森友改ざん問題で元理財局長の賠償責任認めず 自殺した職員の妻の訴えを棄却 公務員個人の責任を問えない「国家賠償法」の壁 今も役所では「黒塗り作業をしている人がいる」 2022年11月25日
森友学園に関する公文書の改ざんを苦に近畿財務局の職員が自殺し、妻が財務省の佐川元理財局長を訴えていた裁判。
大阪地裁は、妻の訴えを認めませんでした。
【赤木俊夫さんの妻・雅子さん】
「想像はしてたけど、こんなにばっさり切られると…もう残念でならないです」
「夫を死に追いつめた真相を知りたい」と戦ってきた妻の思いは、今回も届きませんでした。
11月25日、大阪地方裁判所は、自殺した赤木俊夫さんの妻・雅子さんの訴えを退けました。法廷には、被告の佐川元理財局長の姿はありませんでした。
■「森友学園問題」
大阪府豊中市の国有地が8億円以上値引きして売却された、いわゆる「森友学園問題」。始まりは、この問題をめぐる国会での発言でした。
【安倍晋三首相(当時)】(2017年2月)
「私や妻がですね、(学校の)認可あるいは、国有地払い下げに事務所も含めて一切関わっていないということは、明確にさせていただきたいと思います。もし関わっていたらこれはもう、私が総理大臣を辞めるということですから」
この発言の後、財務省は…
【佐川宣寿 理財局長(当時)】
「記録は残ってございません」(2017年2月)
「記録もございませんということで、記録がない」(2017年3月)
しかしこの時期、財務省は組織ぐるみで公文書を改ざん。財務省は、当時の佐川理財局長が「改ざんの方向性を決定づけた」と、2018年6月に提出した報告書で公表しています。
この改ざんの実作業を強いられたのが、財務省近畿財務局の職員だった赤木俊夫さん(当時54歳)でした。
■赤木俊夫さんを自殺に追いやった「改ざんの真相」は?
【妻・雅子さん】
「『犯罪行為をしてしまった、僕は犯罪者なんだ、内閣が吹っ飛ぶようなことをしてしまったんや』とは言っていたので…『死ぬ、死ぬ、もう僕は死ぬんだ』ってことばっかり言って」
追い詰められた赤木さんはうつ病を発症し、2018年に自殺しました。赤木さんが亡くなる3日前には…
【赤木俊夫さん】
「わし車で出かけるから、それだけ許してくれ」
【妻・雅子さん】
「いけん、絶対にいけん。絶対に嫌じゃ」
【赤木俊夫さん】
「ほな、一緒に行こう車で」
【妻・雅子さん】
「嫌だ、眠たいのに。すぐ警察呼ぶ」
【赤木俊夫さん】
「車で一緒に行こう」
【妻・雅子さん】
「そんなんで死ぬって頭おかしくなってるよ」
【赤木俊夫さん】
「おかしくないって、大丈夫じゃ」
【妻・雅子さん】
「おかしいよ」
【赤木俊夫さん】
「大丈夫じゃ」
【妻・雅子さん】
「大丈夫じゃないよ…」
なぜ、夫は死ななければならなかったのか…国に対し情報公開を求めるも、返ってくるのは真っ黒に塗りつぶされた文書だけ。雅子さんが真実を知ろうとするには、裁判しか手はありませんでした。しかし…
争う姿勢を見せていた国が突然、雅子さん側の請求を「認諾(にんだく)」。つまり、国が全面的に責任を認め、裁判を突然終わらせたのです。
【妻・雅子さん】(2021年12月)
「ふざけんなと思いました。国は誰のためにあるのか」
雅子さんは、これ以上国から真実を知る手だてを失ってしまいました。
■「公務員は国に守ってもらえる…理不尽」
残るは、佐川元理財局長を相手取った裁判。雅子さんは、改ざんを主導したとされる佐川元理財局長から直接話を聞きたいと尋問を請求しましたが、裁判所がこれを認めなかったため、その機会すらかないませんでした。
【妻・雅子さん】
「夫に対して謝罪するとか手を合わせるとか、真相、何があったのか…分かることがあればぜひ知りたいし、話してほしいし、法廷に一度も現れなかったので、来てほしいなと思います。佐川さんに責任を感じてもらえるような判決が出てほしいって思っています」
11月25日、佐川元理財局長や代理人の弁護士が出席しない中で言い渡された判決。
【大阪地裁(中尾彰裁判長)】
「原告の請求を棄却する」
大阪地裁は、「国家賠償法上、公務員が他人に損害を与えた場合は国が賠償すべきであり、佐川被告個人は損害賠償の責任を負わない」として、雅子さんの訴えを退けました。
裁判所の判断に、雅子さんは…
【妻・雅子さん】
「夫は守ってもらえなかった、法律に守ってもらえなかった、だけど佐川さんは法律で守ってもらえる。公務員個人として働いているときに犯罪行為をしても守ってもらえるって、なんか理不尽だと感じました」
雅子さんは控訴する方針ということです。
【妻・雅子さん】
「夫が亡くなった理由を知りたいっていうことと、何があったのか知りたい、二度とこういうことが起きてほしくないっていうことを訴えていきたいです」
■国と戦い続けた 赤木雅子さんの982日
赤木雅子さんは、提訴から982日にわたり、国と戦い続けてきました。この戦いを取材してきた諸岡陽太記者と、この裁判を読み解きます。
――Q:雅子さんは、なぜ苦しい思いをして戦いを?
【諸岡記者】
「雅子さんの思いは、『誰が何のために改ざんを指示したのか、真実を知りたい』ということだけです。そもそも裁判を起こされる前に、佐川さんに対して『話をしてほしい』と手紙などを送ったけれど無視されたということもあったそうです。また、真っ黒に塗りつぶされた文書が開示されるなど、『誰に何を言っても説明してもらえないんだ』というところから、『じゃあ、裁判をするしか真実を知る方法がない』と、裁判を戦ってこられたということです」
■なぜ真実にたどりつくことができなかったのか?
なぜ実際に、真実にたどり着くことができていないのか。3つのポイントに分けてみていきます。
<ポイント1>2021年6月 赤木ファイル開示。一歩前進も…
【諸岡記者】
「ここに赤木ファイルのコピーがあります。赤木俊夫さんが近畿財務局の中で、公文書の改ざんにいたった経緯を、赤木さんが知り得る範囲で必死にまとめられたものです。メールや赤木さんの記憶の範囲でのメモなどで、800ページ以上あります」
――Q:国はこれを開示したんですか?
「そうなんです。すぐに開示してきたわけではなく、この中に真相があるかもしれないからとにかく開示してほしいということを、まず裁判で求められました。国はあるかないかも含めて答えませんよというスタンスをずっと取ってきましたが、ないわけがない。無理があるでしょうということで、ようやく開示したんです。この赤木ファイルは“遺書”のようなものなので、雅子さんにとっては一歩前進、うれしい気持ちもあったんですが、ただ、赤木さんは組織の末端、実作業を担う方なので、上の方、財務省の本省内で、誰がどんな判断をして改ざんに至ったかという経緯は、赤木ファイルには書かれていなかった。じゃあ直接聞くしかないじゃないか、ということで、雅子さんは「証人尋問」へと気持ちを切り替えられたそうです」
<ポイント2>2021年12月 国が“認諾”。突然の強制終了
【諸岡記者】
「“認諾”とは、『相手の訴えを全て認める』ということです。今回であれば、『国のせいで赤木俊夫さんがうつ病を発症し、自殺した』という。その事実を全て認める。『認めるから裁判を終わらせましょう』ということを意味する言葉で、実際に裁判は終わりました。『賠償金額の約1億円は全て支払うので終わらせましょう』と」
――Q:そこで雅子さんは、佐川さんを相手取った裁判に?
「そうですね。認められてしまったから、国との裁判は終わってしまった。だから国との裁判で真実を知ることはできないし、証人を呼ぶこともできない。だとしたら、もう一つの佐川さんを相手取った裁判が残されているから、こっちの裁判で何とか話を聞こうと。どうにか佐川さんを法廷に連れてこられないか、というところで気持ちを切り替えられました」
<ポイント3>2022年5月 佐川元理財局長の本人尋問は認められず。最後の望みも…
【諸岡記者】
「11月25日の判決でもありましたが、“公務員個人に賠償責任はない、国が責任を負う”という法律があり、結論は決まっていたんです。佐川さんには責任を取らせられないという結論は、裁判長の中で恐らく最初から決まっていた。これはもう、これまでに積み重ねられている最高裁判例などもあるので、決まっている。その結論があるのならば、わざわざ佐川さんを呼んで話を聞く必要はない、という判断を下された可能性が、非常に高いと思います」
■届かなかった思い…今後は
一連の流れについて、関西テレビの神崎デスクは、法律の壁を指摘します。
【神崎デスク】
「赤木雅子さんの感情としては納得いかないと思いますが、法律論では『国家賠償法』に『公務員が仕事上他人に損害を与えた場合は、国が肩代わりする。損害賠償は国が請け負う。個人の責任は問わない』という大前提があるので、裁判所としてもこれを飛び越える判決は出せないんです。法律でそう書かれてしまっている以上は越えられないということなので、法律を変える以外、ここから新しい展開というのは難しいと思います」
岸田首相は今回の判決に、「関係者に説明責任を尽くすよう指示を続けてきた。財務省として説明を続けてきたと承知している。改めて赤木さんのご冥福を心からお祈りしたい」と話しました。
――Q:一つの節目となりましたが、今後、雅子さんはどうされるのでしょうか?
【諸岡記者】
「地裁としての判決は出ましたが、取材に応じられて、控訴する方針だとお話になりました。控訴をする理由について、これはいつもおっしゃるんですが、『真実が知りたい』というのが一つ目。もう一つが、『二度と同じような人が出てほしくない』。例えば黒塗りの文書だって、黒塗りの作業をしている人がいる、今もいるよね、というようなことをおっしゃいます。なので、その部分で、自分が控訴するしかないという思いをお持ちです」
「一方、24日の夜に話を聞いて印象的だったのが、『佐川さんがもし今現れて、写真の前で手を合わせて何かを話してくれるのであれば、裁判はやめます』と。『続けたくて続けているわけではないし、しんどい、正直やめたい』と、これまでもですがずっとおっしゃっています。その中で、やっぱりまだ控訴しないと戦えないというこの結果が出てしまったのはすごくお辛いことだと思いますし、本当にしんどいことだと思います」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年11月25日放送)