よみがえった2台のピアノ 東日本大震災の津波から…そして九州豪雨の濁流から 「奇跡のピアノ」×「希望のピアノ」が大阪で初共演 “音の鳴らない”状態から懸命な修復作業で蘇った『音』と『音』のハーモニー 関わった人々の“思い”と被災地の“記憶” 2022年09月15日
泥にまみれた2台のピアノ…1台は、東日本大震災による津波で、そしてもう1台は、2020年の九州豪雨で濁流にのまれました。
修復不可能な状態から、懸命の修復作業でよみがえり、それぞれ「奇跡のピアノ」、「希望のピアノ」と呼ばれた2台が、はじめて大阪のコンサートで共演しました。2台のピアノが奏でる音色に込められたメッセージとは?
■津波にのまれ…福島県いわき市の「奇跡のピアノ」 砂と泥にまみれ“修復不可能”からの復活 全国各地に被災地の“記憶”
コンサート会場にピアノが運び込まれます。
「やっぱちょっといろんな振動の影響なんでしょうかね。やっぱ結構(音の調子が)変動してますよね」と話すのは、福島県いわき市のピアノ調律師・遠藤洋さん。
【遠藤洋さん】
「この2台のピアノっていうのがね、こういう風になるって全然そういう想定は全くしていなかったですからね」
横倒しになった1台のピアノ。2011年の東日本大震災で津波の被害を受けた、福島県いわき市の中学校にあったピアノです。
この場所で調律師の遠藤さんはピアノと出会いました。
ピアノは泥と砂にまみれ、修復はほぼ不可能な状態でした。
【ピアノ調律師 遠藤洋さん】
「震災、自然災害があったことによって(ピアノが)なくなってしまうっていうのはね、何かかわいそうだなあっていうようなね。このピアノを見てもかわいそうだな」
ピアノを引き取り、修復作業にとりかかった遠藤さん。およそ半年をかけ、懸命な努力によって、ピアノは復活を遂げました。
【ピアノ調律師 遠藤洋さん】
「がれきが当たった跡なんですよこれ。こういう震災があったこともね、忘れちゃいけない。まあ、そういった意味で傷を残したんですよ、そのまま」
このピアノは「奇跡のピアノ」と呼ばれ、全国各地で被災地の記憶を届けてきました。
■豪雨災害で水没…熊本県球磨村の「希望のピアノ」 兵庫・尼崎のボランティアが支援 「子供たちのため、思い出のピアノ取り戻したい」
2020年に九州を襲った豪雨災害。熊本県では67人が犠牲になりました。球磨村の小学校にあったピアノは濁流にのまれました。
現地で被災者の支援に取り組んでいたのは、兵庫県尼崎市のボランティアチーム MOVEです。
【ボランティアチーム MOVE代表 山中裕貴さん】
「この学校にはもう子供たちは戻って来られなくて、ここでこれから行事もできないっていうお話を聞かせてもらったときに、何かこの思い出に残る学校のピアノだけでも戻せたら、子供たちは喜んでくれるんじゃないかなというふうに思いました」
ピアノメーカーに修理を断られるなか、引き受けてくれたのは、「奇跡のピアノ」を復活させた、調律師の遠藤さんでした。
【ピアノ調律師 遠藤洋さん】
「いやまあ最初見た時はびっくりしましたね。悲惨な状態でしたけど。でも山中さんの気持ちがよく理解できてね。それでまあ“やろうか”っていう」
福島県いわき市にある、遠藤さんのピアノショップで音を取り戻す作業がはじまりました。
【ピアノ調律師 遠藤洋さん】
「一度洗いながら、ここを新しい物に張り替える。なるべくなら、ベストな状態になるように仕上げてあげたいなっていう思い」
汚れたパーツを入れ替えていく、地道な作業がおよそ3カ月続きました。
球磨村の再建を願い、「希望のピアノ」と名付けられました。
■福島の「奇跡」×熊本の「希望」 2台のピアノが奏でる復興の音色 大阪のコンサートで初共演
あれから2年― 「2台のピアノが奏でる復興の音色を届けたい」という2人の気持ちがようやく形になりました。
遠藤さんがコンサート会場で調律しています。
【ピアノ調律師 遠藤洋さん】
「うん、いや、熊本(のピアノ)いいですよね、これ」
【ボランティアチーム MOVE代表 山中裕貴さん】
「よかったですか?」
【ピアノ調律師 遠藤洋さん】
「向こう(福島の奇跡のピアノ)の(手入れ)を頑張らないといけないなあ。うん」
【ボランティアチーム MOVE代表 山中裕貴さん】
「じゃあ明日は最高の音が?」
【ピアノ調律師 遠藤洋さん】
「鳴るんじゃないの?多分、いや、いいですよ」
いよいよコンサート当日を迎えました。
まず熊本の「希望のピアノ」で『朝日のあたる家』が演奏され、続いて福島の「奇跡のピアノ」で地震直前の卒業式で生徒たちが歌っていた『未来へ』が合唱とともに演奏されました。
そしてついに、2台のピアノがはじめて共演。多くの支援でよみがえった「奇跡のピアノ」と「希望のピアノ」で「故郷」を弾きます。
2台のピアノが生み出すやさしいハーモニーが観客を魅了しました。
コンサート終了後―
【ボランティアチーム MOVE代表 山中裕貴さん】
「いや、本当に奇跡の一日だったなというふうに思ってます。色々な支援の仕方があると思うんです。被災地に行く支援もあれば、行けないけど、また違った形での支援があったり。音楽を通して伝えていくっていう行動も支援の一つだと思っていて」
【ピアノ調律師 遠藤洋さん】
「これから、もっとこのピアノをね、優しい音色でありながら、音が通るっていうね。もっと私たちも努力して、このピアノをね、いい音に。これからも、このピアノと共に生きていくのかなあ」
「災害の記憶」を紡ぐ、2台のピアノ。命を吹き返したピアノは、何度でも立ち直る強さを伝えてくれます。
(2022年9月13日放送)