JASRAC vs 音楽教室の争い 最高裁が判決 「生徒は曲の使用料の支払い不要 講師は必要」 教室は困惑「著作権料を取りに来るなら弾かない」 2022年10月24日
音楽教室のレッスンでの演奏で、曲の使用料を払う必要があるかどうか争われた裁判。
最高裁は10月24日、生徒の演奏については曲の使用料を払う義務がないとした一方、講師の演奏のみ支払い義務があると判断しました。
音楽教室には、どう影響するのでしょうか。
■町の音楽教室は
10月24日午後3時、3歳から80歳の生徒が通う、大阪府豊中市のピアノ教室。
これからやってくる子供たちを待ちながら、講師の先生が気がかりだったのは、「最高裁判所」の判決です。
【ピアノ講師 勢志佳子さん】
「納得はしていません。こういう業界にJASRACが著作権料を取りにくるというのは、全く了解はしていないです」
ことの発端は5年前。ヤマハ音楽振興会などおよそ240の音楽教室の運営会社などは、楽曲の著作権などを管理するJASRACが、音楽教室からも曲の使用料を徴収するとの方針を出したのに対し、「支払う義務はない」と訴え、裁判を起こしました。
一審は講師の演奏、生徒による演奏ともに曲の使用料を「支払う義務がある」として音楽教室側の訴えを退けました。しかし二審では、生徒による演奏は曲の使用料の徴収の対象にあたらず「支払う必要はない」と判断。
最高裁は10月24日、争点だった「生徒の演奏」について「課題曲の演奏は、演奏技術の向上を目的とした手段に過ぎず、任意かつ、自主的に演奏するもので、強制されているわけではない」。また「レッスン料は演奏技術を教えてもらうためのもので、課題曲を演奏するために支払うものではない」として、徴収の対象にはならないとしました。
一方、講師によるレッスンでの演奏については、曲の使用料の支払い義務を認めました。
判決について、音楽教室では…
【勢志音楽教室 勢志佳子さん】
「小学校低学年ぐらいまでは、『ショパンって誰?』みたいな子が多いわけですから、(使用料がかかる)アニメの曲が人気。サンプル弾いた方が子供は分かりやすいけど、それ弾いたら著作権料を取りに来るというなら、弾かないです」
楽しく学ぶ、音楽のレッスン。最高裁の判決は、今後の音楽教室にどう影響するのでしょうか。
■音楽教室は今後どうなる
講師の演奏のみ支払い義務があると判断した最高裁。判決のポイントは、次の2点です。
1.生徒は任意で演奏している
2.受講料はレッスンを受ける対価で、演奏への対価ではない
レッスンでの生徒の演奏は、音楽教室による演奏であると評価することはできないと判断しました。
この判決に対して、著作権法に詳しい神戸大学法学部の前田健教授は、「生徒の演奏を教室の演奏だとするのはそもそも無理があった。最高裁も全て無料とまでいえなくても、高額な徴収は望ましくないと考えたのではないか」と指摘します。
この判決を受けて、音楽教室の利用料はどうなっていくのでしょうか。
JASRACは、著作権で保護された楽曲を使っている音楽教室に対し、年間受講料収入の2.5%を楽曲の使用料として徴収するとしていました。これは先生・生徒、両方の著作権料が認められた場合の想定なので、今回の判決を受けて再検討されると考えられます。
音楽教室の授業料は値上げになる可能性がありますが、学校など教育機関での利用は営利目的ではないため、基本的に、著作権料を支払う必要はないということです。
音楽教室に著作権料の支払いを求めることで、利用者の負担が増え、音楽を学ぶ裾野を狭めるというリスクはありますが、アーティストへの分配が増えることで、音楽業界が発展するという考え方もあります。
音楽教室での演奏に著作権料の支払いが必要かどうか。5年に及ぶ激しい法廷論争に決着がつきましたが、この結論が「音楽文化の発展」につながるのかどうか。その審判は、将来下されることになります。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年10月24日放送)