「偶発的な小競り合いが戦争に発展する可能性も」 専門家が危惧する朝鮮半島情勢 相次ぐ北朝鮮のミサイル発射 金正恩総書記の狙いは「核保有」と「制裁解除」 2022年11月03日
11月3日朝、北朝鮮から日本海に向けて、少なくとも3発の弾道ミサイルが発射されました。このうちの1発は新型のICBM・大陸間弾道ミサイル「火星17」型と推定され、分析が進められています。
北朝鮮は11月2日にも、南北分断後初めて、海上の境界線を越える形で短距離弾道ミサイルなど20発以上を発射。これを受けて韓国軍は、北朝鮮の公海に向けて空対地ミサイル3発を発射する異例の対応を取りました。
これまでにないほど緊張が高まる北朝鮮情勢。東アジアは、そして日本はどうなるのか、北朝鮮問題に詳しい龍谷大学の李相哲教授に解説してもらいます。
■3日朝のミサイル発射について
――Q:3日朝は3発、2日には20発以上の弾道ミサイルを発射した北朝鮮ですが、どうみられますか?
【李相哲教授】
「異例ずくめですね。2日は朝鮮戦争以降初めて、韓国領海、海の上の軍事境界線を越えた南側にミサイルを撃ち込んだんです。ICBMを発射したということもほぼ確認されていますし、他にも2日は4回にわたって100発の大砲と20発以上のミサイルを撃っています。緊張はこれからますます高まると思われます」
――Q:北朝鮮は11月3日7時39分頃~8時48分頃にかけて、ICBM級の可能性があるものも含め、少なくとも3発の弾道ミサイルを東方向に向けて発射しました。どういう狙いがあるのでしょうか?
【李教授】
「いつものことですが、北朝鮮の目的は軍事力の向上です。今回も、ICBMの発射は実験だと考えられます。他に、在来式兵器も見せましたので、実戦力向上・実力の誇示という意味があります。また、政治的なメッセージもあります。アメリカに対する強い不満と、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権への『北朝鮮政策を修正しなさい』という揺さぶり。これらが考えられます」
――Q:午前7時39分ごろに発射された1発目は、高度およそ2000キロ、飛行距離およそ750キロと分析されているのですが、失敗だったとみていいのでしょうか?
【李教授】
「韓国軍当局は『失敗』とほぼ確定しています。『火星17』は以前にも実験を行ったことがありますが、その時は、数十メートルしか飛ばずに爆破しています。『火星17』はまだ未完成で、だから北朝鮮は今、実験を繰り返して、完成を目指しているという状況です」
――Q:「火星17」型というのは、北朝鮮にとってどういうものですか?
【李教授】
「北朝鮮としては一番強力な、アメリカを狙うものです。通常角度で撃てば、1万5000キロを飛ぶのではないかといわれています。ただ、これまで『火星17』を自分たちの目的通りに撃てたかといえば、疑問です。10月8日に飛んだのは『火星17』ではなく、これまで事故なしで成功している『火星15』とみられます。『火星17』は開発途上なので、まだやるんじゃないでしょうか」
■Jアラートを巡る動き
今回のミサイル発射を受けて、Jアラートが発表されました。
午前7時39分ごろ:1発目のミサイル(新型ICBM?)発射
午前7時50分:Jアラートが宮城県・山形県・新潟県に発表される
午前8時:Jアラートで「ミサイルは午前7時48分ごろ日本上空を飛翔し太平洋へ通過したとみられる」と情報が出される
午前8時45分ごろ:防衛省が「太平洋へ通過していない」と情報を修正
午前9時ごろ:防衛省が「日本海上空にてレーダーから焼失したことを確認」と発表
ミサイルが日本上空を通過していないのにJアラートが発表されたことについて、関西テレビの神崎デスクはJアラートの仕組みが原因と指摘します。
【関西テレビ 神崎デスク】
「Jアラートは、アメリカの『早期警戒衛星』という、非常に高い位置にある衛星から情報を得ています。地上の熱反応を赤外線で捉え、それが上空に向かって移動し始めると火事ではなく何らかの飛翔体であると考え、時間あたりの移動距離や、どの角度にどのように上がったかで未来位置を予測します。どこを通過してどこに何分後に落ちるかということです。その中で日本上空を通るという予測になれば、Jアラートを発表します。『早期警戒衛星』の情報に頼っているのが実情です」
――Q:精度は高いと言えるんですか?
【関西テレビ 神崎デスク】
「非常に高いところから見ていて、なおかつアメリカの衛星の情報なので…。本当はこれ以外に日本のレーダーで捉えて情報を足していったらいいんですが、時間的にタイムラグがあるので。まず最初に第一報として衛星の情報で出すというのが基本になっています」
■北朝鮮と韓国の関係は
こうした中、かつてないほど緊張が高まっているのが、北朝鮮と韓国の関係です。
北朝鮮は11月2日に少なくとも23発のミサイルを発射していて、午前9時ごろ発射した3発のうちの1発が、事実上、海上の軍事境界線とされる北方限界線を1953年の休戦協定後、初めて越え、日本海にある韓国側の公海上に着弾しました。
これを受け、韓国軍は対抗措置として、北方限界線の北朝鮮側の公海上にミサイル3発を発射しています。
――Q:韓国では6年半ぶりに「空襲警報」が発令されるなど、非常に緊張感が高まっているようですね?
【李教授】
「北方限界線の南側にミサイルが落ちたのは、朝鮮戦争後初めてです。なぜここまで神経をとがらせているかというと、今回のミサイルは小型核爆弾を積んで飛ぶというもので、北朝鮮の軍のトップも『今回は特別手段を取る』と言ってから撃ち込んでいます。韓国からは絶対に容認できない。交戦規則では倍返しで2発撃つべきなんですが、3発撃って、強い意志と『絶対に許さない』ということを見せたんです。やり合いがすでに始まっているという状況です」
――Q:一触即発の事態をすでに超えている、ということですか?
【李教授】
「はい。ですから心配されるのは、偶発的な小競り合いなどが戦争に発展することです。可能性はゼロではないので、非常に緊迫しています」
――Q:2010年には、哨戒艦「天安」が北朝鮮の魚雷攻撃で沈没して韓国海軍の乗組員46人が死亡、北朝鮮による延坪島砲撃事件で韓国側の民間人を含む4人が死亡するという事態になりました。そのときよりも今の方が、緊張は高まっているのですか?
【李教授】
「当時北朝鮮が攻撃を仕掛けたのは、従来型の砲撃でした。今回異例なのは、核弾頭を積めるミサイルを撃ち込んだこと。しかも金正恩(キム・ジョンウン)総書記も最近、核使用をさんざん口にしています。これは韓国に対して『われわれは核を使う用意がある』と脅しているんです。非常に不気味ですが、ただ、北朝鮮が実際に核を使うことはないと思います。それをすれば『金正恩政権は終末を迎える』とアメリカが言っていますので、やれないと思います」
■核実験について
――Q:核実験の可能性はありますか?
【李教授】
「核実験は必ずやると思います。今北朝鮮が撃っているミサイルが脅威なのは、核弾頭を搭載できるからです。今のところ、彼らが小型核弾頭を持っているかは証明されていません。次の核実験でその能力が明らかになると思います。ですから、北朝鮮からすると、ここでやめるということはまずありません。やります。ただ、いつやるかは、金正恩総書記次第です」
――Q:前回2017年の合同演習の際も、北朝鮮は核実験に踏み切りました。そのときと状況は違うのでしょうか?
【李教授】
「状況は非常に似ています。ただ2017年は9月に行いました。9月は北朝鮮にとって祝うべき名節がいろいろあるので、そういった意味もありましたが、今回は北朝鮮がアメリカにかなり怒っています。アメリカの中間選挙をにらんで、その前後を狙ってやる可能性もあり得るとみられます」
――Q:李教授は、北朝鮮の最終目標を「核保有」とみています。核実験は通過点ですか?
【李教授】
「『核保有』が目的ではありますが、北朝鮮は核をすでに保有しています。北朝鮮はこれを世界に認めさせたいんです。ですから今アメリカを狙えるようなICBMを一生懸命につくっている。彼らの最終的な目標は、世界から核保有を認められた上で制裁解除を勝ち取ること。これを今ひたすら追求しています。ただの核ではなくて、“使える核”を持ちたいということなので、非常に危険です」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年11月3日放送)