物価高対策は有効? 小麦とガソリンに的を絞るのは「評価できる」と日本総研・若林氏 京大・藤井氏は「ケチな財務省のケチな支援にとどまっている」 打開策を2人の専門家が激論 2022年09月09日
岸田首相は、エネルギーや小麦などの価格高騰を受け、現金給付や補助金を出すといった物価対策を正式に決定しました。私たちの生活には、どの程度影響があるのでしょうか。
9月9日に政府が発表した物価高対策。住民税非課税の1600万世帯を対象に5万円支給、ガソリン補助金の年末までの延長でガソリンの価格上昇を抑制、輸入小麦の売り渡し価格の据え置きで小麦価格を維持する、といった内容です。
経済対策について、日本総研 関西経済研究センター長の若林厚仁さんと、報道ランナーのコメンテーターでもある京都大学大学院の藤井聡教授に話を聞きます。
――Q:若林さん、この対策はどこまで効果があるのでしょうか?
【若林センター長】
「物価高と言われていますが、上がっているのは主に食料品と、ガソリン等のエネルギー関係です。そう考えると、食料品(小麦)とガソリン、また、生活必需品を買うのも大変な、所得が比較的低い世帯に集中的に支援を行うということで、的を絞った経済政策として、私は評価しています」
――Q:藤井教授も経済の専門家ですが、どうみますか?
【藤井教授】
「一言で言うと、財務省のケチな態度で、ケチな支援にとどまっている典型的な例。確かに効果のあるところに的を絞っていると思いますが、そもそも物価が2~3パーセント上がっていますから、金額で言うと6~7兆円、国民の負担が増しているんです。6~7兆円くれたら国民の負担はなくなるんですけど、今回の対策では5万円支給で9千億、ガソリンや小麦も数千億の話ですから、結局6~7兆円ほしいところを1.5~2兆しかくれないんです。焼け石に水です。物価が『多少上がってもしょうがない』と思うなら今回くらいの対策になるけど、僕は国民の負担をゼロにするために、6~7兆出せばいいと思う」
そんな中、物価高で生活が苦しいにも関わらず家計の負担増につながりそうなのが、円安です。円がいよいよ145円近くになり、ダブルパンチの状況になってきました。海外旅行から戻った人たちに話を聞いてみると…
【ハワイから帰国した夫婦】
「今考えたら、確かにカフェラテとか6、7ドルとかしてたので1000円弱ぐらいでした」
「朝ごはんで3000円はザラみたいな感じだったので、基本全部高かったね」
「アサイーボール15ドルとかやったもんね。あれ2000円もしてたんや…高いっすね、全部高いや。4000円以上してるってことやな、朝ごはん」
日銀の黒田総裁は「急激な為替レートの変動は将来の不確実性を高めてしまうという意味で好ましくない」と述べ、円安の動きをけん制しました。この発言を機に円が急激に買い戻され、円相場は一時142円台半ばまで値を下げましたが、効果は一時的なものとみられます。
みずほリサーチ&テクノロジーズの、円安がもたらす家計への影響の試算では、1ドル145円が続いた場合、1年間で8万1674円の負担増となる見込みです。内訳は、食費が3万9030円、光熱費が3万3893円、家具・家事用品などが8751円です。
――Q:若林さん、本当にこのくらい家計に影響するんですか?
【若林センター長】
「そうですね。月に換算すると7000~8000円くらい。食料品はパンやカップ麺が1~2割、光熱費も2割くらい値上がりしているので、年間にするとこれくらい増えるというのは、十分に考えられると思います。こういった中で、家計では“節約する”ことしかできませんので、例えばパンが値上がりしているなら値上がりしていないお米を食べるとか、1人の移動ならマイカーではなく公共交通機関や自転車を使うとか。値上がりしているものから値上がりしていないものへ、生活をシフトしていくことが大事だと思います」
――Q:国にも何かしてほしいところですが、いかがですか?
【若林センター長】
「インバウンド復活ですね。物価高の原因の一つが円安ですが、イバウンドは“サービスの輸出”と言われています。アメリカから旅行に来る人が、自国通貨のドルを売って円を買う。こういった一連の流れが円安阻止になりますし、今苦しんでいる観光業、サービス業も潤うので、感染症対策との兼ね合いはありますが、一歩踏み込んだ水際対策の緩和は求められると思います。ビザの見直しや個人旅行の解禁ですね」
――Q:藤井教授はどうですか?
【藤井教授】
「僕は消費減税を求めます。インバウンドの対策を進めるのは賛成ですが、効果が1兆円程度しか見込めないと思います。一方、物価高は円安等を考えると、8~9兆円のお金がないと、われわれに負担がかかってくる。外国人に払うお金が8~9兆円高くなっているなら、それを全部政府が出してくれたらいいわけです。ところが1~2兆円しか出してくれていない。消費減税は、1パーセントで2兆円ほど政府が支出することになります。5パーセント減税すると10兆円で、円安と物価高のショックが吸収されます。僕らの負担を全部政府が肩代わりしてくれることになるので、今こそ5パーセントにするべきです。円安や物価高になる前から、経済はコロナで大変でした。そこに戻るのに5パーセントで、本当は経済を成長させなくちゃいけない。このショックをゼロにするくらいのことをしないと日本に未来はないと思います」
――Q:消費減税について若林さんはどうですか?
【若林センター長】
「そうですね、消費減税についてはいろんな意見がありますが、もしやるなら現在は8パーセントの軽減税率を5パーセントにして、本当に困っている世帯の食料品等をサポートするような形が検討の要素に入ってくるのかなと思います」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年9月9日放送)