母親が認知症に 始まった徘徊 40代で「介護離職」 それでも「明るい介護」目指して 起業で自立を目指す女性の思い 「きれい事と言われますけど…」 2022年10月28日
30代で母親が認知症と診断され、40代で、母親の介護のために離職。この状況をむしろ前向きにとらえ、明るく介護に取り組んでいる女性が宮崎にいる。
「介護って大変という一言で済ませたくない」
そう笑顔で語る女性の思いを聞いた。
■始まった徘徊 時短勤務認められるも…告げられた「昇進は無理」
宮崎県日向市の月原美由紀さん(43)。認知症と診断された母親の順子さん(74)と2人暮らしだ。
順子さんは、日常生活ほぼ全てで介護が必要な「要介護3」の認定を受けている。それでも、順子さんを施設に預けず、自分で介護すると決めている。
順子さんが認知症と診断されたのは、美由紀さんが35歳の時だ。最初のころは、物忘れ程度だった症状が、徐々に進行し、いわゆる「徘徊(はいかい)」が始まるようになると、状況が変わっていく。
【月原美由紀さん】
「夜の8時半くらいに家に帰ってきたときに、そのとき冬だったんですけど、電気もついたままで、こたつもついていて、玄関も開いている。その状態でどこを探しても家の中にいなくて。おかしいなと思って、9時になっても帰ってこず」
近所の人に聞いて回るなど、夜通し探し続けても、順子さんは見つからない。あきらめかけた午前0時ごろ、順子さんが、けろっとした表情で戻って来た。
もはや、このまま仕事を続けられない。美由紀さんは、勤めていた会社に時短勤務を認めてもらった。しかし、現実は厳しいものだった。
【月原美由紀さん】
「それまで、いろいろ(会社に)評価もしていただいて、昇格もさせてもらってたんですけど、時短(勤務)をしたことによって、突きつけられたんですね、(役職を)上げられないよと。これが現実だなと思って。そこで一気にテンションが下がり、さらにモチベーションが下がり」
会社は、時短勤務を認めてくれ、いろいろ配慮してくれたと美由紀さんは言う。それでも、徐々に会社にいづらくなった。正社員だった美由紀さんはその後、契約社員となり、去年、会社をやめた。
【月原美由紀さん】
「やっぱお金は必要だけれども、家族も大事だ。家族との時間を犠牲にして、心を犠牲にして働くっていうのは、とても私にはできないなと」
「今まだカツカツです。もうだいぶ貯金を切り崩しましたし、これからだなっていう。今、一番苦しいときかなという感じです」
■「介護離職」を経て…母と一緒にいられるために「起業」
順子さんと一緒にいられるために、美由紀さんが選んだ道は起業だ。
朝、順子さんをデイサービスに送り出してからが、仕事の時間だ。
知人を頼って、企業からユーチューブに投稿する動画の編集を請け負ったり、ホームページやショッピングサイトを構築する際のアドバイスなどの仕事をしている。
さらに事業の一環として、地域で頑張っている店や人を動画投稿サイトで紹介する活動もしている。
経済的にはまだまだ苦しく、月々の収支が赤字になることもある。それでも、介護と仕事の両立を目指している。
【月原美由紀さん】
「根底にあるのが親に対する愛なのかなっていうのがあって。父は私が高3のときに亡くなりました。父と母はけんかが激しかったんですけど、仲が良いときはもうすごい仲が良くて、父は母のことを愛してたって子供ながらに感じていました。父がもし生きていて、母がこの状態だったら、父は絶対母のことを私以上にお世話するだろうなっていうのを感じるんですね。だったらその父の代わりにやろうと」
■きれい事だと言われても…目標は「明るい介護の世界」
美由紀さんは、順子さんの世話をするとき、やわらかな笑顔を向ける。
朝「おはよう」と言うとき、散歩に一緒に行くとき、食事ができたと声をかけるとき、美由紀さんの笑顔で、順子さんも笑顔になる。
「明るい介護の世界」
これが美由紀さんの目標だ。
順子さんとの日々の生活の様子を、動画投稿サイトで紹介する活動もしている。
【月原美由紀さん】
「介護してるとか、認知症の親がいるとかって聞くと、暗い感じで、実際話してみるとやっぱ大変なんだって暗くなると思うんですね。私はそれがとても何か心が苦しくて。確かに一言で介護って楽しいんだよって言ったとしても、きれい事だと言われますもちろん。でも、実際のところ本当に楽しくて、腹が立つこともあるし、イライラすることもあるし、大変なこともあるんですけど、その中でやっぱり今まで母と過ごせなかったいろんな時間があるわけで、絶対母が元気だったらハグなんてしないし、手もつながないし、そういう時間が過ごせるっていうのもすごく私は幸せなんです」
■「介護者が元気に」を目指して 自らオンライン相談も
「明るい介護の世界」を目指そうと、今力を入れているのが、認知症の家族らを介護する人の相談に乗る事業だ。「認知症在宅介護者の駆け込み寺」として、オンラインで日本全国の人の相談に乗っている。
特徴は、医師など、専門職との連携。介護で心が疲れても、どこに相談したらいいか分からない、近所の病院には行きづらい…そんな人のために、オンラインでカウンセリングを行っている心療内科医を紹介するなどしている。
介護者が夢を持って生きていけるように。
これが、美由紀さんの強い思いだ。
【月原美由紀さん】
「介護者がまず元気になってほしい。介護者が元気になれば、あの人介護しているのに、なんか元気だよねって、ああいう介護者になりたいよね。だったら楽しくなるよねって周囲の人も思うようになる。そういう循環ができればいいなって今活動させてもらってるんですね」
今後、高齢化が加速する中、ますます介護という問題に直面する人が増えていく。介護には、離職、孤立など、目を背けることができない現実もある。美由紀さんの前向きな姿が、そんな現実に立ち向かう一助となることを願ってやまない。