東日本大震災で原発の新設「封印」のはずが…国が新たな方針転換 関西から近い場所に“新しい原発” 賛成?反対? 地元民のホンネ 地元市長は期待も…反対派市議の懸念 2023年02月07日
東日本大震災以来、国はいったんすべての原発を止めて、再び動かすための厳しい基準を設けました。原発を新しく造ることについては、「封印」していました。
ところが、最近、原発について大きな動きがありました。
2022年12月、国が新たな方針「次世代革新炉の開発・建設」を取りまとめました。つまり新しいかたちの原発を造っていこうという、大きな方針転換です。
実は、新たに原発を造りたいと、19年も前から国に許可を求めている場所が、関西のすぐ近くにあります。建設の可能性がじわじわと高まってきそうな、地元の様子を取材しました。
■関西から近い場所に…“新しい原発”敦賀3・4号機 地元市長は期待
滋賀県のすぐ隣にある福井県敦賀市。2024年3月には北陸新幹線がやって来ます。市街地から車で30分ほど行った場所に、敦賀原発があります。
運営する日本原子力発電、通称「原電(げんでん)」は、原発でつくった電気を電力会社に売る専門の会社です。
原発は全て止まっているものの維持費はかかるため、関西電力を含めた電力会社から、昨年度、およそ850億円を受け取っています。
寿命を迎えた1号機は廃炉、2号機は再稼働のための審査を受けています。
【鈴木祐輔記者 リポート】
「敦賀原発です。私の後ろにありますのが1・2号機です。実は、あちらの山の向こうに新たに3・4号機を造る計画があるんです」
敦賀原発3・4号機は、東日本大震災前の2004年、国に設置の許可を求める申請書を提出しています。それから19年、予定地の造成工事を終え、進展を待っています。
国の方針転換に、敦賀市の市長は大きな期待を寄せています。
【敦賀市 渕上隆信市長】
「非常に一番うれしいことですね。建設が始まるとたくさんの方が建設工事に来ますので、にぎやかになってくるんだと思います。その後は運転に入りますんで、点検を含めて、そういうにぎやかさが続いていくだろうと」
–Q:原発の安全性に不安は?
【敦賀市 渕上隆信市長】
「安全性はもう過分なぐらい安全なものができると思っています。ただやはり古い炉の延長というよりも、新しい方がさらに安全性は高まるのではないかと思っていますので、安全性という意味では、『新しい炉』がいいのではないかと思っています」
では、造ろうとしている「新しい原発」とは、どんなものなのか…?
■運営会社「日本原電」に取材申し込みも… 敦賀市民の声は?
敦賀原発を運営する日本原電に取材を申し込んでいましたが…
【日本原電の文章回答(1月17日付)】
「当社は現在、敦賀3・4号機の計画に優先して、敦賀2号機の新規制基準適合性審査に全社をあげて対応しているところです。まことに申し訳ございませんが、今回の取材は見送らせていただきたく存じます」
実は今、日本原電は敦賀2号機を巡って火だるま状態なのです。再稼働を許可するかを審査している原子力規制委員会からは、前代未聞の厳しい指摘が…
【原子力規制委員会 石渡明委員】
「その審査資料に1300カ所にも上るような誤りが今までにあったということは、審査をする上で非常に障害になります。こういう資料を出される会社は御社だけで、今まで他の会社でこれほどの間違いはございませんでした」
【原子力規制委員会 山中伸介委員長】
「深刻な書き換えのような問題が含まれていたということで、非常に深刻な問題だと思っています」
大量のミスに、地質データの不適切な書き換えまで発覚し、規制委員会に「技術力は大丈夫なのか」とまでいわれた日本原電。
この会社と長い付き合いをしてきた敦賀市民は、新しい原発の計画について、どう思っているのでしょうか。
【パート従業員】
「ずっとここに住んでいるので、リスクもありながらずっと共存しているので、気を付けて進んでいくのであればいいのではと。(–Q:どんどん増やしてくれと?)というわけでもない。1つなくなるならば1つ補う感じで…」
【男子高校生】
「原発が少し増えることについては何も思わない。慣れですね。ずっと小さい頃からいるのですけど、まだ事故も起きていないし」
敦賀原発と取引のある会社社長は、「会社としてはウェルカムですね」と取材に応じてくれました。
【取引がある会社社長】
「100パーセント原子力のユーザーさんで事業を回していたんですけども、震災で原子力発電所が全部止まってしまって。我々の会社としては、ユーザーさんがいったんゼロになってしまってですね、非常に苦労したというような経験をしていまして。止まっているものを再稼働というところの方がもちろん早いと思いますので運転再稼働できるような状況になればいいなあと」
地元のタクシー会社も、原発があるのとないのとでは大違いだそうで…。
–Q:原発関係の乗客は多い?
【タクシー運転手】
「多いですね。それがなかったらおばあちゃんの敦賀病院の送りぐらいしかない。1000円以下。おかげさまで原発に行ったら6000円近くになるので…敦賀の人間としては、原発反対をあまり言えない」
■福島原発事故をきっかけに…脱原発を訴える反対派市議
脱原発を訴える、数少ない市議会議員に出会いました。無所属の今大地晴美市議、6期24年のベテランです。
湿地の保全やゴミ処理場問題などに取り組みましたが、最初の10年あまりは原発問題に触れられなかったといいます。
【今大地 晴美市議】
「結婚して夫がおでん屋を営んでいて、そこでずっと一緒におでん屋やってきた中で、お客さんに多いんですよ、やっぱり。原発関係の人たちっていうのは、お客さんとしてもやっぱり夜の街を潤していた一面もある。そういうところでやっぱり声を上げられなかった。市議になってからも、ずっと封印していた問題っていうか、存在でしたね」
しかし福島の原発事故に衝撃を受け、その年の4期目の選挙(2011年)で初めて「脱原発」を掲げました。
【今大地 晴美市議】
「今まで結構、演説していると周りで聞いてくれたり、握手してくれたけど、皆さん後ずさりする。今までは手を振ってくださった人が、カーテン閉めたり、聞いていた人もササササっと奥へ入って行ったり…」
脱原発を掲げたことで、3分の1の票を失いましたが…原発の敷地にある活断層や、住民の避難の難しさなど、現実のリスクをあげて脱原発を訴えてきました。
乳がんを患い、72歳という年齢もあって、この春で引退します。後継者は…。
【今大地 晴美市議】
「いないですね。育てられなかったのかとか言われればそれまでなんですけど…なかなか私のような立ち位置で、選挙したり議員をする方がなかなかいらっしゃらないというのがありますね」
市民の多くが、敦賀原発の会社を「原電さん」と呼ぶそうです。その町で今、新しい原発の計画が、動き出すタイミングをうかがっています。
■どうなる? 計画は進むのか…まずは「建て替え」から?
今回の取材で、鈴木記者が驚いたことは、脱原発を訴えてきた市議会議員は、今まで嫌がらせを受けたことがなかったそうです。
【鈴木祐輔記者】
「賛成する市民も『どんどん造れ』というもろ手を挙げての賛成でもないし、反対派だってどこかで原発につながりがある人が多いしで、お互いの気持ちが分かる部分があるのかもしれませんね」
国が示した新方針は、まず建設する対象としているのは、「廃炉した原発の建て替え」です。
これについて、敦賀市の渕上市長は「1号機が廃炉なので、建て替えの枠に入るのでは」と期待していますが、国の態度はまだ示されていません。「新設」となるとその後の検討になります。
「原発」の新設について神崎博デスクは…。
【神崎博デスク】
「実際には難しいと思います。現在、全国で、原発を新設する計画がある町は、青森県・大間原発と山口県・上関原発ぼ2カ所です。ただ、この新設をするという計画は、東日本大震災前から動いていました」
(2023年1月24日放送)