澤穂希さん&加地亮さんに聞く 勝ちを生んだのは前田の「鬼プレス」 堂安のメンタル そして三笘の「執念のクロス」 サッカーの男女レジェンドによるスペイン戦ポイント解説 2022年12月02日
サッカーFIFAワールドカップ・カタール大会で、日本がスペイン相手に歴史的逆転勝利を収め、決勝トーナメント進出を決めました。
ドイツワールドカップ代表の加地亮さん、2011年の女子ワールドカップで、キャプテンとしてなでしこジャパンの優勝に貢献した澤穂希さん、日本サッカー界のレジェンド2人に、勝利のポイントを聞きます。
■グループ首位で決勝トーナメント進出
日本は優勝候補の一角とされたドイツ、スペインに勝利し、2勝1敗の勝ち点6、グループE首位で決勝トーナメント進出を決めました。
――Q:この奇跡をどう見ますか?
【加地さん】
「奇跡じゃない、実力です。トレビアン!!」
【澤さん】
「ヨーロッパの強豪チームに勝ち切るっていうのは非常にすごいこと。衝撃でした」
――Q:森保監督はスペイン戦後の会見で、「なでしこジャパンはチームとして粘り強く、相手の良さを消しながら戦う。しっかり球ぎわのところで一人一人が責任を持っていて、彼女たちがW優勝で得た成功体験から学んでいる」と言っていたそうですね
【澤さん】
「森保監督がなでしこの試合を見てくださっていたことに驚きです。前線から前田選手がいいプレスをして、チームとして相手のいやなところを消していくというのが今日の試合で見られました」
■今大会2ゴール 堂安律選手のメンタルの強さ
決勝トーナメント進出を決めたスペイン戦について、詳しく見ていきます。後半3分、強烈な左足で同点ゴールを決めたのは、後半頭から出場した堂安律選手でした。
――Q:このシュートのすごさはどういったところですか?
【加地さん】
「いい守備からの攻撃なんですけど、トラップした瞬間にシュートを打つのは決めていました。後は遠いファーサイドに打つのか、ニアサイドに打つのかの決め打ちはしてたと思うんですけど、ある程度ファーサイドに打てるようなモーションも取りつつニアも蹴れるよっていう。キーパー心理からすると、どっちに蹴ってくるか非常に分かりづらい。キーパーの判断は少し遅れますし、その中でニアの、あれだけ早いボールを蹴られる、しかもちょっとぶれてるんです、球が。その辺で、キーパーも判断ミスというか、弾けなかったシーンでしたね」
――Q:ぶれるというのは、無回転ぎみということですか?
【加地さん】
「無回転ぎみのような。最初、ちょっと揺れるんです。気持ちで打ったシュートなので狙ってはないと思うんですけど。最後はほんと振り抜いたっていう感じではありましたし。この球の勢いでとなると、意表を突かれたと思います。キーパーも一瞬右に動いてるんですよ。そういうところでも、堂安選手の気持ちとテクニックが詰まったシュートだったと感じます」
――Q:堂安選手は「自分がヒーローになる」と試合前から言っていましたが、だからこそできるトラップやシュートだったんでしょうか?
【澤さん】
「有言実行の方ですよね。言ったらちゃんとやり切る、結果として残すのはすごいことだと思います」
――Q:メンタルの強さを感じさせますよね。お2人も現役時代、「私のコース」といった気持ちは…
【澤さん】
「全くありません」
【加地さん】
「シュート打たなかったですもん、僕。守備では間合いとかはありましたけど」
――Q:「ゴールに向けて俺のコースがある」といった姿勢は、選手としてどうですか?
【加地さん】
「すごいですね…昔で言えば『デルピエロゾーン』とかありましたし。小学生とかは今日、『堂安コース』『堂安ゾーン』って言いながら打ってるんじゃないですか」
――Q:今回、26人中22人がヨーロッパのクラブに所属している選手ですけど、昔の代表の雰囲気とは違うんでしょうか?
【加地さん】
「違うと思いますね、より個が強くなっている。縦に速い、スピード重視のサッカーになってると思います。相手からすると怖さはありますよね。つなぐサッカーというより、スペインのサッカーより速いサッカーというところは、個という意味で強くなっていると思います」
【澤さん】
「普段からヨーロッパでやっているので、相手のスピードやテクニックに、体も慣れているんですよね。そのおかげで本番でも(力を)出し切れているなと感じます」
■執念の鬼プレス 前田大然選手
後半3分、堂安選手のゴール直前のプレー。前田選手がキーパーに向かって何度も猛烈にプレスします。キーパーが左サイドへパスして切り抜けようとしたこぼれ球に伊東選手が飛び込み、結果、堂安選手のゴールにつながりました。
――Q:堂安選手のゴールですが、その前に前田選手がキーパーにプレッシャーをかけているんですね
【加地さん】
「サッカーでいう『ファーストディフェンダー』がどれだけハイスピードで相手を追いかけるかというのが非常に大事で、前田選手はそのスイッチ役として全速力で相手を追いかけて、それに対して後ろの選手がついていくという連動ですね。連動のファーストディフェンダーになれる、非常に重要な選手です」
――Q:前田選手が行ったらみんなが行く、という決まりなんですか?
【加地さん】
「暗黙の了解で決まってます、『今がかけ時だ』という。前田選手がジョギング程度で走っていくと、スイッチにはならない。あれを時速30~40キロでグッと行くと、一気に加速がパッと加わります。全体の連動です。ただ、結構迷惑な面も…」
【澤さん】
「後ろがついてこられないときありますね」
【加地さん】
「後ろが『前田さん、まだ行かないでよ』っていう。『今ちょっと疲れてるんでペース上げられないよ』っていう人もいるので。でも誰かがサボるとこのプレスははまらないんですよ。一人一人についていくんで」
――Q:これはあるあるなんですか?
【澤さん】
「あるあるです。このチームでは多分、前田さんが、前線でプレーするスイッチを入れているんですよね。それについていかないと、後ろも取り切れないんです。前田さんがコースを限定してくれることによって、後ろが狙いやすい、守備をしやすい、ボールが取りやすいというのがあります」
【加地さん】
「澤さんはどういうタイプでした?」
【澤さん】
「無理だと思ったら『行くな』と声掛けをして、一度後ろに下げてセットしなおしました。取れるときには『行け!』って言っていました」
――Q:今回前田選手がこれだけ走っていたということは、スイッチをいれる瞬間が何回もあったということですか?
【加地さん】
「ありましたね。特に後半の立ち上がりにそれが効きました。だからあの2点が生まれたんです」
――Q:これは疲れますよね?
【加地さん】
「めちゃくちゃ疲れます」
【澤さん】
「後ろがついてきてなかったら、『何で!』ってなります」
――Q:前田選手は後半の途中で交代しましたが、森保監督の中では…
【澤さん】
「『行けるところまで行け』っていう感じだったんだと思います」
【加地さん】
「一番しんどいのは、両サイドの伊東選手と三笘選手ですけどね。距離も長いんですよ」
【澤さん】
「でもこうやってプレスをすることによって相手のミスを誘うので、チームとしての連動が大切だと思います」
■鬼スピードで執念のクロス 三笘選手
後半6分、田中選手のパスを堂安選手がセンタリングしますが、相手ゴールの左ラインから出そうになります。そこに三笘選手が猛然と走り込んで、間一髪で中央にクロスを送り、田中選手の逆転ゴールにつながりました。
【加地さん】
「これは一番の大外から三笘選手が来てるんですけど、堂安選手が右足で放ったクロスに対して、打った瞬間のスピードの加速力がすごい。僕だと余裕で間に合ってないです。よくここで追い付いたなと思いますもん」
――Q:これがラインの外に出たかどうかで、VAR判定になりましたね
【加地さん】
「真上から見たときに、線に1ミリでもボールがかかっていたらプレーオンなんです。テクノロジー、VARのいいところでしたね」
【澤さん】
「VARがなかったらアウトでしたよね」
――Q:VARは選手にとってどうなんですか?
【澤さん】
「どっちもどっちですね…」
【加地さん】
「攻撃側からするとありがたいけど、守備側からすると『いや出てるでしょ!』ってなりますよね」
――Q:三笘選手があそこに追い付いたというのは
【澤さん】
「最後まで諦めない、執念です。クロスもただ普通に転がすだけだと、キーパーかディフェンスに取られていたと思います。でもちょっと浮いていました。意図的にやったのかは分かりませんがすごかったです。あそこで浮いたからこそ、中にクロスが上げられたんだと思います」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月1日放送)