「私79歳やけど、若い方です」 50年前の高度成長期に街開きしたニュータウンが"高齢化"に悩む かつての活気を取り戻すカギとなるか…泉北ニュータウンでは「オンデマンドバス」の実験始まる 2023年01月11日
大阪・堺市の南部に位置する「泉北ニュータウン」。高度成長期に大阪のベッドタウンとしてつくられた、大阪を代表する“ニュータウン”のひとつです。ここで新しい移動サービスの実証実験が始まりました。その背景には「ニュータウン」だけど「ニュー」ではない、街の悩みがあるようです。
■時刻表や決まったルートはない予約制の乗り合いバス「オンデマンドバス」
堺市にある「泉北ニュータウン」。区役所に停まっているのは、「NANKAIオンデマンドバス」。
「オンデマンドバス」とは、路線バスとは違って時刻表や決まったルートはない「予約制の乗り合いバス」で、今回、南海電車と南海バス、堺市がタッグを組み、実証実験をスタートさせたのです。一体、なぜ「泉北ニュータウン」に?
【南海電気鉄道 まち共創本部 今中未余子課長】
「高齢化が進んでおられたりとかで、地域にこもるというか、外に出ていくのがおっくうだわ、みたいな感じの方々も見受けられるようになってきました。そういう方々を外に引っ張り出して、もっと地域と関わりを持っていただければなと」
【堺市 永藤英機市長】(2021年12月20日定例会見)
「(泉北ニュータウンに)私も子どものころ住んでおりましたが、その時は若い家族が大変多かった印象がありますが、今、高齢化が進んで」「民間事業者の皆さまとも協力をしながら、連携をして、地域の課題解決に努めていきたい」
■かつて働き盛りの世代の夢の新天地→今、高齢化が進む
高度成長期の1967年に街開きした「泉北ニュータウン」。公営住宅の申し込みには、新天地を求める働き盛りの世代が殺到。「当選したらまるで夢のよう」とまで言われたそうです。子供の数は急増し、学校は“マンモス校”状態。活気ある住宅街として発展しました。
しかし今、泉北ニュータウンの人口は、1992年のピーク時から5万人減少。
住む人の約4割が65歳以上という高齢化が進んでいるのです。
※泉北ニュータウンの高齢化率37.1パーセント。国内全体29.1パーセント
【住民女性】
「昔からのまんまで、そのまま年代が上がっていってる」
【住民男性】
「私も79歳やけど、まだ先輩じゃないんで。若い方なんですよ」
■シニア世代の新たな交通手段となるか 「オンデマンドバス」実証実験始まる
こうした中、シニア世代の交通手段として、新たな取り組みが始まったのです。
【記者リポート】
「オンデマンドバスの停留所は、このような案内が目印となっています」
今回の実証実験は、泉北ニュータウン内の2つの地域が対象となり、駅前や病院、団地の前など合計29カ所の停留所が設置されています。
初日の1月10日、さっそく利用者が、
【82歳の利用者】
「私の場合もう年が年なんで、免許の返納を考えてますので、ありがたいです」
【利用者】
「今日は試しなんです。泉北ニュータウンのこの近隣に買い物する所もありません。90歳近いお年寄りなんか、途中で2、3回休憩しながら、買い物に行ってるんですよ」
バスは8人まで乗車でき、運賃は200円。予約は電話かウェブで30分前まで受け付けています。利用者が出発地と目的地、希望時間を伝えると、人工知能=AIが、最適なルートと乗り降りの順番を計算し、スムーズに送り届けてもらえるんです。
■利用者には好評の一方、課題も
利用者には好評なようで、
【利用者】
(おかえりなさい) 「ありがとうございます。3人と(私と相乗りで)合計4人で乗りました。別に違和感なく、誰でも利用できるなと思いました」
一方、課題もあるようで
【女性】
(Q.予約難しそうですか?) 「結局、電話でするんですか?行くんですか?」「結局、訳分からんで、よう行かんわていう人もいてはると思います」
「使い方が分かりずらい」という人もいて、利用者はまだ少ないようです。
■若い世代を取り入れることも「オンデマンドバス」実証実験の目的
そして、この実験、高齢者のためだけではなく、車を持たない若い世代を取り入れることも目的としています。というのも、
【住民の親子】
「子供は少ないと思います、この辺は特に」「夏にビニールプールを(風で)飛ばしてしまって、ピンポイントで家にピンポンって届けに来てくれるくらい、たぶん子供いてないと思います」
【住民の子供】
「そんなに遊ぶ子がここら辺にいない」「他の友達とも結構いっぱい遊びたい」
【泉北ニュータウンに50年在住の住民】
「寂しなってるわ。千里(ニュータウン)以上に寂しいんとちゃう。活気ないわ」
■「オンデマンドバス」 かつての活気を取り戻すカギとなるか
実証実験は3月10日まで行われ、状況を見て導入を検討するということです。街開きから55年。果たして「オンデマンドバス」は、かつての活気を取り戻すカギとなるのでしょうか。
住民の方にとって、「オンデマンドバス」という便利な取り組みが始まりました。
改めて、泉北ニュータウンの現状を見てみます。
■高齢化が進む泉北ニュータウン
1992年のピーク時に約16万人いた人口が、2020年には約12万人まで減ってしまいました。
さらに高齢化率は37,1%。日本の高齢化率は29,1%なので、平均を上回る非常に高い数値となっています。
ニュータウンは全国にありますが、人口減や高齢化は、共通する課題です。
ご自身も奈良のニュータウンで育ったという東京工業大学准教授・西田亮介さんは、ニュータウンに若い人たちを呼び込むことの難しさを指摘します。
【東京工業大学 准教授・西田亮介さん】
「人口動態が変わっていった時期に、都市に人口が集中して、住宅が不足した時に”団地型”で建てられたのがニュータウンです。同じような家族構成の人たちが入居したので、同じように高齢化していくわけです」
【東京工業大学 准教授・西田亮介さん】
「日本は居住権が強いので、追い出すことはできないですし、ニュータウンを畳んでいくこともできません。そうなると、今いる(高齢の)人たちの生活を維持しつつ、どうやって次の(若い)生活者を呼び込むか…を一緒に検討していく必要があります」
■”新陳代謝”が進む千里ニュータウンでは人口も増加
ただ、吹田と豊中にまたがる日本で最も古いニュータウンの「千里ニュータウン」に目を向けると、泉北ニュータウンとは対照的に人口が増えています。
下がり続けていた千里ニュータウンの住民の数は、2010年頃から増加傾向にあります。
2010年代の「街開き50年」のタイミングでマンションの建て替えが加速して、新たに転居してくる子連れの若い世代が増えたということなんです。
【新実キャスター】
「マンションを新しく建てたから人が増えたのか、住みたい人がいる需要があるからマンションを建てたのか、後者のような気もしますが…それぞれの立地も大きく影響しますよね?」
【神崎デスク】
「千里ニュータウンの場合は、通勤面を考えても大阪の梅田に直接行ける。交通面を考えると高速道路の主要出入り口に近く、伊丹空港も近いし新幹線のアクセスも良い、つまり”利便性”が高くて便利です。だから若い人の流入も増えているのでしょう」
■「なにわ筋線」の開業が泉北ニュータウンに大きなポテンシャルに
では、泉北ニュータウンは今後どうなるのでしょうか。街にとって、こんな明るいニュースもあります。
最寄り駅の泉ヶ丘駅では、2025年に事業費100億円をかけた駅前商業施設が開業予定、同じ2025年に大阪狭山市にある近畿大学病院が移転予定です。
さらに、2031年に開通を目指す「なにわ筋線」によって大阪市内へのアクセスが向上することになります。
【神崎デスク】
「(泉北ニュータウンの住民は)これまでは南海電鉄のなんば、新今宮まで行って、そこから乗り換えて大阪市内の中心部へ…という流れだった。なにわ筋線が出来たら南海の路線で行けるので、乗り換えは必要だろうけど、大阪市内のビジネス街などにスムーズなアクセスが可能になるでしょう」
こういった街の発展によって、若い世代の注目度も高まるでしょうし、泉北ニュータウンにも良い影響を与えそうです。
「利便性」と「インフラ」、中心部へのアクセスを意識した街づくりが出来るかどうか…がニュータウンの将来を大きく左右することになりそうです。
(1月11日放送)