残したいのに「乗らない」のが現状 赤字ローカル線どうする? 新型コロナで鉄道会社は岐路に 進む赤字路線の見直し 魅力ある観光地があっても苦しいJR山陰線 夕張の「攻めの廃線」に学ぶところは 2022年10月13日
風光明媚な日本海沿いをかけぬける列車。空の駅と呼ばれる「余部(あまるべ)鉄橋」は、集落と海が織りなす、まさに絶景スポット!日本有数の温泉街に、冬には新鮮なカニまで!
そんな魅力あふれる街を行くローカル線が…何と関西で1・2を争う「赤字路線」でしたー
■岐路に立つ「JR山陰線」
JR山陰線の城崎温泉駅。大阪方面から毎日のように多くの旅行客が降り立ちます。しかし、その先の「城崎温泉~浜坂」間では、事情が変わってきます。
JR山陰線の城崎温泉~浜坂区間を走る列車内で話を聞きました。
【買い物帰りの男性】
「きょうは買い物!竹野から来ました」
–Q:普段から列車を使われるんですか?
【買い物帰りの男性】
「使います。僕、車持ってないので」
【病院帰りの女性】
「病院に注射して薬をもらいに、1週間に1回乗る」
–Q:もし列車じゃなかったら行きづらい?
【病院帰りの女性】
「行かれません」
インタビューを受けてくれた女性が降りたのは香住駅。駅から自宅までは歩いて30分の道のりです。
佐津駅では、列車は1時間におよそ1本。ワンマン列車だから降りる人がいないと、ドアも開きません。
この地域では、人口が減り続けているのに加えて、高速道路の整備も進み、利用客がこの25年で6割以上減少。
ローカル線は今、岐路に立たされています。
【JR西日本兵庫支社 國弘正治支社長】
「大量にお客様をお運びする交通としての特性を十分に発揮できていない。需要は少ないのに大きな装置で走らせていくのに限界が来ているのではないかな」
ことし4月、JR西日本はローカル線の利用状況と収支を初めて公表。利用が少なく運行の見直しが必要な路線区に、山陰線の「城崎温泉~浜坂」間も挙げられました。
これまでJRは都市部の路線や新幹線でローカル線の赤字を穴埋めしていたものの、新型コロナの影響で赤字路線との向き合い方を見直さざるを得なくなったのです。
■路線存続訴える自治体 一方…地域住民の本音は?
一方で自治体側は…
【香美町 浜上勇人町長】
「具体的な数字を示されると本当に…要望会(JRとの検討会)に行っても返す言葉がないんですよ。少子高齢化の著しい地域なので、路線の維持だけは何とかお願いして続けていただく方向で」
住民は廃線の危機に対して複雑な思いを抱えていました。
–Q: 列車がなくなったら?
【中学生たち】
「学校・通学に一番困ると思う」
とは言っていても…
【中学生たち】
「バスの方がいい。目的地のすぐそこまで連れていてくれるから便利」
【地域住民】
「電車がなくなったら困るけどね。年寄りは免許を返したら車乗られない」
それでも実際は…?
【地域住民】
「何十年と汽車に乗ったことないな。どこに行っても車移動やな」
【カニを買いに来た夫婦】
「申し訳ないけどまず乗らないね。電車本数少ないし。何とか存続して欲しいと思いますけどね」
–Q:存続してほしいけど、乗らない?
【カニを買いに来た夫婦】
「それが本音」
鉄道を残したい思いと「今、列車に乗るか」どうかは必ずしも一致しないようです。
【JR西日本兵庫支社 國弘正治支社長】
「地域にとって一番望ましいものとして鉄道ありきで考えているより、柔軟で利便性が高くて持続性があるものを作れると思いますし。そういう事例もあるので」
■夕張では「攻めの廃線」
JRと自治体が協力して、新たな交通機関に転換した地域があります。メロンの産地として有名な北海道夕張市です。
市内を南北に走っていたJR石勝(せきしょう)線(夕張支線)は、人口の減少で利用者が減り続け、3年前、惜しまれつつも127年の歴史に幕を降ろしました。
その廃線を提案したのは、異例とも言える夕張市側だったのです。鉄道の代わりとなったのは「バス」です。当時の夕張市長は、バスの購入や停留所の整備、20年間の運行費の補助として7億5000万円の支援金をJR北海道が出すことと引き換えで、廃線に合意しました。
【夕張市・厚谷司市長】
「鉄橋やトンネルとか老朽化した構造物の維持が困難になってきた。収支が見合わない。市としては当時の市長も『攻めの廃線』としていたが、時期的には妥当だったと私も思っています」
路線バスの経路も見直し、夕張支線とほぼ並行して走るバスは、鉄道の倍の本数に。停留所の数も6倍となり、地域を細かく回れるようになりました。
【利用者たち】
「(鉄道が)なくなった時は寂しかったね。今は慣れたから」
「むしろバスの方が便利。本数が多いこと。JRは2時間に1本とかだったし。駅だと結構歩かないといけないし」
■課題を残しながらも 赤字はわずか1割に
それでも、バスに転換したことで負担が大きくなったこともありました。廃線となった区間を比べても、運賃は倍以上になり、かかる時間も新夕張駅~旧夕張駅間で鉄道より15分以上増えていました。
また、バスの運転手不足の影響で、今の運行本数を維持することでギリギリの状態。その影響でタクシーにしわ寄せが…
午後2時になるとタクシーは、一旦事業所に戻ります。
【夕張第一交通 小野寺利郎さん】
「これからはあちらのバスで出るので、(バスを)出したいと思います」
運転手が乗り換えたのは、なんとスクールバス。元々スクールバスを運営していたバス会社の人手が足らず、タクシー会社がその役割を担っているのです。
その結果、スクールバスの時間帯は、市内のタクシーがほぼゼロになりました。
【夕張第一交通 小野寺利郎さん】
「(タクシーの客が)緊急で病院まで行かないといけないとか、今すぐ出かけないといけないという時は心苦しいけれども」
バスへの転換から3年半。夕張支線の赤字額は年間1億6千万円ほどありましたが、バス運行の赤字額はその1割以下の年間1300万円ぐらい。赤字を9割減らすことができました。
路線見直しの議論が始まった兵庫県のJR山陰線。地元の中学生が、無人駅の掃除をしていました。
子どもたちが大人になった時、街はどう変化しているのか。路線の数だけ答えがあります。
(2022年10月12日放送)