“双子のおばあちゃん”看板娘の定食屋 89歳の妹も引退…姉の死で「決意」 大阪のオフィス街で朝早くから30年以上 いつも通りの“笑顔”で「最後の営業日」 2023年01月06日
大阪のオフィス街で、30年以上にわたって定食屋を切り盛りしてきた89歳の元気なおばあちゃん。2022年の年末での引退を決意しました。最後の営業日のおばあちゃんの姿を追いました。
■オフィス街のサラリーマンでにぎわう定食屋の名物おばあちゃん
大阪・中央区・南船場のオフィス街にある定食屋「十代橘」。手作りのカレーやお惣菜など、家庭的な料理が味わえると、お昼時にはサラリーマンでにぎわいます。
そのお店を切り盛りするのは、葛野都司子(くずのとしこ)さん。御年89歳のおばあちゃんです!
【葛野都司子さん(89)】
「カツ?ありがとうございます。カツカレーが2です」
【常連客】
「おかみさん。おいしいですねカレー」
【葛野都司子さん】
「ほんと?」
【常連客】
「最高ですよ」
【葛野都司子さん】
「どこにもないカレーやな。無茶苦茶作っているのに」
【常連客】
「ここが一番おいしいでっせ」
30年以上この店で働いてきた都司子さんですが、2022年をもって「引退」を決めました。
【常連客】
「もっといっぱい来よう思っていたのに残念。おばちゃん引退だから」
引退の理由は、共に店を切り盛りしてきた「姉」が亡くなったためです。
■双子の“看板娘”で仲良く店を切り盛り…しかし
2019年の取材時の映像…隣には、仲良く「着物」でお出かけを楽しむ都司子さんとそっくりのおばあちゃんがいました。双子の姉・都喜子(ときこ)さんです。
(2019年に取材)
【常連客】
「いなかったら、心配になるんです。看板娘」
【双子の姉・都喜子さん】
「ばばあや!」
2人は、「双子のおばあちゃん看板娘」として親しまれてきました。
姉の都喜子さんは、2度のガン手術を行い、病と戦いながら、店に立っていました。
しかし、2022年6月に都喜子さんは亡くなりました。
【姉・都喜子さんの息子 隆史さん】
「2人で1人やったんかな、あの人たちは。そんな気がするな、見ていたら、ずっと2人で生きてきて、生まれたときは一緒だったけど死ぬとき別々になっちゃったよな」
■毎朝早くから「仕込み」…30年以上のルーティーン
ある日の午前4時前…まだ辺りが暗い中、お店に現れた都司子さん。
【葛野都司子さん】
「寒いねえ。おはようございます」
提供する料理やお弁当の食材を仕込むため、1人だけ早く、お店に来ました。急な階段を上り、およそ6キロの重たいお米も運びます。
–Q:毎朝この時間から仕込みしているんですか?
【葛野都司子さん】
「30年間。今まで2人やったからな 今1人だからちょっとだけでも早く出てきたいなあと思って」
闘病中、姉の都喜子さんは「妹1人で店を切り盛りさせて、申し訳ない」と話していました。
【葛野都司子さん】
「亡くなったおかみさんが(姉・都喜子さん)が『もう働かんといて、働かんといて、つらいわ、つらいわ』って(病院で)ずっと言うてくれていたから、一番喜んでくれている。卒業したら天国で一番喜んでくれている。やっぱり自分は病気で寝ていても、私が働いていたらつらいんや。これまで一緒に働いてたからな。せやから『早よやめてゆっくりしてや』ってずっと言ってくれてたからね」
姉の思いを大切にするため、都司子さんは、残りの人生を「ゆっくりしよう」と決めたのです。
■姉と守った定食屋…“いつも通り”の「引退の日」
引退の日を迎えました。「十代橘」にはいつも通り、都司子さんの姿がありました。
店には「引退の日」を知った常連客が次々とやって来ました。
【常連客】
「いつもお昼ごはん食べさせてもらっていた」
【葛野都司子さん】
「ありがとうございます」
【葛野都司子さん】
「まあいらっしゃいませ」
【常連客】
「会いに来た」
【葛野都司子さん】
「ようこそお見えくださいました。どうぞどうぞ」
【常連客】
「最後悲しい。良くしてもらったんですけどね。見たら涙が出る…」
それぞれのお客さんと「思い出」ばなしをする都司子さん…
【葛野都司子さん】
「『己に厳しく人に優しい』ってのは先生から教わった。それを守ってんねん。そしたらみんながついてきてくれる。大体ね、“己に優しく人に厳しい”、みんな。せやけど私は絶対ちゃうと思うで」
長年、都司子さんが大切にしてきた思いです。
【常連客】
「今日で最後って?」
【葛野都司子さん】
「懐かしい人やんか。わざわざ会いに来てくれたん」
【常連客】
「今日最後やって聞いたから」
【葛野都司子さん】
「お母さん(姉・都喜子さん)も亡くなったしな。お母さんがな『いつでも働かんといて頼むから、私つらいからはよゆっくりして』って。1人やったらつまらんわ。今までずっと一緒やったから…それは仕方ないよな」
常連客と話しながらあふれる涙を拭う都司子さん。
「人のために…」と定食屋に立ち続けた双子のおばあちゃん。これからは都喜子さんの息子・隆史さんに店は受け継がれていきます。
しかし、営業終了後、店には引退したはずの都司子さんの姿が…
【葛野都司子さん】
「晩のオードブルの注文入ってんねん。それ今から作るねん。お昼まではあかんな。また晩までやな。お昼までだったらいいんやけど、なかなかそうはいきませんわ」
姉・都喜子さんと2人で30年以上…引退はしましたが、「接客はしないけど、たまには店に行くことがあるかもしれへん」と都司子さん。名物双子の看板娘の”思い”は店に受け継がれています。
(2023年1月4日放送)