不登校の少女が”描く夢“「歌手になりたい」 かつて不登校だったシンガーソングライターや仲間の支えで『人生初のステージ』に立つ! 自分の居場所…とは 2022年11月22日
10月、大阪・泉佐野市で音楽イベントが開催されました。そこで歌を披露したのは、不登校の女の子。彼女はなぜ、大きな一歩を踏み出すことができたのでしょうか。その挑戦を追いました。
■不登校のフリースクールで“描く夢”…ギターで歌いたい
大阪・泉佐野市のフリースクール「キリンのとびら」。ここでは、不登校の子どもたちが通って、勉強をしたり友達と過ごしたりしています。
ギターを背負った中学3年の女の子が「ただいま」とやって来ました。名前は“らむちゃん”。
学校には行かず、ここで毎日を過ごしています。中学1年生の時、人間関係が原因で不登校に。いまはここが、らむちゃんの居場所です。
「こんにちは~久しぶりです」…と、「キリンのとびら」を訪れたのは、泉佐野市出身のシンガーソングライター、番匠谷紗衣(ばんじょうや さえ)さん(23歳)。
プロの歌手として活動をしながら、地元の福祉施設などで、こどもたちに歌を届けています。
らむちゃんの夢は、歌手になること。それを知った番匠谷さんは、自分が企画する音楽イベントでの共演を提案しました。らむちゃんにとって、人生で初めてのステージです。
ステージへ向け、2人でギターの練習をしています。
【番匠谷紗衣さん】
「(私とステージで共演することを)言われたときどう思った?」
【らむちゃん】
「自分がまさかステージに立って歌う機会もらえると思ってなかったから、ほんまに?って目飛び出るぐらいびっくりして。人前で歌える程の声をしていないし、自信がなかったからその時は…。今はちょっと自信持てるようになってきたけど、そのとき(自信が)なかったから」
らむちゃんが選んだ曲は、back numberの「水平線」です。
【らむちゃん】
「自分が学校行かれへんくなったときとか嫌な気持ちになった時に、“水平線”に出会って背中を押してもらって、勇気をもらって。誰かに響いたらいいなって」
番匠谷さん、らむちゃんの2人でギターを弾きながら練習です。2人に合わせ、「キリンのとびら」の子どもたちも手拍子を取ったり、体を揺らしたりしています。同じ居場所を見つけた仲間たちと一緒に、ここからまた一歩を踏み出します。
練習を終えた2人に仲間たちが声を掛けました。
【「キリンのとびら」の仲間で親友の なっつちゃん】
「めっちゃ歌声、素敵でした。学校に行かれへんかった時のことを思い出して…苦しかったこともあったけど、あの曲のように楽しくなれました」
らむちゃんは、練習中に、番匠谷さんにお願いをしました。
【らむちゃん】
「スタジオとかでやってみたいんですよね…」
【番匠谷紗衣さん】
「スタジオ入る?いいよ」
快い返事をもらえたらむちゃん、手を叩いて「いいんですか?やったー!」と喜びます。
自身も不登校の過去を持つ番匠谷さん。その時に支えられた音楽の力を次は、らむちゃんにつなぎます。
【番匠谷紗衣さん】
「音楽って誰がどんな人であろうと気持ちでつながれたり、人にパワーを与えられるというのをきっと彼女自身も感じてくれると思っていて、そんな日になったらうれしいですね」
■約束していたスタジオ練習でしたが…“来ない”
しかし…本番1週間前、らむちゃんは約束していたスタジオでの練習に来ませんでした。
「キリンのとびら」にらむちゃんが来ているかどうか確認しに行くと、らむちゃんの親友、なっつちゃんがいました。
胸元には「らむのマネージャー」という名札を着けています。
【らむちゃんの親友 なっつちゃん】
「『らむのマネージャー』って書いてます。フェスの時もこれ(名札を)着けて楽屋に行けることになりました!」
なっつちゃん、携帯を確認しています。らむちゃんからの連絡を待っているようです。
【らむちゃんの親友 なっつちゃん】
「みっちゃん先生、今日って(らむちゃんから)お休みの連絡ありました?」
【「キリンのとびら」スタッフ】
「(らむちゃん)起きられへんから休んでるって。らむちゃん体調が悪いみたいやから」
【らむちゃんの親友 なっつちゃん】
「体調が悪い時はマネージャーも触れちゃダメなんです」
【「キリンのとびら」スタッフ】
「本人は楽しみにしていたので、プレッシャーとかではないと思うんですけど…朝、目まいがしてというのは普段からたまにあったりするので」
■引きこもった日々…今も「制服姿」の自分は見れず
中学校に通っていたころから、強いストレスが原因で、朝起きることができない日が増えました。次第に学校を休むようになり、家に引きこもる日々が続きました。当時のらむちゃんは、今とは別人のようでした。
当時の様子や気持ちを、らむちゃん母娘が話してくれました。
【らむちゃんの母 えりさん】
「話さんかったな」
【らむちゃん】
「ほんまに部屋で一人でおって、ご飯もほとんど食べてなかったし、1週間くらい寝てないときあったよな…ずっと毎日朝から夜まで寝れなくて。面識なくても制服とか一緒やったら同じ中学の子おるなって。(制服)見たら思い出しますね、こんなことあったなって、しんどいはしんどいですよね」
たくさんの家族写真の中に、中学校での写真は1枚もありません。らむちゃんは今も、制服姿の自分の写真を見ることができずにいます。しかし、どんなに辛くても、夢だけはあきらめなかったらむちゃん。その姿を見て、母のえりさんも娘の不登校を受け入れることができました。
【らむちゃんの母 えりさん】
「みんなと一緒の道がって思っていたけど…でも、そうじゃないやんって、この子は1番どうしたいのか。(学校に)無理やり行ってるから、私の考えは間違ってるなって思って。中学生とかで自分がなりたい夢とかなかなかないけれど、この子はそれを持ってるし、それを見つけられたから良かったなと思うし、応援したいなと」
家でもギターを弾いて歌いながら練習するらむちゃん。ご飯を作っているお母さんに感想を聞きます。
「良かった」というお母さんの言葉に「マジで?ナイス?」と、らむちゃんは喜んでいました。
■イベント当日!踏み出した…「一歩」
いよいよ迎えた「フィルレコフェス2022」イベント当日。
フェスには、番匠谷さんがこれまでの活動で繋がった福祉団体や障がい者施設が出店してくれています。
本番直前、緊張しているらむちゃんに、番匠谷さんが「5回吸って、10回はいたら落ち着く」とアドバイスします。
「声震えそう」というらむちゃんに、番匠谷さんが「震えたっていいんだ」と励まします。
本番を迎えました。緊張した面持ちでステージに立つらむちゃん。ギターを弾き始め、番匠谷さんとアイコンタクトを交わし歌い始めました。
―――♪
できるだけ嘘はないように どんな時も優しくあれるように
人が痛みを感じた時には 自分の事のように思えるように
続いて、『正しさを別の正しさで…』部分を歌っていた時、番匠谷さんが歌うパートと気づき、「あっ!」という顔をするらむちゃん。…でも笑顔です。
引き続き次の自分のパートでも心を込めて「水平線」を歌う…らむちゃん。
ステージを見ているお母さんの目には涙が浮かんでいます。
ほかの観客たちも笑顔で聞き入っています。
ステージの袖にいるマネジャーのなっつちゃんも手拍子しながら応援しています。
歌い終えたらむちゃん。安堵の笑顔が顔中に広がっています。
応援してくれるみんなが自分のありのままでいられる居場所。いつもそっと背中を押してくれる人がいるから、あしたもまた。
(2022年11月18日放送)