♪「Marble World Marble World 虹を描こう」
障害のある人も病気の人も、男性も女性も…
そんな「ダイバーシティ=多様性」をテーマにした曲を歌うのは、統合失調症という病と共に生きるミュージシャンです。
【竹村公成さん】
「いろんな生きづらさを抱えている人っていうのは悩みもするでしょうけど、『それも個性』と思ったら素晴らしい世界が来るんじゃないかなと」
病気によって一度は全てを失った男性が、音楽に込める思いを追いました。
■日常から生まれる歌 大事にしているのはリアリティー
5月のある日、大阪市内の立ち飲み店で開かれたライブ。
オリジナルソングを歌っていたのは、竹村公成(たけむら こうせい)さん、59歳です。
歌詞の多くは、日常から生まれます。
【竹村さん】
「夏の…終わり…」
目下制作中の曲は、阿倍野橋で飲んだ“イタリアンサーファー”という名前のカクテルの物語。
【竹村さん】
「(大事にしているのは)リアリティー。具体的に持っていった方が、聞く人がイメージ広げられるから。(携帯の)メモに打ち込んでいくわけですよ。単語とか、考えたい言葉とか。“二重マスク”とかありますね」
■「当事者研究」で自分をニュートラルに
竹村さんには20年以上抱えている病があり、定期的にある場所を訪れます。
【竹村さん】
「母が亡くなったとき、最後の姿がやっぱりちょっとかわいそうだったんで。肉親の死に際して衝撃が走って、精神的にやばい状態になった時の回避の仕方とか、そんなアドバイスもらいたい」
【参加者】
「とりあえず一歩ずつ、一歩ずつ歩めたらいいなと。竹村さんも一歩ずつでいいんだよ」
さまざまな精神疾患を抱える患者が、人とのつながりや自分らしい生き方を取り戻すために、経験や悩みを打ち明ける「当事者研究」というプログラムです。
竹村さんも、2年前から参加しています。
【竹村さん】
「(当事者研究は)常にニュートラルにしてくれる場所みたいな感じですかね。みんな(同じような)経験しているから、こういうこと言ってるんやなって、会話を合わせてくれるんですよ。めちゃくちゃな安心感なんですよ」
■順風満帆な人生が突然…襲い来る「ブルーの世界」
竹村さんは、大学卒業後、広告代理店に就職。
企画や営業の腕を買われ、37歳のとき、東京のベンチャー企業に取締役として迎えられました。
仕事は順調で、やりがいも感じていました。
しかし、東京での慣れない一人暮らしと忙しい毎日が、次第に、心と体をむしばんでいったのです。
【竹村さん】
「例えば風呂掃除するのに、洗剤って何なんとか、何もかも。世の中の人はみんな一人暮らし普通にしているわけじゃないですか、そんなことも俺はできないんだ、みたいな…すごい劣等感というか、そんな焦りとか。仕事で暴走するうちに、妄想とか幻聴とかそんなのが現れ出したんですよ」
病院で告げられた病名は、「統合失調症」。
国内では、およそ150人に1人がかかるとされている病気です。
【竹村さん】
「『えらいことになってしまった』みたいな感じでしたね。仕事もなくなるし、彼女もなくすし、周りの友達も全部なくすし。大いなる絶望っていうのが…自分を自分たらしめないっていうか、どう言ったらいいんでしょうか、自分の存在がなくなってしまったみたいな」
今でも時々現れる自らの症状を、竹村さんは「突発性ブルーの世界」と呼んでいます。
【竹村さん】
「曲が舞い降りてきたんで必死になって、よせばええのに仕上げてしまおうと思って徹夜して。JR降りて近鉄に入ろうとしたときに、『突発性ブルーの世界』がまた訪れた。(目の前が)ブルーになってしまって、周りの人が全員、自分のことを知っていて、『こいつは悪い奴やから攻撃したれ』みたいな感じで、テレパシーで攻撃されるみたいな(妄想に襲われた)」
■絶望の淵から救ってくれたもの
仕事を辞めて大阪に戻り、入退院を5年ほど繰り返しました。
そんな絶望の淵から竹村さんを救ったのは、現在の主治医と、大好きだった音楽でした。
【ぴあクリニック 三好裕子院長】
「今度(ライブ)ステージいつですか?」
【竹村さん】
「6月20日ですね。毎月出てくれってことで」
【ぴあクリニック 三好裕子院長】
「そうなん、常連さんやね」
【竹村さん】
「そうなってるんですよ」
週に一度の診察は、心の小さな引っ掛かりを取り除いてくれます。
【竹村さん】
「先生は言葉のセンスがいいんですよ。重要なメッセージをくれる。それがふに落ちた時に、楽になれたりする」
主治医の勧めで、自分を追い詰めるほど苦手だった料理や掃除は、ヘルパーに頼ることにしました。
今では週に3回、就労支援施設で仕事ができるまでに回復し、仲間もできました。
【就労支援施設の仲間】
「竹村さんは意外と常識人かも」
「当事者寄りの理解のない人の言葉と、理解のある人の言葉は全然違うから。愚痴も言うし悩みも言うし、おもろいことも言うし」
【竹村さん】
「彼も統合失調症なんですけど、傾向が似てるんですよ」
仕事をしながら仲間たちと話す竹村さんは、笑顔です。
【ぴあクリニック 三好裕子院長】
「統合失調症だからということではなく、生きていく上で“生きがい”とか“夢中になれるもの”というのは、すごく大事かなと思う。(竹村さんが作る曲は)最近は病気の苦労の歌も多くて、みんなの支えになってるところが多いんじゃないでしょうか」
■「病気は個性」 多様性をテーマにした曲
竹村さんが、統合失調症になってから作った「Marble World」。
♪「すべからく人は 同じ色じゃない」
発達障害の子供たちを支援する団体の活動に触発されて作ったこの曲は、「多様性」がテーマ。
マーブルチョコレートのように色とりどりの個性が輝く世界を、竹村さんは望んでいます。
【竹村さん】
「(自分が)病気は個性やと思ってるのとリンクしたみたいな感じですね。発達障害のお子さんも含めて、いろんな生きづらさを抱えている人は悩みすぎることもあるけど、それも個性と思ったら素晴らしい世界が来るんじゃないかなと。何にも縮こまっている必要はないし、個性やと思って堂々と生きたらいいと思うんですよ」
去年、竹村さんは、昔の音楽仲間を集めて、バンドを結成しました。
バンド名はそのまま、「Marble World」。
ギターの西本和之さん(60)は、30年来の友人です。
【Marble World ギター 西本さん】
「間近で見ていて(竹村さんが)苦しんでいるのは分かるので。でも『音楽があるやん』って、とりあえず尻をたたいて。ここまで来たのは彼の情熱」
大阪市西成区で開かれたライブ。竹村さんは、ステージの上から語り掛けます。
【竹村さん】
「僕が調子に乗って東京まで行って、ボロボロになって帰ってきて、この街にたどり着いて、着想から20年。そんな曲を聞いてもらえたらありがたいなと思います」
♪「何もかも失くして この街に戻ってきたとき」
この日は、同じ精神疾患に悩む仲間たちも駆けつけてくれました。
♪「Marble World Marble World 虹を描こう
Marble World Marble World 大空のキャンバスに」
【観客】
「すごく素直な、いい感じの人やなと思って、感動しました」
【就労支援施設の仲間】
「仕事のときと全然印象が違うのでびっくりしました。『Marble World』も印象深かったです」
【竹村さん】
「(曲は)自分なりの答えなんで、賛同してくれる人がいたら。軽くでも受け止めてもらえたらありがたいなと、そんなイメージでやっております」
竹村さんは、これからも音楽を通して、メッセージを届け続けます。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年6月21日放送)