「人出」が増えても「人手」が不足 全国旅行支援と規制緩和で押し寄せる観光客 飲食業・観光業界は困り顔も… 日本経済にとっては今がチャンス? 2022年12月13日
人出が増加している京都の飲食店やホテルが、今、深刻な人手不足に陥っているといいます。その背景を取材しました。
■時給アップでもバイトが来ない…
平日でも大行列ができる京都指折りの人気ラーメン店「本家第一旭 本店」。
豚骨しょうゆのスープに九条ネギが特徴の創業70年以上の名店ですが、最近、特に客足が増えたといいます。
【本家第一旭 本店 森田孝祐社長】
「海外の方と(国内の)観光客と、最近はめちゃめちゃ人が多いですね(Q:急に増えた?)そうですね。この1カ月くらいでめちゃめちゃ増えましたね」
その理由の一つに、10月から始まった「全国旅行支援」や、水際対策の緩和による海外からの観光客の増加があります。観光庁の調査によると、10月の国内宿泊者数は、去年の10月と比べ、38パーセント増加しました。
その一方で大きな懸念も…。
帝国データバンクが約1万1000社を対象にした調査によると、飲食店の76.3パーセント、旅館・ホテルの75パーセントが、パート・アルバイトなどの「非正社員が不足している」と回答。正社員の時間外労働の増加につながっているといいます。
このラーメン店では、9月から時給1000円でアルバイトを募集しましたが、問い合わせが1件あっただけで採用には至らず。12月に入ってさらに時給を1100円に上げたものの、問い合わせすらない状況だといいます。
【本家第一旭 本店 森田孝祐社長】
「今2人ぐらい欲しいですね。飲食店がそんなに人気じゃない、バイトするには。特に僕のところは忙しいですし、ハードワークじゃないですけどそういう印象があるのかな。雇用している人は少なくなってるのに来客数が増えているので、なかなかしんどいですね、今は」
政府は12月13日、年末年始を除外した上で、年明けの1月10日から「全国旅行支援」を再開することを発表。人手不足の懸念は来年も続くとみられます。
■「全国旅行支援」はありがたいけれど…
深刻な人手不足に悩まされている業界は、他にも。
【京都プラザホテル 京都駅南 清水洋平支配人】
「全国旅行支援の事前準備ですとかチェックインの際の手続き、これの煩雑な状態によって、人手不足が顕著になっているという状態です」
「全国旅行支援」の影響で客足が戻ってきているのが、ホテルや旅館などの観光業です。
【京都プラザホテル 京都駅南 清水洋平支配人】
「急速にお部屋の稼働が高くなりましたので人手不足というところがあるんですが、今は外国人のスタッフに頼らざるを得ないという」
このホテルでは、ラオスからやって来た外国人技能実習生4人を迎え入れ、清掃業務など人手不足に対応しています。
しかし「全国旅行支援」が始まったことで、宿泊客に渡す割引クーポン券の準備など、これまでになかった業務が発生。スタッフの仕事がひっ迫しているといいます。
【京都プラザホテル 京都駅南 清水洋平支配人】
「本当にありがたい制度ですけど、ちょっと手続きとかに煩雑な部分をなんとか解消してほしいなというのが本音です」
特に人手が不足している「飲食店」や「観光業」について、街の人は…
【街の人】
「コロナ禍でお客さんが減ったんで従業員を減らしてたじゃないですか。皆さん他にも職業を見つけたりしてるとかがあるのかな」
「1回辞めてそっちの良さを知って、また戻ろうって気持ちづくりからするのがしんどいのかなって」
人出は増えているのに深刻な人手不足…この問題はどう解決すればいいのでしょうか。
■「人手不足はチャンス」 その意図は?
帝国データバンクが調査した、非正社員の人手不足を感じている業種別の割合では、「飲食店」が76.3パーセントと最も高く、僅差で「旅館・ホテル」が75.0パーセントと続いています。
今回取材した京都のラーメン店は、「コロナを受けて人手を減らさざるを得なかったが、最近は外国人観光客が増えて人手が必要になった。時給を上げて募集しているが、人手は戻っていない」という状況だそうです。
現場からは悲鳴の上がる現状ですが、報道ランナーに出演する経済学者の安田洋祐教授は、「日本にとって人手不足はチャンス」だとみています。
【安田洋祐教授】
「まず人手不足が起こる背景として、お客さんが戻ってきている。景気が良くなっているということで、それ自体はいいことです。急に人材を確保することは難しいかもしれないですけど、従来と比べて時給を上げていく。今、物の値段が上がり始めているので、人気店は価格転嫁をしやすくなっていて、それが賃金アップにもつながる。また、タブレットを使用した省人化・省力化の取り組みもこの2~3年で随分進んでいます。急激に需要が増えたので難しいとは思うんですけど、長い目で見ると、賃金アップとデジタル化への投資で生産性を高めることで、日本経済全体を強くする方向に向かっていくと思うんです」
――Q:今すぐに賃金を上げることが難しいお店は、つぶれるという可能性も…?
「厳しいお店も出てくるとは思うんですけど、その背後に、お客さんがたくさん来て値上げもできてどんどんもうかるお店も増えていく。そっちに従業員やお客さんがシフトすると、全体としてはいいものがたくさん生まれて、競争力もついていく。そういった、広い意味での産業構造の緩やかな転換を、進められるときに進めるということも大切だと思います」
関西テレビの神崎デスクは、人手不足解消には「シニアの力を借りる」という手もあると提案します。
【関西テレビ 神崎デスク】
「コロナ禍の2年くらいで、外国人留学生や技能実習生がビザの関係で日本に来れなくなっている。なので、外国人に任せたくても人がいないという状況です。今後少子化で、若い人もどんどん減っていく。そう考えると、シニアでも働ける方はまだまだいるので、省力化をした上で、飲食や観光にシニアの力を借りるというのは一つの手かなと思います」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月13日放送)