありがたいことだったんだなって気づいたんです」
「だから、私も、もう大人なので、ヤン君のような宝物みたいな子供と向き合ったときに、『あの人と出会えて良かった』って思われるような大人になりたいと思いますし、私自身、子どもの時に悲しかったこととか、嫌だったことって大人になって忘れてしまっているので、なるべく思い出して、子どもたちと楽しい瞬間とか笑顔になれる瞬間っていうのを一緒に迎えられるようにしていきたいなって、すごく思っています」
–Q:母1人で、4人の子どもを抱えて避難してこられたエフゲニアさんの姿からどんなことを感じられましたか?
【奈緒さん】
「エフゲニアさんの姿は、私が幼き日に見た母の姿に重なるところがありました。うちも父が早くに亡くなったので、母が1人で育ててくれたんですけど、だからこそ、今、大人になってみて『あっ、この時お母さん大変だっただろうな』とか、『この時、たぶんこれ我慢してくれてたんだろうな』って、気づく機会っていうのがたくさんあって、その度に自分が受けてきた無償の愛っていうのを、感じる瞬間が一緒にいなくても、ただ生きているだけですごくあるんですよ」
「そのことに気づけた瞬間っていうのは、すごく母に『ありがとう』って気持ちになりますし、そんなに愛されていた自分を感じるだけで、自分を肯定できるんです」
「もちろん、ちっちゃいときって、自分でなかなか環境を選ぶことができないので、母は、その環境を少しでも良くしてあげようとか、そういう風に思って、汗水たらして私を育ててくれていたんだなっていうのを、今になって気づかされます。お母さんから受けた愛っていうのは、記憶の中で消えることは絶対にありませんし、それは、ほんとにほんとに私自身にとって、すごく幸せなことだったんだなって…きっと、そう私が思ったときに、お母さんも『奈緒がそう思ってくれて良かった』って幸せに感じてくれていると思います。だから、きっとエフゲニアさんの想いっていうのは、お子さんたちが大きくなった時に、すごく温かい形で、かけがえのないお守りになるような愛情だと感じました」
–Q:このドキュメンタリーを通してご自身が感じたこと、伝えたいことはありますか?
【奈緒さん】
「『父との距離は8000キロ』というナレーションが印象に残っていて…私自身、ウクライナで起こっていることが、すごく遠い距離の話になってしまうところがあった中で、今回の映像を見て、自分のすぐ近くにいらっしゃることに気づかされましたし、自分でどう思うか、自分は何を信じるか、自分に何ができるのかを常に考えて向き合い続けることが、とても大切なことだと感じました」
「それを、毎日抱え続けるのは、自分の人生を生きる上では、ちょっと苦しすぎるかもしれないですけど、番組を見ることで、向き合って、今の私にできることは、役者として表現して見てもらえることなのかもしれないですし、それが何だろうと考え続けています。きっとこの番組が、そういう誰かにとって、『自分にできることは何だろう』って考えるきっかけにすごくなるんじゃないかっていう気がしていて見てくださった皆さんの、どこか記憶の中に残り続けるものになるといいなと思っています」