子どもの"わずかな変化"を見逃さない… 虐待相談件数が10年間増えていない大阪市西成区 背景に親や行政に「任せきり」にしない体制 摂津市・3歳児虐待死事件1年で見えてきた課題 2022年09月01日
■悲惨な児童虐待事件を2度と起こさせない…再発防止を誓う市職員ら
8月31日、摂津市役所では職員らが黙とうを捧げていました。一年前に3歳の子どもが死亡した事件を振り返り、再発防止を誓いました。
バースデーケーキを前に喜びを見せる新村桜利斗(にいむら・おりと)ちゃん。2021年8月に亡くなりました。同居していた母親の交際相手からの虐待で死亡したものとみられています。交際相手の男は桜利斗ちゃんに、熱湯を浴びせて殺害したとして起訴されています。
■なぜこの事件は防げなかったのか…
桜利斗ちゃんのケースを担当していた摂津市の対応について、大阪府の検証部会が指摘したのは「リスク評価の甘さ」です。当時、摂津市には母親の知人や保育所から、桜利斗ちゃんへの虐待を疑う情報が何度も寄せられていたものの、市は「母親とコミュニケーションが取れていることから緊急性はない」と判断していました。寄せられた情報を虐待防止に活かすことができなかったのです。
■悲劇を繰り返さないために… 子供を守る取り組みの“今”
摂津市の家庭児童相談課は子どもの虐待対応の”最前線”です。桜利斗ちゃんの事件後、市はそれまで5人の職員で対応していたところを8人に増員。虐待への対応を4人1組のチーム制で行うことにより、職員1人にかかる負担を減らしました。さらに…
【摂津市の職員】
「市役所の家庭児童相談課です」
事態が深刻になる前に異変を認知できるよう、幼稚園や保育所などの見回りを専門に行う「幼保ソーシャルワーカー」というポストを用意。精神保健福祉士の資格を持つ人を新たに採用しました。定期的に市内の幼稚園などを見回り、直接、園の担当者から子どもの様子について聞き取り調査を行います。
――Q:子どもの身体チェック(あざが無いかなど)してますか?
【園の担当者】
「朝の登園の時に視診、触診は必ずしています。いまはお昼寝やプールもある時期なので、着替える時には必ず、(身体にあざがないかなど)確認するようにしている」
「幼保ソーシャルワーカー」が配置された4月以降、摂津市では2021年の同時期と比べ、園からの情報提供は2件から12件へ、6倍に増えました。虐待に関する情報をより早くキャッチできるようになってきました。
【園の担当者】
「心強いですよね、ソーシャルワーカーに直接話しやすいし、来ていただくことで子どもの顔を知ってもらったりとか、様子を細かく知らせることができるので」
重大な事案を未然に防ごう…と変わってきた摂津市。職員の負担を減らす努力が続いていますが、厳しい現状もあります。虐待問題に長く関わってきた児童相談所の元所長・津崎哲郎さんは「行政だけによる虐待対応には限界がある」と訴えます。
【児童相談所の元所長・津崎哲郎さん】
「行政の職員だけで対応する限界を超えていると思う。改善していこうと思うと行政が民間と連携して、民間のサポート体制を強化して連携して社会全体で対応する仕組みを構築していかない限り、問題は解決しないだろうと」
■虐待の相談件数が”増えていない” 大阪市西成区の取り組みとは…
全国の児童相談所で虐待の相談件数は増える一方で、大阪市でも増え続けています。そんな中、大阪市のなかでも西成区では、虐待相談件数は10年前からほとんど増えていません。そこには「社会全体で対応する仕組み」のヒントがありました。
放課後、子どもたちが集まってくるこちらの場所は民間の支援団体「こどもの里」です。様々な事情を抱える家庭が多い西成の地で、45年間に渡って子どもたちの居場所となってきました。取材に訪れたこの日、子どもたちが元気いっぱいに駆け寄ってきました。
【子どもたち】
「あんた誰~、あんた誰~!」
【こどもの里スタッフ】
「まず自分が名乗りなさい」
誰でも無料で利用できるこの施設。運営は寄付などで成り立っています。利用する子どもたちはスタッフと一緒に遊んだり宿題をしたり、まるでもう一つの家族のようです。
――Q:子どもの元気がなかったら分かる?
【こどもの里スタッフ】
「なんとなく(そんな雰囲気を)出してきたり、話したそうに寄って来るとか、自分からイライラを出してきて、”様子がおかしいな…”と思ったら、『何かあったん』ってこちらから声かけて話を聞く時もありますね。小さい頃から知ってる子どもたちが中高生になっても、まだこの場所にやって来ます」
多くの時間を一緒に接するからこそ分かる子どもたちの“わずかな変化”。救われているのは子どもだけではありません。
――Q:親にとってはどういう場所?
【子どもを預けている母親は…】
「安心できる、すごく助かる。自分がしんどい時とか一人になりたい時とか、晩御飯をお願いしたり。子どもだけじゃなくて親の事も考えてくれるので、誰にも相談できへんことは、ここに言ったりとかも全然あります」
「こどもの里」以外にも、西成区ではこうした子どもの居場所が、他の地域より多く存在してきました。子どもの居場所を運営する団体は行政との関わりも深く、保護や支援が必要な子供について情報共有がスムーズに進んでいます。行政任せではなく、地域住民が支援の中心となっています。
【こどもの里・荘保共子理事長】
「お母さんたちもしんどい訳だからね、すぐ『お母さん、どうしたん』って声を掛けることが出来るし。それは区だけじゃ無理でしょ。西成区がそうなっているのは学校の先生、地域の人を含めて、(子どもたちを)見ている人がお互いに連絡を取りながらやってるからこそできている」
西成区の担当者も、民間との連携によって”深刻な事態”になる前に介入しやすいと話します。
【西成区子育て支援担当課・宇野新之祐課長】
「(西成区は)身近なところでSOS情報をキャッチできる体制が構築できているので、近年になって急に虐待の相談件数が増えるとかそういうことはないのかな…と。保護者、子供の負担にならないように”自然な声掛け”ができている。それが、時期を逃さずに必要な機関の支援につなげていける」
摂津市で起きた痛ましい虐待事件から1年。悲惨な事件を未然に防止するために、保護者や自治体に”任せきり”にしない地域全体での「見守り体制」を構築することが求められています。
▼児童相談所 虐待対応ダイヤル:189
(※通話料無料)
(関西テレビ「報道ランナー」9月1日放送)