地下道冠水で72歳女性死亡…遺族が「県と市は安全対策を怠った」と訴え 1年前に2メートル冠水も対策取られず スロープは「市道」、地下道は「県道」も混乱の一因に 2022年12月08日
2022年7月、滋賀県近江八幡市の地下歩道が大雨で冠水し、72歳の女性が死亡しました。
12月8日、女性の遺族が会見を開き、「県や市が安全対策を怠った」として訴えを起こすことを明らかにしました。
■わずか1時間足らずで水位が上昇
【亡くなった岩田さんの長男・木下応祥さん】
「1年前から対策を取っていれば、母は亡くなっていなかったのではないか。私はどうしても納得できない」
滋賀県や近江八幡市を相手に訴えを起こす、木下応祥さん。2022年7月19日、母・岩田鈴美さん(当時72)が大雨で冠水した地下歩道「アンダーパス」で溺れ、死亡しているのが見つかりました。
事故のあった日、近江八幡市では朝から強い雨が降っていました。
【記者リポート】
「岩田さんは線路の向こうにある自宅へ帰るため、こちらのスロープを下りて地下歩道を通ろうとしていました」
岩田さんは午前11時半ごろ、太極拳の教室を終え、コミュニティセンターを出発。自宅への最短距離でもある、アンダーパスを利用しようとしました。しかし、その時すでに地下道では異変が起こっていました。
現場の監視カメラには、午前11時の時点ではほとんどなかった水が、20分後には地面を覆う様子が映っています。
その後も水位は上昇し、正午には、水が天井まで迫っていました。
当時、近江八幡市には1時間におよそ90ミリの猛烈な雨が降り、記録的短時間大雨情報が発表されていたのです。
岩田さんが亡くなったとされる正午ごろ、水位は深いところで3メートル程の高さにまでなり、スロープもそのほとんどが冠水していました。
午後3時半ごろ、岩田さんは地下道で水に浮いた状態で見つかり、その後、死亡が確認されました。
岩田さんがなぜスロープの中に入ってしまったかは分かっていませんが、息子の応祥さんによると、岩田さんは足腰も丈夫で認知症などもなかったということです。
【木下応祥さん】
「恐らく母は(アンダーパスに)入っていったのは、冠水しているとは気付かず、途中までは行ったと思うんです。で、引き返したというように思います。(対策)できることは看板などあったのではないか。母もそれがあれば、アンダーパスに入るまでにはいかなかったのではないか」
■市道?県道? 行政の混乱
事故当時、行政側も混乱していたことが分かっています。
スロープは市道、その先の地下道は県道と、道路の管理が「市」と「県」で分かれていたため、対応が遅れたのです。
事故当日の午前8時半すぎ、「アンダーパスが冠水している」と、近くの中学校から市に連絡が入ります。市は管理者である県に連絡を入れましたが、市としては動きませんでした。
午前11時半ごろ、再び中学校から連絡を受けた市は県に連絡。県は現場の冠水を確認し、正午過ぎに「県道」だけを封鎖してそれを市にFAXで連絡しました。しかし市はそれに気が付かず、「市道」は封鎖されませんでした。
結局、岩田さんが通った「市道」のスロープが通行止めになったのは、岩田さんが発見されてから1時間以上後のことでした。
このアンダーパスは、2021年にも約2メートルの冠水があり、県が「冠水想定箇所」に指定していました。
岩田さんの息子の応祥さんは、「入り口の閉鎖や注意喚起など安全対策措置を怠った」として、近江八幡市や滋賀県に、約4000万円の損害賠償を求めています。
【木下応祥さん】
「1年前に同じような冠水が起こったにも関わらず、今回、母が亡くなった事故が起きたことからしても、冠水していたということを、近江八幡市が軽視していた」
応祥さんは「事故を繰り返さないため、アンダーパスの危険性を知って安全対策につなげてほしい」と訴えています。
■アンダーパスの危険性
アンダーパスは、全国に約3700カ所あるとされています。自動車が冠水するリスクは知られていますが、これまで歩行者への危険は大きく取り上げられてきませんでした。
京都大学の防災研究所で行った「実験映像」を見てみると、アンダーパスの危険性がよく分かります。上から水が流れてきている状態で、人が階段を上ることができるかという実験ですが、大人の膝下くらいの高さの水流でも大きな圧力がかかり、手すりを掴まないと立つことも困難になります。
7月に起きた事故が同様の状況だったかは分かりませんが、途中で地下道の冠水に気付いたとしても、水流がある中でスロープを引き返すことは困難だったと考えられます。
こうしたアンダーパスの危険性から、遺族は「行政は注意を呼び掛ける看板を設置するなど対策が必要だった」と主張していますが、行政側には、標識や看板を設置する基準やルールがないのが現状です。
水に関する防災に詳しい立命館大学の里深好文教授は行政の対応について、「予算や人員のバランスを考えると、すべてのアンダーパスに警報装置などハード面の整備をすること自体が難しい。特に危険なアンダーパスを把握し、そこに絞って対策を打つべき」と指摘します。
現場のアンダーパスは、事故の1年前にも大雨の影響で約2メートルの冠水があった場所でした。関西テレビの神崎デスクは、予算をかけて対策を取った方がいい場所だったという考えです。
【関西テレビ 神崎デスク】
「特に今回の場所は危険なことが分かっていました。そういった場所はいくつもあるわけではないので、そこに予算を絞って、監視カメラで一定の水位になったらアラートが発されるソフトウェア、赤色灯を回転させる水位計や、自動的にゲートが閉まる装置もあります。予算はかかりますが、人の命がかかることなので、そういった対応を取っている自治体もあります」
また、防災士の資格を持つ片平敦気象予報士は、「水が流れる中で歩くのは非常に困難。大雨の際にアンダーパスに入るのは避けてほしい」と呼び掛けます。
大雨の際のアンダーパスは冠水の危険性があるということを私たち自身が認識した上で、行政には、再発防止のための取り組みが求められます。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月8日放送)