神戸で活躍する猿回しの若手コンビが、2月4日、ある挑戦を行いました。業界初の取り組みというその挑戦とは…?
■猿回し“業界初”の取り組み ニホンザル・あいちゃんが挑戦!
大場由佳さん(24)と相方のニホンザル・あいちゃん(メス・4)。3年前にデビューした、猿回しの若手コンビ、「アイノテ」です。
あいちゃんが1歳のとき、コンビを結成しました。
【トレーナー 大場由佳さん】
「まずは『悪い人じゃないよ』ってところから。あいちゃんからしたら知らない人、え、誰?というところから始まるので。『立って』で立つことが全然できなくて。立って歩いたときの感動がすごい」
実は「アイノテ」、猿回し業界“初”の取り組みに挑戦しています。
【トレーナー 大場由佳さん】
「伝わった?」
あいちゃん、胸に当てた手のひらをまっすぐ下におろし、手話での「分かった」、つまり「伝わった」と返事をします。
【トレーナー 大場由佳さん】
「できるの?できる?」
大場さん、あいちゃんの右肩を優しくたたき、促します。
あいちゃん、手を、左胸にあて右胸へ移動し、手話の「できる」を表現します。
【トレーナー 大場由佳さん】
「そう!気を付け!」
「アイノテ」は、業界初の“手話で公演する”ことを目指しています。
【トレーナー 大場由佳さん】
「習い事の先生が手話ができる人だったんですけど、たまに手話で話していて、手話が分かる人同士で。『何なんだこれは?』って、そこから私がどんどん興味を持ち始めて。ショーの世界に入りたいと思った時点で、私は手話を取り入れたいと思っていて、聞こえない方がお客さんでいらっしゃったら、手話で対応したいと思っていて」
トレーニングの傍ら、大場さんはあいちゃんに教えられる手話や、通訳士試験の勉強をしています。
【トレーナー 大場由佳さん】
「2022年の12月に資格試験に挑戦して、まだ結果待ち、3月に来るので、毎日ドキドキしています。細かい複雑な動きって、おサルさんに教えることはできなくて、パーとグーでできるものをたくさん探して、あいちゃんに覚えてもらっている。まだまだ夢の途中ですね、これからです」
■「アイノテ」…舞台に向けて“手話”を猛特訓!
そんな「アイノテ」に訪れたのが、劇場での特別なお披露目公演のチャンス。まだ「アイノテ」は普段は、路上でしかパフォーマンスを許されていません。劇場の舞台には、本来は劇場に所属するコンビの中でも人気上位4組しか立てないのです。
本番に向けて、先輩トレーナーに練習を見てもらいます。
【トレーナー 大場由佳さん】
「前!足!まだ。前!…ハードルジャンプご覧いただきました!」
【先輩トレーナー・森美樹さん】
「ポイント、ここは気を付けをしてとか、手話入る前に、毛づくろいして、そっぽ向かれていたら手話に入られへんわけやから…その寸前にこっちに集中してよっていうのでお尻を触る(合図する)」
緊張しっぱなしの大場さん、本番で、あいちゃんの手話をちゃんと引き出すことができるのでしょうか…。
【トレーナー 大場由佳さん】
「今日はあいちゃんはすごく良かったけど、私がちょっと…緊張しちゃいました。何かその、入り込めてないねって」
本番前夜、大場さんが住んでいる寮に、先輩や後輩がこの時期なのでと、「恵方巻」を持って激励に駆けつけてくれました。
【後輩トレーナー・木村さん】
「明日の公演に向けて、恵方巻を持ってきました!!」
【先輩トレーナー・松原さん】
「願い事、はい!」
【トレーナー 大場由佳さん】
「明日うまくいきますように…切実ですよ」
■「アイノテ」いよいよ“手話”舞台の…本番
公演当日の舞台裏では、緊張した面持ちの大場さんがいました。あいちゃんもソワソワしていて落ち着かない様子です。
【トレーナー 大場由佳さん】
「今は実感が全然湧いていないです、正直。あいちゃんは、ちょっとソワソワしていますね。いつもはじっとしていられるんですけど…立ったり座ったり、じっとしていられない。何かが違うことに気が付いている」
先輩トレーナーの森さんが気合を入れてくれました。
【先輩トレーナー・森美樹さん】
「はい、前向いて!気を付け!胸張りすぎです!はい、お願いします!」
【トレーナー 大場由佳さん】
「ありがとうございます!」
出番直前、大場さん、あいちゃんを優しくハグしながら、「頑張ろうね!」と声を掛けます。コンビで初めて挑む、劇場のステージ。
いよいよ本番です。公演が始まると、大場さんとあいちゃんは息ぴったり。
大場さん、手話であいちゃんに話し掛けます。
【トレーナー 大場由佳さん】
「ここまであいちゃん、絶好調です。みなさんからの応援、ちゃんと伝わっているよね?」
あいちゃん、手話で「伝わってる」という返答をしました。手話もばっちりです!
今回のプログラムには、完全に無音のパートもあります。1人と1匹のコンビ「アイノテ」のこれまでの歩みを手話だけで伝えます。
【トレーナー 大場由佳さん】
「すごく難しくて、何度もくじけそうになりました。でも、あいちゃんの頑張る姿を見ると、私はできる!そう言っているように感じました」
大場さんが「できる?」と声掛けて、右肩を叩くと、あいちゃんも手話で「できる!」と答えました。
最後の竹馬での大技も見事に決め、大場さんとあいちゃん、手話で「ありがとう」と観客にあいさつをし、無事にステージを終えることができました。
【観客の女性は…】
「私が耳がちょっと中途失聴なので、飛び跳ねるだけじゃなくてね、手話も一生懸命やっていたから良かったです」
【観客の親子は…】
「手話付きの猿の芸を初めて見たからすごいと思いました」
「今日のイベントで手話が心の中に残ったのかなと思います」
大切な舞台を終えた大場さんは…
【トレーナー 大場由佳さん】
「あいちゃんはいつも通りですね。想いを手にしっかり乗せて、届けることができたのかなと思っています。知らずに来た人でも手話という言葉に触れてもらって、少しでも興味を持ってもらえたら、いつでも手話の世界に入ってきてほしいなと思います」
音が聞こえなくても、猿回しを楽しんでもらいたい。また、「アイノテ」の公演を見たことによって「手話」という言語に興味を持ってもらえたら…。2人の挑戦は、まだ始まったばかりです。
(2023年2月7日放送)