スピードクライミングの日本代表に初めて選ばれた、林奈津美選手。
代表選手はほとんどが10代という中、林選手は30歳のシングルマザーです。
決して恵まれた環境ではない林選手が、高い壁に挑み続けるわけを、取材しました。
■1年足らずで日本代表に 武器はジャンプ力と筋力
【橋本和花子キャスター】
「林選手がいらっしゃるという練習場にやって来ました。来たんですけど姿が見当たらない。林さーん」
【林選手】
「ここでーす!」
【橋本キャスター】
「かっこいい!スパイダーウーマン」
【林選手】
「よく言われます」
高い壁の上からするすると降りてくる、スピードクライミング日本代表の林奈津美選手。
林選手が一躍、注目されるようになったのは2022年4月の大会でした。
10代が席巻するスピードクライミングの世界で、自己ベストを更新して優勝。
この種目を始めて1年足らずで日本代表に選出され、パリオリンピック強化選手にも選ばれました。
【橋本キャスター】
「1年でオリンピック強化選手だなんて…早いですよね」
【林選手】
「誰しもがここまで行くとは、みたいな感じで。自分でもびっくりって感じですね」
東京オリンピックで初めて採用された、スポーツクライミング。
「ボルダリング」、「リード」、「スピード」の3種目があり、林選手の専門は、15mの壁をどれだけ速く登れたかを競う「スピード」です。
林選手を見ていると、橋本キャスターにも簡単にできそうに見えたのですが…
【橋本キャスター】
「全然手が引っ掛からへん。え!? ちょっと待って! あーーーー! かっこわる…」
全く簡単ではありませんでした。
【橋本キャスター】
「ホールドとホールドの間の距離は決まってるんですか?」
【林選手】
「スピードは世界共通で決まってるんです、(ホールドの)配置が。1個1個の距離はばらつきがあるんですけど、普通に登ったら遠い距離ですね。ある程度の身長がないと」
身長165cmの橋本キャスターが手を伸ばしても、全く手が届きません。
それを身長153cmの林選手がどうやって登っているのかというと、ホールドからホールドに飛び移っているのです。
このジャンプ力と筋力が、林選手の武器です。
■11歳の娘と暮らすシングルマザー
さらに特筆すべきは、これまでの人生で身についたメンタルの強さです。
父子家庭で育った林選手は、金銭的な問題で高校を1年で辞めて働き、18歳の時に結婚。
娘の久玲亜(くれあ)さんを授かりました。
普段は介護施設で働いて生計を立て、現在はシングルマザーとして、11歳になった久玲亜さんと暮らしています。
【橋本キャスター】
「お母さんがパリオリンピックに出たらどう?」
【娘・久玲亜さん】
「うれしいけど、離れるのはまだちょっと…日にちが長引くから、それは悲しい。『お母さんすごいね』って言われるような選手になってほしい」
【林選手】
「ちょっと寂しいけど…ま、頑張る。その分頑張ろうかなと」
0.1秒を縮めるには、100時間の練習が必要ともいわれるスピードクライミング。
仕事と子育てと練習に追われ、顔面神経まひを患ったこともありました。
【林選手】
「10代の子より『気合を入れてやらないといけないな』とは、常に。他の子よりも練習できてないのが分かってるので。30代前半なので段々体力落ちてくるんですけど、本気でちょっと打ち込んで、自分で『やり切れた』と思うまで、チャレンジし続けたいなと思っています」
■自己ベスト更新に挑戦! 果たして結果は?
【橋本キャスター】
「これまでの人生は、いばらの道でした。難度も壁にぶち当たってきました。しかし今そのすべてを乗り越え、新たな壁に立ち向かっています。それでは登っていただきましょう。林奈津美さんのチャレンジです」
この日、林選手は、自己ベスト8.65秒の更新に挑戦しました。
記録は、8.95秒。
自己ベストにわずか0.3秒及びませんでしたが、林選手は手応えを感じています。
【林選手】
「もう少し早くなるかなっていう感覚はあります。できれば夏の間に8秒台前半で、年内に7秒台が見えるタイムまで行けるように頑張ります」
6月上旬に自己ベストを更新したという、伸びしろだらけの30歳。
限界という壁を駆け上がったその先には、パリの景色が広がっています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年6月13日放送)