大阪北新地の心療内科クリニックで26人が犠牲になった放火殺人事件。
火を放ったとされる谷本盛雄容疑者も死亡して不起訴処分になり、事件の真相が見えないまま、6月17日で発生から半年です。
犠牲になったクリニック院長の家族と親友が思いを語ってくれました。
■現場を訪れた院長の30年来の親友「何度見てもつらい」
大阪・北新地、放火殺人事件の現場となったビルを一人の男性が訪れていました。
事件で亡くなった心療内科クリニック院長の西澤弘太郎さんと30年来の親友のYさん(49)です。
【院長・西澤さんの親友Yさん】
「悔しさとか悲しさっていうのは当初のまま変わらないという感じです。ここで西澤が亡くなったっていうことは、何度見てもかなりつらい。何十年と付き合いが長いので、今日もそうですけど、事あるたびにふと西澤との思い出が蘇ってきますし、半年経ってもまだ信じられない、嘘のような気持ちがあります」
2021年12月17日、大阪・北新地にあるクリニックで突然、ガソリンをもった男が火を放ち、院長の西澤さんやスタッフ、患者あわせて26人の命が奪われました。
西澤さんのもとには、診察を受けに他府県からも患者が来ていました。
■西澤さんの人となりを知ってほしい 親友の思い
“800人以上の患者から信頼されるドクター”
それだけではない西澤さん自身の人となりをYさんは知ってほしいと話します。
【院長・西澤さんの親友Yさん】
「(中学の)入学式のあとオリエンテーションというのがあって、知らないもの同士が観光バスに乗って施設に移動するわけなんです。その時のバスの席が横だったのが西澤なんです。お互い空気感が合ったのか、持ちつ持たれつみたいな感じだったのかもしれませんけどね」
中学・高校と同じワンダーフォーゲル部に所属し、高校卒業後も変わらず旅行などに行く仲でした。
【院長・西澤さんの親友Yさん】
「彼は歴史とかが大好きなので、ほかのメンバーと連れだって城めぐりとか行くんですけど。計画が無計画なので、大学一回生ぐらいだと思うんですけど、夏休みかなんかで。その夜12時ぐらい電話かかってきて。『終電なくなったから迎えに来て』とか言って。『高速で行くわ』って言ったら、『高速代もったいないからガソリン代だけ払うから下道で来てくれ』『そんなアホな~』とかいう感じで。合流して散々怒ったら、彼も急に我に返って『ごめんごめん、飯おごるわ』みたいな」
■事件の翌日に忘年会が…ずっと続くはずだった友情
そんな気の置けない友情は大人になっても続き、毎年必ず仲間数人で年末には忘年会を開いていました。
決まって幹事を務める西澤さんが予定した去年の忘年会は12月18日。
事件の翌日でした。
【院長・西澤さんの親友Yさん】
「一応最初やらないでおこうと思ってたんですけどね。寂しがりのやつだったんで、何だかの形で来るかもしれんからっていうことで」
予定通り集まった仲間たち。最初は涙が止まらなかったのに、西澤さんの話では自然と笑顔になりました。
【院長・西澤さんの親友Yさん】
「私の一番の大親友なんで。みんなもう少し落ち着いて時間が取れれば多分また旅行とか行ったんやろうなと思います。昔と変わらないような感じで」
ずっと続くと思っていた友情でした。
■院長の妹 手帳に写真をしまい持ち歩く
西澤さんの妹・伸子さん(45)。
【院長・西澤さんの妹 伸子さん】
「兄の写真です。ちょっと若い時の写真になりますけど」
遺品整理中に見つけ、そっと手帳にしまって持ち歩いています。
【院長・西澤さんの妹 伸子さん】
「(兄の)お墓ができて、お墓を見たのが結構自分の中でドンときたというか。お墓は年配の人が入るイメージがあるのに、『あ、もう入ったんだな』と。それがたぶん5月の初めだったんですけども、それが一番自分の中で現実を見たという瞬間だったので。ちょっと辛かったです。『なんであの兄が?』という思いはやっぱりありますけどね。でもそこはどれだけ思っても、どうにもならないことなので。そこよりも今生きていることを、これからのことに目を向けたい方が強いので」
■行き場失った患者に寄り添うと決めた
事件後、伸子さんが続けていることがあります。クリニックの元患者たちがオンラインで集う会への参加です。
心の悩みを抱えながら、事件によって“拠り所”を奪われた兄の患者たちに寄り添いたいと思っています。
【クリニックに通っていた患者】
「あの事件以降、命の価値基準が変わっていて。仕事に行くときも、電車に乗っていても、街を歩いていても、『歩いているこの人もいつかは亡くなってしまうんやろうな』とか」
【院長・西澤さんの妹 伸子さん】
「専門的なことは本当に知らないので、こういう事例があるのだとかお話を聞くたびに、全てのことが勉強になると思っています」
伸子さんは悩みや現状を聞くうちに、専門的な知識を身に付けたいと思うようになり、5月、心理カウンセラーの資格の取得に向け動き出しました。
兄・弘太郎さんもかつて通っていたカウンセラー養成講座です。
【院長・西澤さんの妹 伸子さん】
「やっぱり(患者として)来られる方は、先生の講義でもあったように『○○だけど』っていうことを思われる方も多いんじゃないかなと。そういう方にはどうしたらいいですか?」
【養成講座の講師・Kumi心理カウンセリング研究所 土田くみ所長】
「自分ではどうしようもないものを抱えている、それでも生きている意味があるよねって言うことを一緒に探そうかっていうことで。自分の使命ってなんだろうって今まで考えたことありますか?」
【院長・西澤さんの妹 伸子さん】
「ないですよね。たぶん」
亡くなって初めて兄が向き合っていたものを知りました。
【院長・西澤さんの妹 伸子さん】
「男女っていう違いもあってあの頻繁に連絡取ることもなかったですけれども、気には色々してくれていた兄だと思っていて。悲しみを見つめたくないのか、見つめないように自分がしているのか分からないですけども、そちらに自分が向いてる方が、気が楽なんでしょうね。なにか忙しくしてる方がいいとかと自分で思っています」
自分のためにも兄のためにも、とにかく今は動くと決めています。
【院長・西澤さんの妹 伸子さん】
「悩んでいる人なんて本当にたくさんいるわけで、私が何かできるなんて本当にちょっとしたことしかないので、みんなが自分の周りにそういう人がいないかとか、そういう人がいたらどうしたらいいかとか、そういった風に広がっていったらいいなということを言うのが、私の役目なのかなっていうことも最近思います」
犠牲になった人の家族、友人、大切な人。それぞれに半年という時間が流れています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年6月17日放送)