赤字ローカル線に乗ってみた「その1・JR加古川線」~記者が行く“小さな旅”~ JR西・公表の赤字路線に実際に乗って取材 “存続のカギ”を探る 駅のそばには何がある?観光路線のポテンシャルは? 古民家食堂や廃工場利用のカフェレストランも… 2022年08月02日
存続か、廃止か…今、岐路に立つローカル線。
JR西日本は、大きな赤字を抱える路線について初めて収支を公表、関西では8つの区間が対象となりました。
赤字ローカル線は、どんなところを走っているのか?
そして“存続”させるには、何が必要なのか?
記者たちが実際に「赤字ローカル線」に乗って取材します。
■赤字ローカル線 京阪神から最も近い「JR加古川線」に“乗って” 乗客の声を聞く
第1回は、京阪神から最も近い赤字ローカル線、兵庫県を南北に走る「JR加古川線」です。
JR西日本が今回、収支を公表したのは、全路線(加古川~谷川)のうち北側のおよそ3分の1の区間(西脇市~谷川)について…年間2億7000万円の赤字となっています。
このままでは存続の危機です。しかし、記者が実際に乗ってみると…観光路線のポテンシャルを発見!?
【今回“乗車”の鈴木祐輔 記者 リポート】
「兵庫県西脇市に来ました。JR加古川線は加古川と谷川を結んでいるんですが、この駅(西脇市)を境に谷川の方…JRがですね、収支が厳しいと言うふうに公表している区間なんです。実際、どんなところなのか乗ってみたいと思います」
西脇市から谷川の区間は、”ICOCA”などのICカードが使用できません。
鈴木記者が乗車したのは平日の昼間でしたが、座席は半分ほど空いていました。
【鈴木記者リポート】
「2つ目の比延駅なんですけれども、駅で電車を待っている人はいませんでした。降りる人もいないようですね」
比延駅の1日あたりの平均乗降客数はわずか52人(2019年)です。
乗っていたお客さんに、お話を伺いました。
–Q:今日はどちらに行かれるんですか?
【乗客(通学中の大学生)】
「あっ大学の方に。通学で利用してるんで。(電車が)なくなってしまうと西脇市駅まで自転車か車で行くことになってしまうので」
病院の帰りだという86歳の女性からは切実な声も…
【乗客(病院から帰る人)】
「これしかないからね。なくならさんといてね。私も車を運転してましたけど、もう80になった時に車を買い替えよう思ったら、甥がね、『おばちゃん、もうやめとけ』って言った。もう不便やわー」
■黒田官兵衛“生誕地”の本黒田駅 途中下車…人気の「古民家食堂」で“地産食材”食す
鈴木記者、途中の本黒田駅で下車します。
【鈴木記者リポート】
「本黒田駅です。あ、『黒田官兵衛生誕地』とありますね。そういう場所なんですね。そして駅を見てみましょう。はい、これが駅舎でございます」
かつては立派な駅舎があったのですが…。
建物の維持管理コストを節約しようと、駅の設備の簡略化が進んでいます。
本黒田駅の1日あたりの平均乗降者数は136人です(2019年)。
【鈴木記者リポート】
「ちょっとここから、大変おいしいお食事があるところがあるので向かってみたいと思います。だいぶ暑いですからね。熱中症予防ということで、全く人もいませんので、ここからマスク外してまいります」
駅から本当に歩いて行けるのか?
実際に時間も測りつつ向かいます…
【鈴木記者リポート】
「鳥の鳴き声しか聞こえません。あちらに見えている小高い山ですけども、あそこが黒田城があったところなんだそうです。有名な軍師・黒田官兵衛はこのあたりで生まれたということのようです」
目的の「食堂」目指して歩く鈴木記者ですが、これといった目印もなく…
【鈴木記者リポート】
「普通はですね、何とかのお店を右とかそう言ったりするところなんですけれども、今回の目印というのが『お墓を右』っていうことなんだそうです。あっありました。このお墓を右に曲がってくださいということでしたので…」
看板に従って、集落の中を進んでいくと…
【鈴木記者リポート】
「到着しました。かもめ食堂。駅からかかった時間は実測で21分13秒でした」
古民家を使った「かもめ食堂」は、2021年12月にオープンしました。
予約がなかなか取れない人気店で、この日もたくさんのお客さんでにぎわっていました。
【お客さん】
「インスタグラムを見てて行きたいなあと思って、で今日たまたま見たら空いてて、席が」
【お客さん】
「全ておいしかったんですけど、なんか体にいいでしょうし」
鈴木記者が注文したのは「ズッキーニの肉巻きカツ定食」です。
さてお味の方は…?
【鈴木記者リポート】
「うーん!なんか素材の味が生きているというか、非常に全体的にやさしい味がしますね。いや、これはどんどん食べたくなる」
【かもめ食堂 船橋律子さん】
「ズッキーニは”西脇産”のズッキーニです」
【鈴木記者】
「地元の?」
【かもめ食堂 船橋さん】
「はい」
「かもめ食堂」では、地元や隣町でとれた新鮮な野菜を、ふんだんに使っています。
【鈴木記者リポート】
「どの料理も全ておいしいです。これは人気の理由が分かるような気がします」
「かもめ食堂」は、もともと神戸市内にありましたが、都会は食材よりも送料の方が高くつくことが悩みで、新型コロナの流行をきっかけとして、夢だった田舎暮らしを決断したそうです。
【かもめ食堂 船橋さん】
「決め手の一つは、本当にその、『JR沿線』だったということもあって。私は車に乗れないので…」
–Q:ほとんどのお客さんは車で来るそうですが、中には…。
【かもめ食堂 船橋さん】
「『車がないから来られないわ』っていう方が、何とか電車で来てくださったりするんですけど、来られても帰りの便がないとか本数が少ないので…」
■乗客減→本数減→さらに乗客減…の悪循環 西脇市長の“憂い”そして提言「残すべき」
【鈴木記者リポート】
「さあ次の目的地、隣の黒田庄駅に向かおうと思います。電車の時間を見てみましょう…(時刻表を確認すると…)しばらくありません!次の電車は15時24分、2時間ぐらい後になります」
乗る人が少ないのは本数が少なくて“不便すぎる”からでは?と、記者は思い、地元・西脇市役所へ…すると市長の思いも同じでした。
【西脇市 片山象三市長】
「基本的にやはり、(乗客が)減ってくるから本数が減る。(本数が)減るからまたお客さんが減るっていう、本当に“悪循環”になっていると思います」
さらに、加古川線の歴史を振り返ると、JR神戸線と福知山線とをつなぐ今の形は、将来に「残すべき」だと話します。
【西脇市 片山象三市長】
「阪神淡路大震災のときに、加古川駅から谷川駅までが迂回路として大活躍しました。南海トラフ大地震の時なんかにも、”この路線”っていうのがつながっているからこそ、命・安全がつながると思いますので、この「つながり」っていうのをすごく大事にしていただきたいというふうに思います」
■再び、途中下車… 黒田庄駅 工場跡カフェで“ふわっふわ”パンケーキとの出会い
さて、鈴木記者は再び、電車に乗って、次の目的地へ。
黒田庄駅を降りて、歩いてわずか7分あまり。
播州織の工場跡をリノベーションしたお店「カーペンターズキッチン」に到着!
地元の人気スポットです。
この店の“一番人気”は、ふわっふわのパンケーキ!
見渡すと、あのテーブルも、このテーブルもみんな、パンケーキを注文していました。
隣の多可町名産の「播州地卵」を使った優しい甘みと、ムースのようなふわふわ食感に焼き上げたのが特徴です。
子供にも大人にも、大人気です。
【お客さんたち】
「ふわふわ。ふわふわです」
「なんかとろけるような感じです、口の中に入ると」
みんな笑顔で美味しそうに食べていました。
【運営する「匠工房」藤原由樹代表】
「風景を見ながら北上して来られるような路線としては魅力かなと思いますけど。コロナ禍でも旅をしたような気分になりながら、おいしい料理をめがけて来ていただく、そして駅からもそんなに遠くないというのは一つのメリットかなと思います」
「加古川線」をめぐる今回の“小さな旅”…記者は「加古川線」のたくさんの魅力を感じることができました。
そして、沿線にはこんな親子の姿も…
【電車を見に来た親子】
「この子がもう1日1回電車見ないと気が済まない子なんで。見に来てんな。身近にあるから、よう見に来られるもんな」
「加古川線」は、人々の暮らしのそばをきょうも走っています。
(2022年8月1日放送)