「自分で育てたかった」赤ちゃんの遺体を遺棄した母親に有罪判決 これまでに8回ほど妊娠 「言い出せなかった」が招いたパパ活の結末は 2022年12月01日
2022年9月、和歌山県白浜町のホテルで乳児の遺体が見つかった事件。遺体を遺棄した罪に問われた母親に、12月1日、有罪判決が言い渡されました。
「自分で育てたかった」と話した母親は、なぜ赤ちゃんの遺体を遺棄したのでしょうか。
■赤ちゃんの遺体を遺棄した母親 有罪判決
和歌山県白浜町のホテルで、生後間もない赤ちゃんの遺体を遺棄した罪に問われた山田桃子被告(31)。
12月1日、和歌山地裁で「懲役2年、執行猶予3年」の判決を聞いた山田被告はうっすらと目に涙を浮かべ、鼻をすする様子も見受けられました。
山田被告は2022年9月、両親や自分の子供たち、合わせて9人で訪れていた白浜町のホテルで男の赤ちゃんを出産。その後、赤ちゃんの遺体を大浴場の脱衣所のごみ箱に遺棄したとして、逮捕・起訴されました。
家族旅行中での出産と遺棄という不可解な事件。関係者によると山田被告は、「産んだ後、心臓の音が聞こえなくなったので捨てた」と述べたということです。
■両親に隠して出産
関係者によると、山田被告はこれまでに8回ほど妊娠。今回遺棄した子供は、生活費を稼ぐために行っていた「パパ活」の中での妊娠でした。
事件当時、誰が見ても妊婦と分かるほどお腹が大きかったという山田被告。しかし、両親は彼女の妊娠を知りませんでした。
山田被告は周囲にひたすら妊娠の事実を隠しながら、当日、家族が食事に出ている間に1人、部屋のトイレで出産しました。
家族に妊娠を隠していたことについて山田被告は、「過去に第2子を妊娠した際、両親に中絶を勧められたが出産し、その子は養子に出された。今回も両親に知られたら養子に出されると思い、妊娠を言えなかった。自分で育てたかった」と、養子に出されたくなかったという思いから妊娠を言い出せなかったと、裁判で明かしました。
■矛盾する主張
山田被告は遺棄した子供を「育てたかった」と供述する一方、母子手帳は作っていませんでした。
【検察】
「出産後、どのように育てるつもりだったのですか」
【山田被告】
「生まれた後のことは考えていませんでした」
【検察】
「大切に思っていた赤ちゃんを、ごみ箱に捨てたんですか」
【山田被告】
「大切な赤ちゃんにする行動ではなかったが、そのときは、この子の存在がバレないようにという気持ちが強く出てしまった」
検察は、「被告は母親から再三に渡り妊娠していないか問いただされたにも関わらず打ち明けず、病院も受診していなかった。極めて身勝手な犯行」だと指摘しました。
12月1日、和歌山地裁は「犯行に至る経緯や動機はいずれも短絡的で無責任なものであり、酌むべき事情があるとは認められない」として、山田被告に対し、懲役2年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。
■記者が見た山田被告
非常に不可解な点の多い事件。裁判で明らかになった家族との関係などについて、事件発生当初から取材を続け、今日12月1日の裁判も傍聴した谷口文乃記者に詳しく話を聞きます。
――Q:法廷での山田被告の様子は?
【谷口記者】
「山田被告は判決を言い渡されたとき、目がわずかにうるみ鼻をすするなど、少し泣いているようにも見える表情で裁判官の言葉を聞いていました。今日の法廷には山田被告の父親も姿を見せ、神妙な面持ちで山田被告を見つめていました」
「判決後は言葉少なに法廷を後にしました。これまでの裁判で山田被告は『自分で産んで育てたい気持ちが強かった』ことや、逮捕後に、遺棄した子供に名前を付けて手紙を書き、両親に棺桶の中に入れてもらったことなどを明かし、遺棄した赤ちゃんに対して母親としての思いがあったことは感じられました」
「ただ関係者によると、山田被告はこれまでに8回ほど妊娠を繰り返していて、うち1人は自分で育て、1人は養子に出したことが分かっています。また仕事をしていないことを両親に言い出せず、パパ活で得たお金を“給料”として両親に渡していたことや、今回遺棄した赤ちゃんの父親が分からないことも、両親に言い出せなかった理由だと裁判で話していました。こうした嘘や秘密を重ね続けたことがきっかけで、山田被告は1人妊娠の事実を抱えたまま出産、遺棄に至ったのだと感じました」
――Q:少なくとも8回の妊娠を家族は知っていた?
「両親は何回かの妊娠は知っていたということですが、全ての妊娠を知っていたわけではなかったようです」
――Q:8回の妊娠のうち、育てている1人と養子に出した1人以外は?
「妊娠後どうなったかは明らかになっていませんが、関係者は『出産には至っていない』と話していました」
――Q:どうしてこのような結果になったと考えられる?
「山田被告は一度産んだ子供を養子に出された経緯があり、またそうなることを恐れて、今回の赤ちゃんの妊娠を言い出せなかったと裁判で話していました。一方、父親は初公判の法廷で『ちゃんと家族で話せばよかった』と述べていて、家族の間で少しでも悩みを打ち明けられる関係があったら、違った結果になっていたかもしれないと強く思いました」
――Q:一緒に旅行するなど、一切の会話がない家族ではなかったようだが…
「弁護士や関係者によると、家族の仲は良かったそうです。ただ実際には妊娠やパパ活を言えなかったということで、深い話をする関係ではなく、表面上、仲が良い家族として過ごしていたのではないかと私は感じました」
■痛ましい事件を繰り返さないために
繰り返される痛ましい事件。育てられない子供を親が匿名で預けることができる“赤ちゃんポスト”や”内密出産”を運営する、熊本市の慈恵病院の蓮田健院長は、事件に至る女性たちの多くは、家族との関係に問題を抱えていて、妊娠を絶対に明かせない事情があることが多いと言います。
また、生きづらさや精神状態、時には軽度の知的障害などさまざまな事情があると見ています。背景を詳細に調査した上で必要な対策を考える必要があり、また、今後の生活には寄り添える理解者が必要。予期せぬ妊娠で困った時には、匿名での相談サービスなどもあるので、利用してほしいということです。
”孤立”を防ぐための相談窓口もたくさんあります。1人で悩まずに相談するようにして下さい。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月1日放送)