双子や三つ子など、「多胎児」の育児。
2人以上の育児を同時にするなかで、悩みや不安を抱え込む人も多いといいます。
そんな人々と、少しずつ広がり始めた支援の輪を取材しました。
■「情報を知る余地がない」2人同時の育児につきまとう不安
兵庫県三田市に住む来住(きし)さん一家。
電車が大好きな弟の颯大ちゃんと、ちょっと緊張気味な兄の諒人ちゃんは、1歳8カ月の双子です。
母親の知香さんが食事の準備をする間、父親の基さんは食卓で双子をあやしていました。
――Q:食事の準備中はいつも抱っこを?
【父・基さん】
「今日のように落ち着かないときは。睡眠不足やおなかがすきすぎると、すごいことになるので、そういうときもこういう感じですね」
できあがったご飯をあげるのは、主に知香さんが担当。基さんはその間に他の家事をします。
今では元気いっぱいの2人ですが、生まれたときは、諒人ちゃんが約2400グラム、颯大ちゃんが約1900グラムの低出生体重児でした。
【母・知香さん】
「この子たちは1カ月くらいずっとNICUに入院していて。コロナ禍だったので面会が週に1回に制限されていて、その他の日は搾乳して、毎日病院に届けに行っていました」
2017年の人口動態統計によると、多胎児はそのおよそ7割が2500グラム未満の低出生体重児。
身体的な発達の面で不安を抱える親も多くいます。
来住さん夫婦も子供の発達の遅れを心配しましたが、2人同時の育児の中でどこに相談していいか分からず、双子を出産した経験がある親戚に頼ったといいます。
【父・基さん】
「情報が拾いにくい」
【母・知香さん】
「双子の子育てみたいな本を読んで学ぶって言うか、イメージをつける感じだった」
【父・基さん】
「親戚に救われた部分がある。そこがなかったらと思うと、本当に情報を知る余地がない」
■多胎児の親が集まって情報交換 日頃の悩みが次々と
5月のある日、神戸市西区の児童館に集まった双子の子供がいる親たち。
多胎児の育児を支援する「マミーベアーズ」の集会です。
【参加者】
「3回食だと『私ずっと台所いるわ…』みたいな。寝てくれないし、ずっと泣き声聞きながら『私何してるんだろう』って」
「2人抱っこもきつくなってきて、外に出るのもおっくうに。人見知りも始まって、パパがいると余計に泣いたり」
毎月行われる集会は、スタッフも双子の育児経験者たち。
参加者からは、日頃の悩みが次々に出てきます。
【参加者】
「(双子用のベビーカーだと)レジに通れない。人も多いし狭いし、セルフレジも奥の4台だと人の邪魔になるから、一番手前が空いた時しか使えない。他の人にすごく気を使う」
「離乳食作れない。ずっとレトルトばかり食べさせて」
「離乳食はベビーフードのご飯系と炊いたご飯を半分に混ぜるといいんですって。かさ増しになって味薄くなるし安く済むって」
■「迷惑かけてごめんなさい」外出の難しさに孤立する家庭
集会のスタッフの一人、日本多胎支援協会で理事を務める天羽千恵子さんは、「親の社会的な孤立が問題」だと話します。
【天羽さん】
「多胎に関しての情報が必要だけど、どこでその情報を得たらいいのかすら分からない状態。家の中に引きこもって、子供と自分だけだと煮詰まって孤立している家庭が多い。なかなか理解してもらえなくて、外出しても『迷惑かけてごめんなさい』とか、『こんなんだったら出られない』って挫折してしまう人が多いので、もっと社会に理解が広がるといいなと思います」
国はこうした多胎児の育児支援を2020年度から強化し、支援事業を行う自治体に対して費用の半額補助を実施しています。
神戸市ではこれを受け、去年10月から経験者によるピアサポートやホームヘルプサービスを拡充しました。
■「もっと頼っていい」広がりつつある行政の支援
生後11カ月の双子の姉妹を育てる安藤瞳さんは、家の掃除などをホームヘルパーにお願いしています。
【安藤さん】
「出産してから3、4カ月たった時に、急に体調がしんどくなって。利用するまでは何でも一人で双子のことをやろうと思っていたんですけど、一度利用してみると『人にもっと頼っていいんだ』と思うことができて」
今では週に1回ホームヘルプサービスを利用していますが、支援を受けるまでには、自分が利用することに抵抗があったといいます。
【安藤さん】
「本当に困っていたんですけど、ヘルパーはもっと…動けないくらい困っている人じゃないと使ったらだめっていうイメージがあって。そうやって無理をしていたら精神的にも体力的にもしんどくなってしまったので、『もうちょっと気軽に使っていいよ』ってなったらいいなと思います」
負担が大きい多胎児の育児。
社会の理解と周囲の手助けが、より一層求められています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年5月11日放送)