震災で両親と兄を失い…祖父母に育てられ 当時2歳だった青年が大切な人との門出 祖父母への感謝の思いを噛みしめて 【阪神・淡路大震災28年】 2023年01月17日
1995年の阪神・淡路大震災で、幼くして両親と兄を亡くした男性が、結婚して新しい生活をスタートさせました。
30歳になった男性が、これまで支えてくれた人たちに伝えた想いを取材しました。
■2歳で家族奪われ…30歳で迎えた人生の門出
神戸の街を見渡せる結婚式場で、ひとりの青年が人生の門出を迎えました。
湯口礼(ゆぐちあきら)さん(30)。
震災が起きたのは、まだ2歳の時でした。
■親代わりとなったのは祖父母 2度目の子育て
<震災前のホームビデオ>
【母・典子さん】
「いないいないばー!」「湯口お母さんです」
【兄・怜君】
「湯口サックンです。湯口アキラです」
【母・典子さん】
「かわいい!仲いいのねー!」
幼い頃は、芦屋市に住んでいた礼さん。 お父さんとお母さんとお兄ちゃん、家族4人で暮らしていました。
1995年の阪神・淡路大震災。
芦屋市では多くの住宅が被害を受け、礼さんのお父さん、お母さん、お兄ちゃんも命を奪われました。
子ども時代の写真があります。
新しい位牌の前で無邪気に笑う礼さん。
震災の時は、お父さんの胸に抱かれ、守られていました。
親代わりとなったのは、神戸に住むおじいちゃんとおばあちゃん。
震災で壊れた海産物店と自宅を建て直しました。
【祖父・克己さん】
「(お父さんが)命に代えて助けてくれてんからな、抱え込んでてんからな。命絶える前の苦しみ、無念さ、そういうのを思ってやるやろ。見守ってやってな、一人前に育てるからなと」
2人にとっては、還暦を過ぎてからの、2度目の子育てです。
【料理を手伝う礼さん(当時12歳)】
「もういい。飽きた」
【祖母・幸子さん】
「中途半端!すると言ったらちゃんとしなさいよ!」
【祖母・幸子さん】
「どうしてもおばあちゃんが抜けへんもんね。やっぱり甘くなるんやね」
成長していく礼さんと、年老いていくおじいちゃんおばあちゃん。
おじいちゃんは胃癌の手術を受けました。
【祖父・克己さん】
「転移するねん、癌は」
【礼さん(当時12歳)】
「そんなん言うよりさ、タバコやめとったらよかったやん。だから、癌になるねん。”自業自得”って言うねん」
【克己さん】
「お、”自業自得”?えらい言葉覚えてきたな」
礼さんが大人になり、建築関係の仕事に就いてからも、おじいちゃんとおばあちゃんはあたたかく見守ってきました。
【礼さん(当時27歳)】
「あの年齢で僕を育ててくれた。あのへんで僕が一番わがままやったと思うんですよ。それでもちゃんと聞いてくれて。たまには怒ったりするけど、やっぱり優しくて。すごい親やなと思います」
おじいちゃんとおばあちゃんは、長年営んできた海産物店をたたみ、介護付きマンションに引っ越しました。
【祖母・幸子さん(当時87歳)】
「どの子も我が子やもんね、かわいい。なんぼ腹立つようなことしても、喜ばせてくれることもあるし、泣くようなこともあるし。幸せな子育て」
懸命に礼さんを育ててくれたおばあちゃん。
いつも優しく礼さんを見守っていました。
そのおばあちゃんは、3年前、亡くなりました。
■大切な人と出会い…結婚式で伝えた感謝
礼さんは、大切な人と出会いました。
同い年で幼馴染の由奈(ゆな)さん。
高校生の頃からずっとそばにいてくれました。
礼さんは、お父さんとお母さんの年齢を超えました。
記憶の彼方にいる家族。
2人で、震災前に撮られた礼さん一家のホームビデオを見ました。
【震災前のホームビデオを見る礼さん】
「いい両親なんやろなっていうのは、これを見てたら思いますね」
【由奈さん】
「お母さんに会いたかったですけど…ちょっと礼の愚痴とか聞いてほしいかな」
2022年10月、礼さんと由奈さんは結婚式を挙げました。
【神父役の友人】
「今日という日を忘れずに、年老いても手を取り合い、愛し続け、幸せな家庭を築き上げることを誓いますか?」
【礼さんと由奈さん】
「はい、誓います」
礼さんのまわりには、どんな時も、あたたかく支えてくれる人たちがいました。
おじいちゃんは89歳になりました。
【礼さんの親友】
「こういう式が見れてほんま幸せです。いい仲間といい家族がいっぱいいて、幸せやと思います」
【礼さんと由奈さんの親友】
「礼も由奈も家族です。ほんまに弟と妹みたいな。同級生やけど」
【礼さん】
「感謝が多くて、思い返してみると、いっぱいお世話してもらったなと、これからちゃんとおじいちゃんとかお母さんたちには伝えないと。みんなのおかげで今の僕がいるので、これからも大事にしていきたいと思います」
【祖父・克己さん】
「おばあちゃんも喜んでる、おばあちゃんが一番喜んでると思う。写真見ちゃ泣き泣き、何の涙かわからんけど、涙がポロポロポロポロ出てくるねん。うれし涙やろな、おばあちゃん悔しいやろなと思ったり、いろんなことが」
【由奈さんの挨拶】
「皆様のおかげでひとつ夢をかなえることができて本当にうれしいです。おばあちゃんをこの場に直接お呼びできなかったことが私の心残りですが、礼と結婚報告をしたとき、私を見て『本当によかったね』と満面の笑みで言ってくださったおばあちゃんの顔は一生忘れません。おじいちゃん。頼りない嫁ですが、これからもよろしくお願いします」
阪神・淡路大震災を超えて。
家族はずっと一緒です。
(2023年1月16日放送)