“コロナ後遺症”の国内最大規模調査 約4000人感染者「回答」で47.7%に何らかの後遺症が 阪大・忽那教授「20人に1人が1カ月後も…軽視できない」 2022年12月14日
回復後も続く新型コロナの後遺症について、大阪府豊中市や大阪大学などが実施した、国内最大規模の調査の結果が発表されました。果たしてその実態とは。
■2年に及ぶ苦しみも…
新型コロナの第8波。大阪府では3カ月ぶりに新たな感染者が1万人を超えるなど、感染が広がっています。
感染者が増える中で懸念が高まるのが、回復後も症状が続く新型コロナの後遺症です。
【街の人は…】
「話を聞くけど…味がしなくなるとかね。鼻が匂わなくなるっていうの話は聞いたことあります。実際、友達でそういう人いますからね」
「(回復後も)体が温まったときとかは、せきが止まらないようになったりしましたね。せき自体は今でも出ます。先月の中旬ぐらいから、頻繁ではないんですけど出ますね」
中には、重い症状に苦しむ人もいます。
2022年1月に感染した小学6年の男の子は、40度ほどの発熱が治まった後、腹痛が続き、学校にも通えなくなりました。痛みがあった神経を取り除く手術を受け、一度は学校にも通い始めましたが、1カ月後には強い倦怠感(けんたいかん)が出て腹痛も再発。症状は、12月になった今でも続いています。
【男の子】
「倦怠感は『もしかしたら治るかもしれない』っていう希望はあるんですけど、やっぱり腹痛が全然治る兆しがないので、やっぱり不安で。勉強やっててもやっぱり全然できないので、不安がもっと出てくる」
2020年1月にコロナに感染した20代の大学院生は、強い倦怠感と、思考力が低下してしまう「ブレインフォグ」に苦しんでいます。
一時は寝たきりの生活になってしまい、およそ2年がたっても体調は回復していません。
【20代女性】
「良くなったり悪くなったりを繰り返して、全体的にはまだ社会復帰は困難な状態です。(症状が)改善して自分で電車で通学できるぐらい元気になったと思ったら、動けなくなって1日中ベッドから起き上がれなくなる日があったりと、すごく波が激しい」
女性は現在、大阪市内のクリニックで炎症を起こしている上咽頭に薬を塗る「EAT」という治療を受け、少しずつ症状は改善してきているということです。
「EAT」は保険適用があり、1回の治療で通常1000円以内の負担額ですが、他にも自費診療で漢方や鍼灸、サプリメントなどの様々な治療を受けているため、その合計の治療費は月6万円にも上っています。
【20代女性】
「今は元気さを保てているんですけど、これって大量の治療をしているからで。その治療をやらなくなったらまた病人の状態に戻ってしまうと思うと、一生、これだけの治療費をかけ続けなきゃいけないのかなって考えるとすごい不安です」
【田中耳鼻咽喉科 田中亜矢樹医師】
「たいていの方は罹患(りかん)されても非常に軽症で済んでしまうんだけど、その中でなぜか分からないけども、長引いてしまう“ロングコビット(後遺症)”というのは。社会全体で認知することで、それに対しての例えば行政とか、さまざまな面でのサポートがやっぱり必要だと思いますね」
■大規模調査の結果は
コロナが陰性となった後でも続く苦しみ。このような後遺症について国内最大規模の実態調査が行われ、12月14日に結果が発表されました。
【大阪大学大学院 感染制御学 忽那賢志(くつな さとし)教授】
「20人に1人が1カ月後、27人に1人が2カ月後に後遺症があるのは、決して軽視できる頻度ではないだろう」
豊中市と大阪大学大学院などは、コロナにかかった人およそ2万7000人に、後遺症の有無やその症状についての調査を実施。およそ4000件の有効な回答が得られました。
【忽那教授】
「オミクロンは、重症化する人はすごく減っています。ただ、普通は後遺症がない風邪とは同等ではない。社会に大きな影響を与えている」
調査結果によると、コロナの自宅療養が終わった後も症状が続いていた人は47.7パーセント。
1カ月後にどのような後遺症があったのかについては、職場の復帰が難しいなどの「日常生活に支障があった」と答えた人が1.61パーセント、「脱毛」が1.41パーセント、「せき」が1.28パーセントとなりました。
さらに忽那教授は、こんな指摘も。
【忽那教授】
「ワクチン接種者では後遺症が起こりにくい傾向が、有意ではないが傾向はありましたので。特に重症化リスクの高い方はワクチン接種をしていただいて、基本的な感染対策を続けていただくのがいいかなと思います」
今後も増えることが懸念され、誰がなるか分からないコロナ後遺症。今回の調査で、どんな傾向が見えてきたのでしょうか。
■調査を行った忽那教授がQ&Aで「解説」
倦怠感・味覚障害など、さまざまな症状がある後遺症。今回の調査では、約4000件のうち47.7パーセントが、何らかの後遺症があると回答しました。
調査と解析に携わった大阪大学大学院の忽那教授に、この結果について詳しく聞きます。
――Q:この47.7パーセントというのはどういう数字ですか?
【忽那教授】
「後遺症というと、少し語弊があるかもしれません。自宅療養が終わって職場などに復帰する段階で、約半数の人に何らかの症状が残っていたということです。後遺症というとすごく長引いているように思えますが、自宅療養が終わった直後に症状が残っている人の割合です」
調査時の隔離期間は10日だったので、10日後にせきが残っている、といった人も含んだ数字ということになります。
しかし、より長く症状が続いたという人もいます。後遺症が30日以上続いた人の主な後症状として、倦怠感・脱毛・せきなどが挙げられます。
――Q:これらの症状について、コロナとの因果関係は確実にあるのでしょうか?
「今回の調査はコロナに感染した人のみを対象にしています。『コロナに感染した後にこういう症状が出た』というもので、その原因がコロナにあると断言することはできません。証明するためには“コロナに感染していない人”と比較する必要があるんですが、それはまた次の段階ということになります。これらの後遺症のメカニズムはまだはっきりしていませんが、例えばウイルスが少量残っていて炎症が起きるとか、免疫が過剰に反応し続けているとか、腸の中のばい菌のバランスが崩れているとか、そういった複合的な要因があるんじゃないかと考えられています」
――Q:何らかの症状が30日以上続いた人が5.2パーセント(20人に1人)、60日以上続いた人が3.7パーセント(27人に1人)ということですが、外来でも実感されますか?
「2020年~2021年に調査した結果だと、頻度はもっと高かったんです。おそらくオミクロンになってから、後遺症が出る人の割合自体は減っていますが、これまでと違って感染者の母数がすごく増えている中での5パーセントということですから、社会的には決して軽視はできないのかなと思います。ただ、今回のアンケートはあくまでご協力をお願いしているものなので、軽症で何も後遺症がないという人は答えにくい傾向にあると思います。そういう意味では、後遺症の割合が少し多めに出ている可能性は、大いにあります」
――Q:30日以上、60日以上で後遺症の割合は減少傾向にありますが、さらに長期になった場合もだんだんと減っていくんでしょうか?
「100日では2.5パーセントぐらいまで減っています。これまでの他の研究でも、時間がたてばたつほど、基本的には症状は消えていくということが分かっていますので、ほとんどの人の症状がなくなっていくだろうと考えられます」
■後遺症が出やすい人は
さまざまな条件下で、後遺症が出やすい人・出にくい人というのもある程度分かってきています。
女性は男性の1.1倍、重症患者は軽症患者の5.4倍と、それぞれ後遺症が出やすいとされています。
――Q:女性の方が出やすいんですか?
「私たちの研究では、明らかに女性の方が多いということはなかったんですけど、これまでの海外の研究でも、女性の方が後遺症を訴える人が多いと言われています。急性期は男性の方が重症化しやすいんですけど、後遺症は女性の方が出やすいというのは、今までも言われていました」
――Q:重症患者は男女問わず、軽症患者の5.4倍症状が出やすいというのは明らかなんですか?
「これは統計学的にもはっきりしています。重症患者の方が後に後遺症を起こしやすいということは言えそうです」
――Q:男性の方が重症化しやすいというデータがある中で、後遺症は女性の方が多いということは、女性に何か要因があるんでしょうか?
「何が要因かは分かりませんが、女性の方が後遺症が出やすいというのは間違いないと思います」
――Q:治療薬の使用は後遺症に影響しますか?
「『治療薬を使った方が後遺症が出にくい』と言えれば良かったんですけど、残念ながら今のところは言えません。後遺症を防ぐために治療薬を使った方がいいのかは、現段階では分かりません」
――Q:日本では重症化リスクのある人に治療薬を使用するので、重症化するかどうかという別の因子もかかってきますね。治療薬の早期の投与が後遺症に影響するかといったデータは取れるんでしょうか?
「日本では難しいかもしれません。海外だとパキロビッドという薬を処方された人の方が後遺症が出にくいといったデータが出ているので、日本でもそういったデータが今後出てくる可能性はあるかもしれません」
――Q:理屈上は、薬の初期の投与が後遺症防止につながる可能性があるということですね。ワクチン接種の回数はどうでしょうか?
「海外の研究でも言われていたことですが、ワクチン接種の回数が多いほど、後遺症が出にくい傾向がみられました。ワクチンを打っている人の方が重症化しにくいので、そういう意味でも後遺症が出にくいということだと思います。後遺症にならないためにも、ワクチン接種は重要だと言えると思います」
――Q:私たちが体験したことのないパンデミックという状況下で、精神的な影響があった可能性もありますか?
「これだけ社会が大きく変わっている状況なので、コロナに感染していなくても、集中力が低下したりしている人はいると思います。それがコロナによるものかを明らかにするには、コロナに感染していない人と比較しなければならないので、今後さらに別の研究が必要になると思います。国が予算をつけて、より大規模な、感染していない人も含めた研究をしていくことが必要だろうと思います」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月14日放送)