安倍元首相が奈良県内で応援演説中に銃撃され、死亡した事件。
8月25日に警察庁が発表した検証報告書で、事件当時の詳細な警備の様子が分かってきました。
報告書では、安倍元首相が銃撃された要因に「後方の警備に空白が生じる警護計画」と「現場指揮の不備」があったと結論付けています。
その上で警察庁は、新たに警護専門の部署を設置し、これまで都道府県が独自に作っていた警護計画について基準を定め、事前にチェックするほか、実施後の報告も義務付けるとしています。
警護計画では現場指揮官を明確にし、交通整理の制服警察官の配置などを盛り込むことが求められます。
今回の報告書では、事件発生当時のSPや警察官の詳しい動きも明らかになりました。
演説する安倍元首相を近くで警護していたのは、警察官A~CとSP1人の計4人。
一番近かったSPは、元首相からおよそ2メートルの距離にいました。
元首相の演説が始まって2分あまり。山上容疑者が、南側の歩道からロータリーに進入します。
この時警察官は、道路を通過する自転車や台車に目を取られ、山上容疑者の動きに気付きません。
その7秒後、さらに元首相に近づき、バッグから手製の銃を取り出す山上容疑者。
この時もまだ、警護していた4人は容疑者の存在に気付きませんでした。そして…
警察官Cが南側に顔を向けた直後、山上容疑者が元首相とおよそ7メートルの距離から、1発目を発砲しました。
4人はここで初めて、山上容疑者に気付きます。
SPは振り返り、防護板を掲げながら元首相と山上容疑者の間に移動し、警察官Cはガードレールを乗り越えようとしますが、山上容疑者はその間に元首相にさらに近づき、2発目を発砲。
安倍元首相はその場に倒れ込み、山上容疑者は取り押さえられました。
今回の警護について、警視庁特殊部隊=SATの隊員だった伊藤鋼一氏に話を聞きました。
【元SAT隊員 伊藤鋼一氏】
「あり得ないですよね、背後がガラ空きなんですよ。自転車だったら、普通は職務質問しなきゃいけない。こんな所に歩行者・自転車を通すのはあり得ないことですよ。警備は0か100しかない。1パーセントでも可能性が考えられるのであれば、職務質問して排除すべき」
山上容疑者が現れた現場の南側は、当初警察官Cが確認していました。
しかし、北東の歩道に人が集まり始めたことから、警察官Aが警察官Cに北東を警戒するよう指示します。
この警備の変更は、少し離れた場所にいた現場指揮官には報告されませんでした。
その後、山上容疑者は移動を始め、約10秒間誰にも気付かれることなく犯行に至りました。
――Q:伊藤さんが警備上もっとも問題だったと思われているのは、「警備チームのコミュニケーション不足」ということですが…
【元SAT隊員 伊藤鋼一氏】
「そうですね。柔軟な対応のため、警備の場所を変更するというのはあるんですが、必ずそれは責任者に報告、判断を仰がねばなりません。柔軟に対応するのが警備の指揮官です」
――Q:報告されていれば、南側を見る人員を補充する動きがあったかもしれないということですね。報告はなぜ行われなかったのでしょうか?
「間違いなく現場の人間のコミュニケーション不足ですよね。現場指揮官がきちんとした認識を持っていたのかどうかも問題です」
警察庁は今後の要人警護について、各都道府県の警察に任せてきた警護の運用を抜本的に見直すとしました。
新たに警護専門部署を設置して、各都道府県の警察が作成した警備計画案を事前にチェックし、必要であれば改善を指示するということです。
――Q:今回、安倍元首相の奈良入りは前日に急に決まったとのことでしたが、警備計画案を事前にチェックして…といった運用は可能なのでしょうか?
「可能かどうかは、配置される人のスキルの問題になります。それなりのキャリアを積んだ人間が入ると思います。もう一つ、サポートチームを現地に入れることになると思います」
――Q:警護される側の、急な演説の決定や聴衆とのグータッチの触れ合いなどは、このままでいいのでしょうか?
「警護対象者の求めることに警察が対応すべきだと思います。民衆政治なので、有権者との間に警察が割って入るべきではない。もっと大きなリスクがあればそれ相応の対応が必要ですが、今回はそうではなかった。おそらく今後も、警護対象者の側に大きな変更はないと思います。警察の方でリスクを洗い出して、警備計画をきちんと立てていく必要があります」
――Q:今回の検証結果で警察庁は、「こちらで目を通していれば、こんな警備計画はあり得なかった」といった内容のことを言っています。都道府県のレベルに疑いの目を持っているようですが、「都道府県のレベルを上げる」といったことについてはどう思われますか?
「その必要はあると思います。警視庁の話をすると、警視庁のSPは巡査→巡査部長→警部補と、各階級でスキルを積んでいくんです。地方警察はこれから、そういったスキルを持った人材を育てていかなければいけない」
――Q:要人を警護するための新たな対策として、ドローンやAIなどの最新技術も導入していく予定のようですが、こちらについてはいかがですか?
「必要だと思います。スキルを積んだ警視庁のSPは、観衆が何人いても、目や動きを見れば怪しい人物が分かります。それをAIなどで補完すれば、もっときちんとした警護ができるはずです」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年8月25日放送)