スクリーンはなんと「でっかい岩」! 『世にも珍しい映画祭』が和歌山で開催 幅500メートルの天然記念物「古座川の一枚岩」を利用した“町おこし”イベント 「5度目の正直」にかける仕掛け人と“一枚岩”のスタッフに密着 2022年11月02日
10月29日、和歌山県古座川町で、ある映画祭が開かれました。会場は「一枚岩」という名の、道の駅。スクリーンはなんと…天然記念物の巨大な一枚岩です!
『世にも珍しい映画祭』、仕掛け人に密着、その舞台裏を取材しました。
■巨大!国の天然記念物「古座川の一枚岩」 道の駅オーナーが“仕掛け人”
暗闇の中に、浮かび上がる映像。ほのかな灯りがつくり出す、幻想的な空間。ここで、10月29日にちょっと変わった映画祭が開かれました。
この映画祭イベントの仕掛け人は、田堀穣也さん(35)。
【田堀穣也さん】
「絶壁の、この壁っていうのが、世の中にあるのかっていわれたら、おそらくないですよね。この一枚岩をスクリーンにした映画祭をしたいなと」
「一枚岩」とは、和歌山県古座川町にある巨大な岩の壁。地下深くにあるマグマからできた岩が、周りの地盤沈下で姿を現したという、珍しい岩です。
田堀さんは、その向かいの道の駅でオーナーをしています。
【田堀穣也さん】
「これは一枚岩をイメージしたお菓子。ロッシュっていって(フランス語で)岩の意味のお菓子。『食べる一枚岩』として売っている」
実は、田堀さんには変わった経歴が。小学校の教師を5年間勤めた後…なんと消防士になりました。
【田堀穣也さん】
「いろんな人に会ったんですね、消防をやっているときに。この町のこともっと好きになったし。もっとやったら古座川町がもっと良くなるのにというのを、公務員でもやっていたが、やっぱり『公務員やからそこまでできんよね』って言われる壁があった。それが歯がゆくて。消防を辞めて、ちょっと“人生をかけてみようか”って」
■近畿の都心から最も遠いエリア…「映画祭」にかけた町おこし
映画祭が迫った1週間前、準備作業が始まっています。田堀さんの元に、遠くからも仲間が集まってきました。
【大阪市から参加した男性】
「一枚岩に映画を映して地域盛り上げたいんだ、みたいな人がいることを知って。そんな面白いことするなら、何か手伝わせてと言うことで、連絡を田堀さんに入れて」
古座川町には市街地も海もなく、森林が96%を占めています。近畿では最も都会から遠いエリアにあたり、古座川は「本州最南端の清流」と呼ばれています。
古座川町では30年ほど前、一枚岩で映画祭をしたことがありました。公共事業として行われたイベントで、数回だけで途絶えたといいます。
町の人口が2500人足らずまで減った今、今回の映画祭は、資金をクラウドファンディングで募集。寄付は順調に集まりましたが…
【田堀穣也さん】
「(映画祭を)2021年にやろうと思ったが、コロナ禍だった。8月ぐらいにまたコロナがドーンってなって、ワ~ってなって…。ことし5月にやろうと思ったら、雨だった」
■4度の延期を乗り越え、夢の「映画祭」実現へ テーマは「HYGGE」
映画祭前日です。4度の延期でしたが…5度目の正直を信じて、みんなで準備に励みます。
映画祭のテーマは「HYGGE(ヒュッゲ)」。デンマーク語で「居心地がよい幸せな空間」という意味です。
コロナで仕事が減り、手が空いていた大阪のイベント会社が、協力を申し出てくれました。
【田堀穣也さん】
「普通に暮らしててこんなん触らないじゃないですか。そんな業界じゃないので僕ら…」
【田堀穣也さん】
「ほんまは今まで自分らがやっていたイベントとかって、主催やった自分が全部走り回らないといけなかった。今はもう各自でやってくれているっていうのが、なんか『チーム感』ができていて、すごく2年間の成果が出ているなと思います」
準備は、真夜中まで続きました。
■古座川町におおぜいの人がやって来た! 「一枚岩」上映うまくいくか?
とうとう映画祭当日を迎えました。
【田堀穣也さん】
「天気もう最高ですね。こんな整うのかってくらい」
集まったスタッフに「お願いします」とあいさつをする田堀さん。
30年前に映画祭を開催した、町役場の元職員たちも手伝います。
【30年前に映画祭を開催 元古座川町職員 河口洋さん】
「当時は役場の公務員ばっかり。今は違う。見ていてびっくりしたのは、大阪や東京から手弁当で(人が)来る時代ですよ。実は人口減っているけど、『関係人口』を増やしていく、ひとつの起爆剤ですよ」
会場では「マルシェ」を開催。古座川町とその周辺から18店舗がお店を出しています。集まったお客さんは、600人以上。インスタグラムやフェイスブックを見て、遠い場所から訪れた人もいました。
【和歌山市から来た人】
「むちゃくちゃうまいです。結構辛いんですけどおいしいです」
【大阪市から来た家族:娘】
「きのうめっちゃ楽しみやった。寝られへんぐらい」
【大阪市から来た家族:父】
「すごく応援したい気持ちになって、今回のクラウドファンディングに参加させていただいた。少しでもお手伝いできたらと思っています」
日没を迎えた午後5時45分、1枚岩に「HYGGE」の文字が浮かびました。
いよいよ上映開始です。
映画祭では、地元・古座川町の魅力を伝える自主制作映画や、ディズニーの人気アニメ映画などが上映されました。
【スタッフ】
「ユアメッセージのコーナーです。それでは、どうぞ!」
【田堀穣也さん】
「違う違う違う!」
ここでトラブルが発生…別の映像が流れてしまいました。
【スタッフ】
「皆様、大変失礼いたしました」
スタッフたちの機転で、何とか切り抜けました。
そして、映画祭は無事に終了・・・すると、会場からは“拍手“がおこりました。
【田堀穣也さん】
「…拍手起こった。うれしい」
【和歌山・上富田町から来た家族】
「大きな岩の前で、みんなと他府県の皆さんと一緒に、和歌山の大切なものを何か感じたような気もさせてもらっています。本当に不思議な映画祭だなと思いました」
来てくれた人にお礼を言う田堀さん。
【田堀穣也さん】
「終わったー!『あっぶねえ』って感じ。ちょっとトラブルはあった。それでも何とか乗り越えて…。1年後か2年後か分からないですけど、もう1回します」
田堀さん、スタッフたちに「いやあー終わった!片づけや!」と呼びかけます。
みんなでやり遂げた映画祭。町に活気が戻った夜でした。
(2022年11月1日放送)