『アフガニスタンの今』…タリバン支配から1年 国際NGOからの支援が滞る“難民キャンプ”の惨状 強まる少数民族への迫害 そして、女性たちが訴える「食べ物・仕事・自由」 日本にいる避難民 「一人でも多くの人に“祖国の声”届けたい」 2022年09月05日
イスラム主義組織タリバンが、アフガニスタンを支配して1年がたちました。国際社会から孤立したこの国では、今何が起きているのでしょうか?現地住民と、日本で避難生活を送る家族の声を聞きました。
■アフガニスタン 去年8月、米軍撤退でイスラム主義組織「タリバン」が暫定政権発足 フリージャーナリストが取材
イスラム主義組織・タリバン。2021年8月、アメリカ軍がアフガニスタンを撤退すると、国を制圧し、暫定政権を発足し国民は混乱に陥りました。
あれから1年―。人々の暮らしは、どう変わったのでしょうか。
アフガニスタンの首都カブールで取材するのはフリージャーナリストの西谷文和さん(61)。西谷さんは20年にわたり、アフガニスタンを取材してきました。
【西谷文和さん】
「この壁画はタリバンが書いたんですけど、『俺たちはアメリカをやっつけたぞ』と書いてあります」
■タリバン支配から1年 アフガニスタン 難民キャンプの惨状
この映像は、2週間前、首都カブールの“難民キャンプ”で撮影されました。男の子を抱っこしている女の子がいました。
【西谷文和さん】
「(この子)パンツはいてへんな…」
中に入ると…
【西谷文和さん】
「あ、牛買ってはるわ 結構な臭いしますね」
タリバンが支配する前は、国際NGOなどから必要な物資が届いていましたが、この1年、支援は滞ったままです。
【難民キャンプの避難民】
「雨が降ると家の中に水が入ってくるんだ」
【西谷文和さん】
「屋根がないですね」
【難民キャンプの避難民】
「屋根はタリバンが壊したんだ。タリバンが『ここは政府の土地だから住んではいけない』と壊しに来たんだ」
内戦などの影響で、居場所を失った人のために前政権が建てたのが、この“難民キャンプ”でした。しかし、タリバンは「政府の土地」だとして、住民に使用料を求め、払えない場合は立ち退きを命じています。
【西谷文和さん】
「これ見てください。子どもたちが食べてるのは、レストランからの残り物を水につけています。水にパンをつけて食べてる」
【西谷文和さん】
「これしか食べていないの?」
【難民キャンプの子ども】
「うん」
【西谷文和さん】
「野菜やお肉は?」
【難民キャンプの子ども】
「ううん」
と首を振った後、パンをおいしそうに食べていました。
■タリバン政権下…少数民族の迫害 女性の教育の自由奪う
また、タリバン政権下で少数民族の迫害も、より一層深刻に。ここは、人口の9%しかいない少数民族ハザラ人が多く通う学校です。
ことし4月、ハザラ人の生徒たちを狙ったとみられる自爆テロが起き、9人が死亡、40人以上が重軽傷を負いました。
また、タリバン政権下の学校では別の問題も…
【女子学生たち(小学3年生)】
「先生、こんにちは!」
【西谷文和さん】
「(勉強を) 頑張っとるわ」
ここで学んでいるのは、小学生の女の子たち。タリバンは、彼女たちが中学や高校に進学することを認めていません。
【西谷文和さん】
「将来の夢は?」
【女子学生たち】
「医者!!」
先生が、「医者になりたい人?」と聞くと、みんなが手を上げました。
【先生】
「みんな大きな夢があるみたいだけど…この国では難しいわね」
女性たちは、“教育の自由”さえも奪われていました。
■女性たちが失った「食べ物・仕事・自由」 タリバンの監視かいくぐり、女性の権利訴える抗議活動
【抗議をする女性たち】
「私たちにも公平な権利を!監禁されるのはもう嫌だ!」
少数民族ハザラ人で、ジャーナリストのホダ・カモッシュさん(27)。タリバン兵が目を光らせる中、女性の権利を訴える抗議活動を繰り返しました。
【ホダ・カモッシュさん】
「初めてデモをしたとき、35人の女性が集まってくれました。私たちは、『食べ物、仕事、自由』と叫びだすと、タリバンは私たちを暴力で阻止し、空に向かって銃を撃ち始めました」
その姿がメディアに取り上げられ、ノルウェーで開かれた会合では、同席していたタリバン幹部に、女性は自由を失ったと直接訴えました。
【ホダ・カモッシュさん】
「タリバンは私が訴えたことを全て否定しました。他の国が参加する会合では、事実を認めたくなかったのです」
会合後、ホダ・カモッシュさんはタリバンに自宅を荒らされたことを知り、帰国することを断念しました。
【ホダ・カモッシュさん】
「私は勉強を続けたい。着たい服を着て、笑いたいときに笑って、恋愛も自由にできる。そんな社会で生きたいです。タリバンの奴隷になんてなりたくありません」
■アフガニスタンから日本へ…避難民の今 「平和が戻るまで声上げ続ける」
アフガニスタンから日本へと避難してきた少数民族ハザラ人のロキアさん一家。ことし2月から、親戚が住む埼玉県で暮らし始めました。
【ロキア・アジジさん】
「息子に『クラスメートが持っているカバンが欲しい』と毎日頼まれて。今はお金がないから、お金ができたら買ってあげると約束してたの」
【セイラト・アジジくん(ロキアさんの息子)】
「ランドセル…」
ロキアさんは、アフガニスタンでは、医師として政府軍の病院で働いていました。しかし、ロキアさんのように、ハザラ人で社会的地位も高い女性はタリバンの標的となり、国を離れざる負えなくなりました。
【ナジブラ・アジジさん(ロキアさんの夫)】
「貯金、投資、お金、自宅、車、すべてを失ったこと、そんなことは、もうどうでもいいんです」
【ロキア・アジジさん】
「私は子供たちが平和な場所で育ち、将来の夢がかなえられることを願ってます」
ロキアさんたちを日本へ避難させたのは、大阪を拠点とする支援団体・“シナピス”です。シナピスは20年以上、日本に暮らす難民や外国人のサポートをしてきました。
【社会活動センター・シナビス 松浦・デ・ビスカルド篤子さん】
「2021年8月にね、アフガン人たちからの『助けてくれ』という声。『この女の子だけでも助けたってくれ』とか連絡があるんですよね。(1年たった)今も絶えずそれを言われてます」
ことし6月京都市内で、ロキアさんは、女子校に通う生徒たちにこれまでの経験を語りました。今自分にできることは、一人でも多くの人に、“祖国の声”を届けることです。
【ロキア・アジジさん】
「私たちは国を出ようとしたとき、『前に進んだら銃で殺す』とタリバンに言われて、何ども諦めました」
【高校1年の女子生徒】
「私たち子供でもできることはありますか?」
【ロキア・アジジさん】
「私たちの国に平和が戻るまで、アフガン人は声を上げ続けます。日本人の皆さんは、勉強する自由と学校という環境があります。なので、努力してください。未来を支える人として。日本をより良い国にできると信じています」
いつか平和を取り戻す日まで、アフガニスタンの人々はきょうも戦っています。
(2022年9月2日放送)