鉛筆とノートを使わない!? いま“新たな教育”で変わりつつある『授業風景』 クラス全員でサメから逃げろ! アプリ使って“考える力”養う「アクティブラーニング」とは 2022年12月01日
「教壇に立つ教師の教えを、子どもたちが静かに聞く」…そんな小学校の授業風景が、いま変わりつつあります。2020年から導入された学習指導要領のもとで、いったいどんな「新たな教育」が行われているのでしょうか?
実際に現場を見に行くと…児童よりも、教師たちの方が大変そうでした。
■「新たな教育」で変わる授業風景
京都府・八幡市立有都小学校で、鉛筆とノートを使わない、ある最先端の授業がおこなわれています。
一人1台配布されたiPadを使って、算数の授業です。4年生の子どもたちが学んでいるのは、おおよその数を求める“がい数” です。
「じゃあ、“Kahoot!(カフート)”でがい数(の授業)3日連続クリアできるかな?」と子どもたちに指導しているのは、坂本良晶先生(39)。
【有都小学校 坂本良晶先生】
「これは『Kahoot!』というアプリなんですけれども、計算問題とか例えば社会科の地図記号とか、何かを覚えたり技能を高めたりするときに使うアプリなんですよ。学習なんですが、あたかもゲームをしているかのような感覚で、自分自身の知識とか技能が上がっていくんですね。クラス全員で一丸となってサメから逃げるっていうそういうゲームになっていてすごく盛り上がるんですよね」
公立小学校の教員でありながら、Twitterで4万人近くのフォロワーを持ち、これまでに著書を出版。情報通信技術=ICTを活用した授業について発信をしています。
【有都小学校 坂本良晶先生】
「もちろん普通の授業もしています。黒板にチョークで書いて、子どもたちがノートに計算問題するような授業もちろんしています。やっぱり知識技能っていう土台があってこその思考判断表現的な活動だと思うんですよ。ただこればっかりになると、将来それ(知識や技能)で生きていけるわけじゃないので」
■「考える力」を養うアクティブラーニング
坂本先生が目指しているのは、“アクティブラーニング”と呼ばれる授業です。教師による一方通行の授業とは異なり、児童が主体的に参加することで、「自ら考える力」を養います。
【有都小学校 坂本良晶先生】
「がい数の新聞作りをしようと思っています。チームで好きな県を選んで、がい数インフォグラフィックを作ってほしいと思うんです。何を見て作るかなんですが、地図帳を開けましょう」(※インフォグラフィック:情報、データ、知識を視覚的に表現したもの)
がい数を実践的に使ってみる学習です。地図帳から自分が興味を持ったデータを選び、その都道府県の特徴をがい数で表現する新聞を作ります。
使うのはそれぞれのiPad。同時編集できるアプリを使い、チームで1つの新聞を作っていきます。
子どもたちはチームで口々に話し合って、楽しみながら「調べて」いきます。
【子どもたち】
「沖縄らしいものってなんだ?」…「さとうきび!」
「兵庫県は?」…「だんじり?たこやき?」
「たこやきは大阪や!」
このような授業では、集中力が続きにくかったり、詰め込み型の勉強が苦手だったりする子どもたちが、楽しみながら自分のペースで学べることも大きなメリットです。
そして、今度は図工の時間。iPadで、ラジコンカーのようなものを操作しています。
–Q:これは何してんの?図工の時間で
【子どもたち】
「プログラミング!」
好きな動物に仕立て上げたロボットに、プログラミングで動きをつけます。
今回のプログラミングは、それぞれの『動物ロボット』たちが「捕まえる」「それを助ける」「追いかける」役割です。
–Q:iPad使う授業楽しい?
【生徒たち】
「うん 楽しい!」
「こっちの方が一緒にできるからみんなが何したいかが分かりやすくて、こっちの方がみんなが考えていることが分かりやすい」
■自分で考え・判断・表現を
2020年、小学校で新しい『学習指導要領』が実施されました。知識技能の習得が大きなウェイトを占めていたこれまでと変わり、学んだことをもとに「自分で考え、判断し、表現し、実際の社会で役立てる」ことを目指す教育になったのです。
その方法として提示されたのが、アクティブラーニングを取り入れた授業でした。
【坂本良晶先生】
「単純にだって知識とか技能とかだけで食っていける時代は、終わっているわけですから。そこでいかに自分で考えて、何かを作り上げたり、成し遂げたりして行くっていう力がないと、本当に生きていけない時代になるかなと思っているんですよね。諦めずに子どもたちが何度も試行錯誤しながら協力して、そしてやり遂げようとする姿って本当に大事だなと思っていて」
一方で、大多数の教師たちは、アクティブラーニングの授業を行ったことはもちろん、受けたこともないのが現状です。そのような学校ではどうしているのでしょうか。
■授業内容を教育サービス業者に「外注」
大阪府寝屋川市の香里ヌヴェール学院小学校では、5年生の週に2コマの「総合の時間」にアクティブラーニングを行っています。
指導しているのは、5年桜組の担任・佐藤裕佳子先生。はじめてのアクティブラーニングの授業に取り組んでいますが…教室にもう1人、子どもたちと話している男性がいます。
実は、この小学校では、やり方がわからない教師もアクティブラーニングの授業ができるように、教育サービスの業者「COLEYO(コレヨ)」に授業内容を外部発注しています。教師は自分でコンテンツを作る必要がなく、提供されたものに沿って授業を進めることができます。
【香里ヌヴェール学院小学校 佐藤裕佳子先生】
「これから1、2時間目の総合の勉強を始めます。それでは今日は、トリ飛行機コンテストの2回目ということで、『実験をするときに羽の大きさを変えてみよう』とか『重心の位置を変えてみよう』とか、『変えてみよう』があったでしょう?それを変数といいました。ポイントを絞って一つずつ仮説検証していってください」
厚紙などの材料を使って、紙飛行機を作り、飛距離を競うという課題で、良い結果になるためには「何を工夫すべきなのか」と自分で考えた仮説を検証していく思考を学びます。
【子どもたち】
「こことかに重りをつけて、ここの先端とかを切っていく。鋭くしていくねん」
「ここの傾きも違うから…なんか変な方向に」
子どもたちは相談をしながら紙飛行機を作り、実際に飛ばして飛距離を測ります。
■初めてのアクティブラーニングの授業 先生側の不安も
佐藤先生は、週に1回、COLEYOの担当者に不安や疑問に思ったことを相談しています。
【香里ヌヴェール学院小学校 佐藤裕佳子先生】
「一番初めはやっぱりうまくいくのかな?と。流れを教えていただいているんだけれどもその通りに進められるのかな?っていう不安はもちろんありましたね。1回2回と進めていく中で、子ども達はすごく楽しそうに動いていたので、これで間違ってはないんだろうなっていうのも感じながら」
【COLEYO 川村哲也社長】
「ちなみに今って、この授業の日が来ることの『楽しみ度』みたいなので言ったら?」
【香里ヌヴェール学院小学校 佐藤裕佳子先生】
「私わりと楽しみにはしているんですけど」
【COLEYO 川村哲也社長】
「良かったです、それは。佐藤先生が面白くなりそうっていう方に持っていって。その方が佐藤先生の学年団の皆さんの体重が乗った授業になっていき、そうすると、子どもらも『なんか先生たち楽しそうだし、俺も楽しくなってきた』みたいなことが、すごいいい連鎖として起こるんだろうなというふうに思うので」
■子どもたちが未来を生き抜く力を
紙飛行機の課題のまとめの日です。子どもたちは「どうすれば飛距離を伸ばせるのか?」と仮説検証の思考ができているのでしょうか。
子どもたちが、検証した結果を発表していきます。
【子どもたちの発表】
「短所が重心ずれてたことで、重心がずれてたことがあったから解決法に重りにクリップを使って調節したので、うまくいった」
「三角形のものだけで飛ばしてみたらどれぐらい飛ぶのだろうかとか」
自分で仮説を立てて検証するという、この授業の学びをしっかりと子どもたちはできていました。
【香里ヌヴェール学院小学校 佐藤裕佳子先生】
「これやったら絶対大丈夫っていうものをいただいて、子どもたちに渡すこともできているので、やり方としては不慣れな面もあるので、難しいなとは思うんですけれども。子ども達に新しい見方とか、考え方を教えていく、伝えていくのにはすごくいい経験をさせていただいているなと思います」
「子どもたちに未来を生き抜く力をつけてあげたい」と新しい教育が始まっています。
(2022年11月29日放送)