政府は中国からの入国者を対象とした水際対策を強化すると表明しました。新型コロナの感染が急拡大している中国、その実態を取材しました。
1月5日、関西空港に到着した中国からの直行便。中国で新型コロナウイルスの感染が再拡大していることを受け、2022年12月30日から、中国からの航空便の数が制限され、直行便の到着は国内4つの空港(関西・成田・羽田・中部)に限定されました。また、中国から入国する人への抗原検査が義務付けられています。
1月4日、岸田総理は「8日より中国本土からの入国者の検査を抗原定量又はPCR検査に切り替えるとともに、中国本土からの直行便での入国者に陰性証明を求めることとします」と1月8日から入国時の検査をより精度の高いPCR検査などに切り替えると述べました。
【森雅章 FNN上海支局長】(*取材は現地1月4日)
「上海市内の病院です。きょうもたくさんの救急車が止まっていまして、今も救急車が入っていきました。」
感染者が急増しているとみられる中国。FNNが取材した病院では、多くの人たちが病院を訪れる姿が確認されました。また、中国のSNS上にも、病院に夜も次々と救急車が到着する様子が投稿されています。また、中国のSNSには、「葬儀場も混雑している」とする動画も投稿されています。
こうした感染拡大の背景となったのが、「ゼロコロナ政策」の緩和です。上海などでは2022年12月上旬ごろから、公共交通機関での陰性証明書の提示が不要になりました。1月8日からは外国からの入国者に対し義務付けてきた「強制隔離」なども撤廃されます。しかし、コロナ政策を劇的に緩和する中、中国政府が正確な情報を公開していない可能性も浮上しています。
香港メディアが報じた中国の衛生当局の内部資料によると、2022年1月1日からの20日間で、国内全体の感染者数はおよそ2億4800万人。1日平均1000万人以上の新規感染者がいた計算となります。しかし、この期間に当局が発表した感染者数は1日数千人から数万人。公式発表と実態とが大きく乖離しているとみられているのです。これは中国政府がPCR検査による陽性のみを報告していて、抗原検査の陽性はカウントしていないことや、12月13日以降は無症状者も発表しないことが原因とみられます。欧米各国は既に水際対策の強化に動いていて、日本も歩調を合わせた形となっています。
”水際対策の強化”が直撃するのは「観光業」ですが国内のあるホテルに話を聞くと…
【道頓堀ホテルグループ 橋本明元 専務取締役】
「先月で申しますと稼働率が92%くらいまで上がりましたね」
大阪・ミナミにある「道頓堀ホテル」では、ビールやアイスクリームが飲み・食べ放題などコロナ前よりもサービスを充実させ、稼働率は9割にまで回復しました。7割以上が海外からの観光客で今のところ大きな影響は出ていないようです。
【道頓堀ホテルグループ 橋本明元 専務取締役】
「台湾、韓国、香港、この3つの国が中心で今は来られてます。現在の予約なんですが、国ベースでいうと中国大陸のお客さまが今一番多くなっている、3月以降の予約が多いということは聞いています」
中国に対する水際対策はいつまで続くのか?続けるべきなのか?
FNN上海支局の森雅章支局長に現地の様子を聞きました。
【森雅章 FNN上海支局長】
「ゼロコロナ政策が大幅に緩和される中、上海では今が感染のピークという声も聞かれていて、緊張感が高いままになっています。街の中を見てもみんなマスクをしていますし、医療用のN95マスクを着けている人も多いです。目元にゴーグルのようなものを着けている人もいました。上海の専門家の中には『実は上海市民の既に7割ぐらいが感染している』という見方をする人もいます」
(新実キャスター)感染するのが当たり前みたいな状況でしょうか?
【森 FNN上海支局長】
「こちらでは人と会うと『ニイハオ(こんにちは)』とあいさつするんですが、今は、『ヤンゴーラ・マー(あなた、感染しましたか?)』と聞かれることが普通に出てきています。ゼロコロナ政策下では、感染すること自体が非常に怖いものだったので、今までなかったやりとりになります。一方で、ゼロコロナ政策下では大規模PCR検査がよく行われていましたので、感染の規模をデータ化して数値で表現されていたんですが、検査をやらなくなったので、感染状況が分かりにくくなっているのが現状です」
(新実キャスター)市民がマスクを厳重に着けているのはどういう感覚なんでしょうか?
【森 FNN上海支局長】
「『ゼロコロナ政策は厳しすぎる』と批判が高まりましたが、今回、政府によって緩和され自由になった途端に、『これほどまでに感染が広がるのか?』と市民にとっても予想外で、その揺り戻しで『マスクをした方がいい』となっていると私は思います」
専門家の関西福祉大学・勝田吉彰教授(渡航医学が専門)は、中国の新型コロナ感染の実態と感染者数の“乖離”について…
【勝田吉彰 関西福祉大学教授(渡航医学が専門)】
「かなり国際的なルールとは違うなと思います。私としては既視感があって、2003年のSARSの時も当初、北京で20人、でも実際には200人だったことが内部告発で明るみになった。今回もそういったことがどこかであるのでは、と思います」
また、ゼロコロナ政策を止めただけで中国の感染者が一気に増えた一つの要因かもしれないのが、「ワクチン接種率」です。2回以上のワクチン接種をみると全世代をみると9割を超えていますが、80歳以上をみると65パーセントあまりと日本と逆でむしろ低い数字となっています。
【勝田教授】
「本来ならば、重症化するので一番ワクチンを接種しないといけない年代。たとえ中国製のワクチンの効果が今一つとしても、もっと高齢者は接種してほしいと思う」
各国の水際対策をみてみると・・
(日本)
・入国時のPCR検査の義務化 ・出国前72時間以内の陰性証明
(フランス・アメリカ・イギリス)
・出国前48時間以内の陰性証明
など、水際対策を強化しています。こうした対策について勝田教授は…
【勝田教授】
「一番気になるのは現地で新しい変異株が出ているかどうか。水際対策のそもそもの目的は感染のピークを遅らせることです。もし何か新しいもの(変異株)があった場合、水際対策で日本に入ってきて感染するのを後ろにずらして時間稼ぎができます。また、将来、感染者が多いところで新しい変異が起きる可能性が高い。世界中がそこに注目していて、アメリカでは7つの空港で無作為抽出での検査も行っています」
WHO(世界保健機関)は、感染が急拡大している中国から送られてきたウイルスデータからは新たな変異株は確認されなかったと発表。しかし、テドロス事務局長は「中国に対し、迅速で信頼できるデータとウイルスの情報を求め続ける」とも述べています。日本も2022年12月27日に岸田首相が「入国検査での陽性者については全てゲノム解析の対象とする」と新たな変異株の警戒をしています。
こうした中、いつまで水際対策を強めるべきなのか?勝田教授は中国国内で人々の大移動がある「春節」(1月21~27日)がターニングポイントと話しています。
(関西テレビ「報道ランナー」1月5日放送)