「へこんだのは眼球だけ」 片目を失明したプロサッカー選手 フットサルFリーグに参戦 前だけを見て“誰も見たことのない世界”で挑戦続ける 2022年10月05日
海外で活躍するプロのサッカー選手だった男性。トレーニング中の不慮の事故で片目の視力を失い視覚障害者となりました。それでも夢を諦めず、もう一度憧れの舞台に立つため、“誰も見たことのない世界”で戦っています。
■夜は白杖が必要 視覚障害者のフットサル選手
フットサルの日本のトップ選手が集まるFリーグ。「デウソン神戸」のキャプテン・松本光平さん(33)。Fリーグで唯一、視覚障害がありながらプレーをしています。
夜道、白杖を使って歩いています。
【松本光平さん】
「ここは毎日一人で行っていて、帰りは送ってもらったりしています。夜はほとんどライトしか見えていない。ここ壁が白いのでまだ分かりやすくて、杖を夜とかは絶対使うようにしている」
夜に行われるチーム練習です。
松本さんがチームに入団したのは今年5月。視力を失う前は海外で活躍するプロのサッカー選手でした。
■サッカーのクラブワールドカップに出場した唯一の日本人選手
ガンバ大阪のユースに所属し全国大会で優勝。高校卒業後は海外に渡ると、ロンドンにあるチェルシーの下部組織から始まり、ニュージーランドなど多くの地でプレーしました。
そして2019年、クラブ世界一を決めるクラブワールドカップにオセアニア王者の一員として日本人唯一の出場を果たしました。
【松本光平さん】
「クラブワールドカップに出て活躍してもっと大きなビッグクラブに行きたいっていうことだったんですけど6年かかってようやく出られたんですけど、個人的にもチームも結果も内容も良くなかったので」
■トレーニング中に…異国の地で失った“光”
「もう一度あの舞台で戦いたい」、そう思ってトレーニングをしていた矢先のことでした。
【松本光平さん】
「金具にチューブをひっかけて引っ張る筋トレをしていたら、留めていた金具が外れてチューブの勢いで、飛んできた金具が右目に刺さって、こっち(左目)にチューブが当たってしまって、目が見えなくなりました」
2020年、日本に帰国し緊急手術をしましたが、右目の視力を失い、左目も0.01以下に。見える世界が変わってしまいました。
これまでと全く違う景色に、最初は歩くだけで転んだり、すぐに気分が悪くなったりしたといいます。
医者からは再びサッカーをすることは無理だと言われましたが、懸命のリハビリを続け、わずか4カ月でプレーできるようになりました。
【松本光平さん】
「(ケガした)年の12月にクラブワールドカップっていう世界大会があって、その世界大会に絶対出るって決めていたので、本当に目の見え方どうこうではなくて、サッカーに復帰するためには、早く手術してリハビリするしかないので。ポジションが右サイトバックで、こっちタッチラインなので。『じゃあ右目の視力いらないかな』って、左目があったらサッカーできるなって思って」
再びサッカーで目標の舞台に立つために。そこで新しく始めたのがフットサルでした。
■再び世界でプレーするため 新しい学びを求め「フットサル」
【松本光平さん】
「細かいプレーや対人の部分で、目をけがした後は、弱くなってしまったっていう感覚があって。細かいプレーや対人面がフットサルはサッカーより多いので、弱いところを補うために、フットサルでそういうところを学びたいなっていうのが始めたきっかけです」
チームでの練習では、誰よりも厳しくトレーニングに取り組む松本さん。副キャプテンの山野さんは、若干バテ気味で冗談を口にしました。
【「デウソン神戸」副キャプテン 山野瞭さん】
「光平君の横にいると、さぼっているみたいになる」
【松本光平さん】
「すぐさぼるんですよ」
【山野瞭さん】
「光平君あかんって。できる人の隣行ってよ。おらんわ、こん中でまだできる方やったわ」
フットサル歴はまだ5カ月ほどですが、キャプテンとしてチームを引っ張る松本さん。
山野さんと一緒に車で食事に出かけます。
–Q:松本さんはどんな人?
【山野瞭さん】
「普通ではないですよね。僕にとってもチームメイトにとっても光平君がいるだけで頑張らないとあかんなとか、やらないとあかんなとかその気にさせてくれる存在ですかね。すごくありがたい存在です」
この日、トレーニングの後の食事では、「海鮮丼」を注文しました
【山野さん】
「醤油かけていいですか?」
【松本さん】
「かけたらあかん」
【山野さん】
「こういうのも(海鮮丼)醤油かけたらいつも怒られるんですよ」
【松本さん】
「素材の味おいしいから」
【山野さん】
「サラダもドレッシングかけたら駄目なんですよ。あのトレーニングの後にパクパク食べられるのはすごいですね。喉に通らなくなるとかないんですか?」
【松本さん】
「トレーニングやから」
何に関してもストイックな松本さん。体づくりのためにと極力調味料などを取らないようにしています。
–Q:きれいに食べますね
【松本光平さん】
「色は分かるので、白茶碗にご飯は結構汚いことになっているらしいですけど、こういうのは分かります」
視力を失っても、できる限り不自由なく生活できるようにと仲間もサポートしています。
【松本光平さん】
「チームのグループラインがあるんですけど、僕見えないので。ボイスメッセージって言って音声で個別に色々教えてもらっています。あんまり携帯電話使わないので、電話とボイスメッセージがあればいけますね」
「けがをする前よりももっとうまくなる」、そう思って、毎日のように朝、昼、晩とトレーニングを続ける松本さん。
片目が見えないことで、バランスが崩れてケガをすることもあり、体のケアも欠かせません。そして視界のハンデを補うため、目と脳のトレーニングも取り入れています。
■「見えていたときよりうまくなる」 以前と変わらない目標に向かって
【松本光平さん】
「この目の障害でハンディキャップがあるかもしれないけど、色々な部分で補って目が見えていた時の自分よりもうまくなってやろうと思っています。目をけがする前からクラブワールドカップに出るっていう目標があって、目をけがした今もそれは全く変わっていないので、目標を達成できるようにするのが第一」
–Q:へこむことはありますか?
【松本光平さん】
「今のところへこんだのは、眼球だけですね」
9月、神戸の本拠地で行われたFリーグの公式戦。松本さんは先発メンバーとしてピッチに立ちました。前半から積極的に攻撃に参加する松本さん。デウソン神戸が開始早々に先制点を決めます。
しかし、その後は続けざまに点を入れられ厳しい展開に。それでも松本さんは相手にプレッシャーをかけ続け、チームを鼓舞します。この日は惜しくも敗れましたが、松本さんは前だけを見続けています。
【松本光平さん】
「目をけがしてから今までできていたことができなかったりとかプレースタイルも変わったけど、まだまだ成長できると思っているし、僕自身もこの目でFリーグの舞台だったりとか、今後Jリーグの舞台を目指してやっているので、僕がそういった舞台で活躍することで目が見えなくても活躍できるんだよということを見せていけたらいいなと思う」
希望をもって一歩ずつ。誰も見たことのない世界を突き進んでいきます。
(2022年10月3日放送)