雄姿再び!江戸時代以来196年ぶり悲願の復活「鷹山」 京都・祇園祭で後祭の山鉾巡業 最大の難関かつ見せ場の”辻回し”も 棟梁たちの“熱い夏”に密着 2022年07月27日
京都・祇園祭は7月24日、後祭の山鉾巡行が行われ、江戸時代以降” 休み山”となっていた「鷹山」が、196年ぶりに悲願の復活を果たしました。
そんな「鷹山」に立ちはだかった、京都の町ならではの『試練』とは?
密着取材しました。
■1826年を最後に”休み山”の「鷹山」復活へ向け・・・7年前に始動
7月17日、3年ぶりに京都の町に戻ってきた、祇園祭で前祭の山鉾巡行。
景色を楽しむ人たちであふれている中、メモを取りつつ鋭い目で巡行を見つめる人がいました。
「鷹山」の巡行を監督する現場責任者で、鷹山・作事方 棟梁の池田有爾(いけだ・ゆうじ)さん(52)。
――Q:たくさんメモを取っていますね?
【「鷹山」作事方 棟梁 池田有爾さん】
「恥ずかしいので見ないでください。もう一週間しかないんでね。本当に時間がないので」
1週間後の自分たちの出番に備え、山鉾巡業の下見に訪れていました。
「鷹山」は、室町時代から山鉾巡行に参加していたことが記録されています。
しかし、大雨や火事など度重なる災害で大きな被害を受け、1826年を最後に、巡行に参加しない“休み山”となっていました。
町を挙げて7年前から本格的に活動が始まり、ついに、悲願の復活までこぎつけたのです。
池田さんは、友人に誘われて“囃子方”(はやしかた)として「鷹山」に入りましたが、木材を扱う工務店に務めているのを買われ「棟梁」に抜擢されました。
これまで、祇園祭に参加したことはなく、すべてが初めての経験です。
【「鷹山」作事方 棟梁 池田さん】
「何気なく話の流れとして、『山作れるんじゃないの?』みたいなそういう話が出まして。山を作るっていうのは、一生に一度できるかできないかの話なので、話を聞いた時は、かなり興味がありましたね。ぜひやりたいと」
■本番前に「試し曳き」…”最大の難関”は出発直後の『辻回し』
2021年11月に「試し曳き」が行われました。
本番を8カ月後に控え、初めて鷹山を動かします。
【一同】
「よいしょ!」
みんなで一緒に車輪をはめていきます。
同じ後祭の山鉾巡業に参加する、経験豊富な「北観音山」の職人たちが「鷹山」のメンバーたちを指導してくれました。
【「鷹山」作事方 棟梁 池田さん】
「何人か竹を取りに来てもらえますか」
「鷹山」の車輪の下に竹を敷き詰めていきます。
始まったのは「辻回し」の練習です。
「辻回し」とは、竹の上で車輪を滑らせ、曲がり角で90度向きを変える巡行の最大の見せ場です。
技術的にも難しく、成功させるには何度も練習が必要です。
【鷹山・音頭取り】
「よいとせ」
【北観音山の職人たち】
「みなそれ(音頭)を見て引っ張るから!」
合図を出す音頭取りとも息が合わず、なかなか動きません。
196年ぶり参加の「鷹山」にとって、すべてが初挑戦ですが、さらに他の山や鉾にない試練ともいえる”難関”が、いきなり待ち構えているのです。
それは、スタート直後の狭い路地の交差点での”辻回し”。
理事長が、その難しさを車の運転に例えて話しました。
【鷹山保存会 山田純司理事長】
「うちが初めて(辻回しに)参加するのに、(例えば)仮免許取ったとこやのにモナコグランプリにF1で出るくらいの非常に難易度が高いことをメンバーがしないといけないので」
「鷹山」が参加する後祭(あとまつり)の山鉾巡行は、京都の中心部を一周します。
およそ4キロのコースです。
最大の関門は、出発してすぐに迎えるこの三条新町通の”狭い交差点”での「辻回し」です。
新町通りで、「鷹山」のサイズを想定し、道路上にひもで目印を作ります。
「これが『鷹山』のサイズ」と職人さん。
辻回しができるかどうかみんなで幅などを確認しています。
【「鷹山」の職人さん】
「1・2回、辻回ししてあかんかったらちょっと押して下げたらええ」
【「鷹山」作事方 棟梁 池田さん】
「祭の時には、電線はある程度撤去してくれるんですけども、こっち側の西側の高圧線は残るんです。だからここ、上に松があり屋根がありそれがこっちに行き過ぎてしまうと高圧線に引っかかってしまうんです」
新町通は、とにかく狭く、まっすぐ進むにも目の前まで電柱や建物ある場所です。
「鷹山」だけが、その新町通で「辻回し」をしなければならないのです。
6月4日、本番まであとひと月あまり…
町なかには「山」を実際に動かして練習する場所がないため、京都から離れた京丹波町で、フォークリフトを使っての練習を重ねました。
池田さんは山の進行方向を曳き手に指示する重要な役を担います。
車輪が一部外れそうになっていました。
木づちで叩いて戻します。
【「鷹山」作事方 棟梁 池田さん】
「本番でもこういうこと(車輪の一部が外れる)あるらしい。聞いたことだけで見たことはないんですけど」
■山建て…ついに「鷹山」の雄姿が京の町にふたたび!
いよいよ、山建てを迎えました。
棟梁の池田さんは、山建てを見ようとやって来た観衆に向かって、「皆さん新町通まで出て下さい。初心者なんでこけるかもしれないんで」と注意の声を掛けました。
そして…京都の町に、ついに「鷹山」が姿を現しました。
【「鷹山」作事方 棟梁 池田さん】
「初めて見る景色なんでね。皆さんが『三条通りに遠くから松が見えてるなぁ。あれが鷹山やね』と言ってくれるそういう時がいつか来るかなと。まだまだ転がしてみないと分からないのでまだ気は張ったまんまです」
宵山です。
「鷹山」の提灯に明かりがつき、祇園囃子が鳴り響きます。
歴史的な復活に大きな期待がかかる中、いよいよ運命の日を迎えます。
■本番!後祭・山鉾巡業に196年ぶり「鷹山」参加 難所での『辻回し』成功なるか!?
7月24日、巡行の日(後祭)を迎えました。
「えんやらや~」
196年ぶりに、「鷹山」が巡行へと向かいます。
「鷹山」を引っ張る勇ましい声と観衆の声援が聞こえます。
出発してまもなく、最大の関門、三条新町の交差点での「辻回し」に差し掛かりました。
何回にも分けて少しずつ、山を回転させていきます。
「鷹山」の屋根に立てた松の木が高圧線に当たりそうに…
池田さんは曳き手に細かく指示を出します。
【「鷹山」作事方 棟梁 池田さん】
「次、上に当たりそうなので、10センチだけ…センチゆうたらあかん 3寸!」
【「鷹山」作事方 棟梁 池田さん】
「みんな、(電気)ビリビリきてない?大丈夫?」
高圧線にギリギリまで迫りますが、何とか交差点を突破。
その後も狭い新町通りを慎重に進み、他の「山」や「鉾」が待つ巡行の列に「鷹山」が加わりました。
大勢の観衆が「鷹山」を見つめます。
そして、今度は”大通り”での「辻回し」も見事に成功です。
およそ5時間の巡行を終え、「鷹山」が町内に迎え入れられます。
拍手と歓喜の声が響き渡ります。
【「鷹山」作事方 棟梁 池田さん】
「もう少し歩きたい。もう1周いけと言われればいけそう。196年、歴史の1ページを僕らで少し書き加えさせてもらった気がします」
都大路の難所を乗り越え、誰も見たことがない“幻の山”が復活しました。
(2022年7月25日放送)