岸田首相の前首相秘書官である荒井勝喜氏が、性的少数者に対して差別的な発言を行った問題。今回の発言は「オフレコ(off the record)=ここだけの話」としてされたものでした。記者の取材に応えたものではあるのですけれど、記録に残さない、ここだけの話としてされたものです。ただ、それを報じる社が出てきて、そして各社追随したという状況になりました。これについて世の中にはさまざまな意見が出ています。 まず今回荒井氏がなぜこのような発言をしたのか、それからオフレコ取材と報道について、東京で取材を続けている原佑輔記者が解説します。
【原佑輔記者リポート】
「きっかけは2月1日水曜日にさかのぼります。岸田総理は予算委員会で同性婚の法制化について『家族観や価値観、社会が変わってしまう』として、極めて慎重に検討すべきという姿勢を示していました。荒井氏は、この総理答弁について記者団に問われた際に、『隣に住んでいたらいやだ。見るのも嫌だ』などの差別的な発言をしたということです」
この発言は“オフレコ”の場で取材されたものだったということです。疑問に思うのは、そもそも取材しても原稿に書くことはできないものなのに、なぜオフレコ取材をするのでしょうか?
【記者リポート】
「荒井氏は、毎日のように総理と意見交換をしていて、総理の頭の中を実際の政策に落とし込んでいく『岸田政権の縁の下の力持ち』のような存在でした。こういう立場の人にオフレコで話を聞くことで、これから政府や政党がどういう方針を出すのか、どんな法律を作ろうとしているのか、まだ公になっていないことが今後どう進んでいくのか、感触をつかむことができます。非公式の取材の“オフレコ”だからこそ政権の空気感や取材対象者の本音を知ることができるわけです」
本質に迫っていく材料として使うのですね。オフレコという約束だった発言を報じる社が出てきて、我々も含めて各社追随しているわけです。これは相手との約束違反になるわけですが、それでもあえて書こうとなったのは、なぜなのでしょうか。
【記者リポート】
「今回のケースではまさに総理側近の“本音”が漏れたんだと受け止めています。政権の根底に、そうした差別的な意識があるとするならば、オフレコの前提を覆してでも、視聴者の皆さんにも知ってもらう必要があると思います。これには批判的な声もありまして、現に私もある野党幹部と話をする中で、『オフレコを外に出すってどういうことなんだ。今後君たち自身も取材しにくくなるのではないか』と言われました。つい昨日・今日のことです。ただ、今回の件は信頼関係を失ったり、今後取材がしにくくなったとしても報じる価値があると、最初に一部の社が判断して実名報道に踏切り、その後、本人や総理が表の場で見解を表明する事態となっています」
今回の前首相秘書官の発言が岸田政権に与えるダメージ、影響についてはいかがでしょうか。
【記者リポート】
「6日午前から行われている予算委員会でも、野党からの追及が相次ぎました。欧米のメディアでも例えばBBCは『日本はG7の中で唯一同性婚を認めていない国だ』と報じています。岸田総理にとっては、国会運営が厳しさを増しただけではなく、なんとしても成功させたい5月の広島サミットにも大きな影響を与えかねない事態となっています」
海外メディアはかなり厳しく報道しています。
・AP通信は、「日本にはLGBTQへの偏見が根強く残る」
・フランスのル・モンドは、「岸田政権が掲げる『多様性を認め合う共存社会』は、口先だけの約束なのか?」
今年5月に会合が行われるG7の中で、日本以外の国が法的な同性婚について認めている中で、日本だけ法制化できていない事実があらためて白日のもとにさらされ、海外から批判を受ける状況となっています。
ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんは、以下のように話しました 「オフレコであっても報じたのが正しい結論だったと思います。もしこれが野放しになって、オフレコでみんな知っているけれど、政権の中に巣くっていた場合、将来日本政府がLGBTQに対して排他的な政策を取ることを未然に防げなかったということになります。しかも危険な考え方が政権中枢にあるということは、日本全体のリスクなので、報道したのは正しかったと思います。もうひとつなぜ同性婚に対してここまで慎重なのか、その根拠となる『社会が変わってしまう』という総理の言い分なんですけど、これは日本の一般の意識、どんな調査でやってもおそらく現実ではないですよ。政府だけが独自の“保守バブル”の中に閉じこもっている、立てこもっている状態なんです。現実的なのは先進国なのですから、同性婚を法制化するのは当たり前。広島サミットの前に動いて、全世界に動きを見せるべきだと思います」
(関西テレビ「報道ランナー」2月6日放送)