食物アレルギーに悩む子どもたちのために… 7大アレルゲン不使用のケーキとデリの専門店オープン デパ地下のように「どれでもいいよ」 “対応食”のお店を作ったのは「母としての願い」から 2022年10月19日
ショーケースにおいしそうなケーキが並んでいます。作っているのは、あるお母さん。長年、我が子の「食物アレルギー」と向き合ってきました。みんなで安心して美味しく一緒に食べる、そのために工夫を積み重ねたお店ができました。
■食物アレルギーに悩む人たちのために…「7大アレルゲン」使わないお店オープン
西宮に先月オープンしたばかりのケーキとデリ専門店「Mutter(ムッター)」。
経営しているのは、武市圭さん(40)。
【Mutter代表取締役 武市圭さん】
「ここのプレオープン・オープンの時にも、皆さまにいただいた(お花)をこんな感じで吊らしていただいて、ドライフラワーにしています。あったかい気持ちになりますしね」
たくさんのケーキやデリが並ぶショーケースは、まるでデパ地下のよう。実はこの食べ物、「ふつう」とは少し違います。
【Mutter代表取締役 武市圭さん】
「アレルギーの方でも食べられるように、卵・乳・小麦など7大アレルゲンを使っていません。皆さま心配されるナッツ類を使わずにお作りしています」
「7大アレルゲン」とは卵、牛乳、小麦、そば、落花生、えび、カニのこと。この店では、これらの食材は使っていません。
【買いに来たお客さん】
「こっちの子にアレルギーがあって、小麦とか卵が食べられないので、家族みんなで外食をしたりとか、お店の中で何でも選んでいいよというようなことは、ほとんどないので」
ケーキをおいしそうに頬張る子どもたちの姿を見て、嬉しそうに笑う武市さん。「Mutter」は、多くの人が抱える食物アレルギーの悩みに応えるためのお店です。
■お店オープンのきっかけ…我が子の食物アレルギー 「安心して外食できる場所を作りたい」
食物アレルギーがあると、特定の食べ物に対して、本来体を守る免疫のシステムが誤作動を起こして、害を与えてしまいます。少なくとも28の食品が「アレルゲン」になると言われていて、その中でも卵や牛乳、ナッツ類を食べられない人が多くいます。
【ひらせ小児科・アレルギー科 平瀨敏志院長】
「始めはじんましんとかで、口にぷつぷつとじんましんが出てるというようなパターンも多いですけど、そこからどんどん全身にじんましんが拡がって、あれよあれよという間に、せきや鼻の症状が出て、呼吸不全になってというような、重篤な症状を引き起こす方もいます」
厚生労働省などによると、日本国内では乳幼児の5から10パーセント、小学生以上でも、1から3パーセントの人に食物アレルギーがあるといいます。
Mutterを経営する武市さんも、2人の我が子の食物アレルギーと向き合ってきました。
長女が赤ちゃんだった時の育児日記を見せてもらいました。
「咳き込む」「吐いてしまう」「早く治ってほしい」…そんな書き込みに、食物アレルギーについての悩みが表れています。
【Mutter代表取締役 武市圭さん】
「みんなかわいいのに赤ちゃんは、私の子は写真がその間なくて。すごく皮膚が荒れているので、(写真を)撮るとかわいそうだなと思って撮れなくなるので…それを見ていて、私がどんどんしんどくなって」
母乳に影響が出るため、武市さん自身も「アレルゲン」を食べず、離乳食も手作りしました。
その経験から5年前、「子供たちが外食できる場所を作りたい」とアレルギー対応の料理と通常の料理、両方を扱うカフェを神戸にオープンしました。
【Mutter代表取締役 武市圭さん】
「今日は、コーンポタージュ。牛乳を豆乳に変える部分が一番ですね。ただ次女が一時期、大豆がダメだったので、その間はライスミルクを使ったりとか。子どもたちなかなかね、ポタージュとか、チャウダーとか、クリームスープとか食べられないので。白いものは『悪』だって思うので、『悪』じゃないよっていうために作ります」
■「何でも選んでいいよ」と言えるお店を 大人気のチョコレートは牛乳や大豆なし 工夫して作るケーキ
「ただいま」と学校から武市さんの子どもたちが帰ってきました。10歳と12歳になった2人。アレルギーを克服した食べ物もありますが、今も卵、牛乳、エビ、ナッツ類は食べられません。
次女の小春さんが手を出します。
【Mutter代表取締役 武市圭さん】
「はいはい、お菓子ね」
【小春さん】
「チョコってさ、中のクリームって何と何?」
【Mutter代表取締役 武市圭さん】
「ブルーベリーとチョコレート!いいやろ?」
お母さんが作る「食べられる」お菓子や料理。店頭に出す前に、おいしさチェックをするのは2人の役目です。
【Mutter代表取締役 武市圭さん】
「スープ、味見する?早いな2人とも!味見する人?」
「はーい!」と返事する子どもたち。
子どもたちのために。2人の成長とともにその思いは強くなっています。
【Mutter代表取締役 武市圭さん】
「大きくなっていく上で、何も食べるものがないというのが、目で見て分かるようになってきた。ケーキを選びにケーキ屋さんに一緒に行っても、本当に端から端まで見て、『本当に私、食べるものがないんだねって、むなしくなったわ』と言われるので、子どものために『端から端まで何でも選んでいいよ』っていうお店を作りたいから、作らせてというところからスタートしました」
9月、西宮にオープンした第2号店では、「アレルゲン」を一切持ち込まない環境でケーキやデリを作ります。小麦粉が使えないため、とうもろこしの粉やメープルシロップなどを加えることで味のコクを出します。
【Mutter代表取締役 武市圭さん】
「クリスマスケーキ…飾りがね、つけれないんです。サンタさんとかって、マジパンだったりするんですけど、あれって全部卵白なので、ケーキの飾りって買えないんですね。全部一から作らないといけないので、どうかわいく飾ってあげようかなって思って」
大人気のチョコレートも、牛乳や大豆が入っていないものを使います。
【Mutter店長 小坂友美恵さん】
「単調な感じがして、美味しいですけどね。チョコレート好きにはね。酸味が入ってる。下のこれと合いますね」
【Mutter代表取締役 武市圭さん】
「チョコレートすごい、子どもたちが欲しているんだなと。もっと濃厚なチョコレートを出してあげたい」
■2号店はアレルギー小児科の隣 検査頑張ったご褒美はMutterのケーキ
この2号店の隣には…アレルギー小児科があります。「Mutter」では、このクリニックで子どもたちが受けるアレルギー検査「経口負荷試験」の食べ物を作っています。
【ひらせ小児科・アレルギー科 平瀨敏志院長】
「アレルギーかもしれないと言われてるものとか、実際にアレルギーを起こしたことがあるような食べ物を病院で食べていただく検査になっています。昔は完全除去、アレルギーのものは完全に除去しましょうという時代が長く続いたんですけど、アレルギーで絶対食べたらだめだよっていわれているものでも、食べられる量を見つけてあげて、最低限の除去をしながら、食べられる量は食べるということがすごく大事」
この日、ひらせ小児科を訪れたのは、牛乳アレルギーがある智稀くん(4)。牛乳1ccが入ったクッキーを食べて、体の反応を調べます。
これから3時間、アレルギーを発症するかどうか、クリニックで経過を観察します。
しばらくすると…智稀くん、咳をしました。
【ひらせ小児科・アレルギー科 平瀨敏志院長】
「結構咳するね…。一回吸入しましょうか」
智稀くんは、クッキーを食べた1時間後に咳やかゆみの症状が出てしまい、現時点では、まだ、1ccの牛乳は飲めないということが分かりました。
【智稀くんの母】
「これから大きくなっていくと、まだ私の管理だけど、一人で何かするようになると怖いですよね」
【ひらせ小児科・アレルギー科 平瀨敏志院長】
「次はちょっと量を減らして、また1年後ぐらいにしようかなと思う」
負荷試験を頑張ったご褒美は、智稀くんも食べられる「Mutter」のケーキ。ショーケースに飾っているケーキたちを見ながら目を輝かせています。
【智稀くん】
「お母さんがこれ、ともくんがこれ!」
【智稀くんの母】
「お母さんこっち?」
【智稀くん】
「ともくんがこっち、ゆうくんがこっち、お父さんがこっち!」
はしゃぐ智稀くんの頭を優しくなでながら、「みんなで食べようね」と答えるお母さん。
武市さんがお店で見る好きな「光景」があります。
【Mutter代表取締役 武市圭さん】
「初めてケーキ見るねとか、初めてピザがあるとか言っているのを見ながら、選んでくれてるのを見て、お子さんの気持ちもうれしいですし、それを見守るお母さんの気持ちがすごくうれしくて。思いが重なる部分がたくさんあるので、私もうれしくなりますし、じゃあもっと頑張ろう、もっとおいしいケーキを作ろうとか、もっとおいしいデリを出そうって、毎日毎日思いますね」
みんな「同じお皿の上で」。安心して、楽しく、美味しく食べられる世界を作っていきます。
(2022年10月17日放送)