子供用のオムツを巡る、あるルールが物議をかもしています。
保護者からも保育士からも不満の声が上がる、不思議なルールを取材しました。
■「使用済みオムツ」の持ち帰り
大阪府熊取町にある町立中央保育所。
トイレの順番を待つ子供たちが手にしているのは、オムツです。
こちらの保育所では各家庭がオムツを用意し、使い終わったものを、保育士がそれぞれの子供専用のごみ箱に入れていきます。
そして迎えに来た保護者が、使用済オムツをごみ箱から取り出し、持参したバッグに詰めて持ち帰っているのです。
この「オムツ持ち帰りルール」に、保護者は…
【保護者】
「病院に寄ったりすることもあるけど、袋の中に置きっぱなしがすごく嫌で。夏場とかにおいが…」
「家のごみ箱が満タンになるので、袋が何枚もいったりして。結構、困ってます」
そして、保育士は…
【保育士】
「これが当たり前なんかなと思ってやってきました」
「(オムツを入れるゴミ箱を)間違ってはいけないですし。人数が多い分、仕分けがとにかく大変」
保護者からも保育士からも不評のルール。
オムツの定額利用サービスなどを行う「BABY JOB」の調査では、2022年4月時点で滋賀で89%、京都で73%、大阪で56%の自治体が、公立保育所で「オムツの持ち帰り」をお願いしています。
なぜこのようなルールがあるのか、熊取町の担当者に聞きました。
【熊取町保育課 藤本明課長】
「昔からの保育所の伝統的な考え方があるのと、保育時の排せつがどんな様子かを確かめてもらいたいということで、長年続いてきたと聞いております」
■使用済みオムツの持ち帰り 家庭内感染のリスクも
「BABY JOB」の調査によると、持ち帰りの理由としては「保護者に便で体調確認をしてもらう」が最も多い43%で、「ごみの保管、回収に問題がある」は14%でした。
一方で、「ずっとこうしてきた。理由は分からない」といった回答も30%ありました。
実際に家でオムツを開けて、健康状態をみることがあるかを聞いてみたところ…
【保護者】
「いや、まったく…」
「便がゆるかったり、ちょっと硬いっていうのは、先生から口頭で。先生に都度チェックしていただいているので、家でチェックはしないですね」
また小児科の医師は、オムツの持ち帰りは「感染症を広げるリスクがある」と指摘します。
【大阪母子医療センター 恵谷ゆり医師】
「ノロとかロタはほんの少しのウイルスで感染すると言われているので、感染するかもしれない下痢便を家で触るっていうのは、家庭内に感染を広げるリスク以外の何ものでもない。『下痢でした』は保育士さんから伝えてもらえばいいことであって、持ち帰りはむしろ危険な行為だと思いますね」
■熊取町では「持ち帰りルール」を廃止に
保護者から「保育所で処分してほしい」との声が寄せられた熊取町。
新型コロナの感染対策という観点からも、「オムツ持ち帰りルール」の廃止に踏み切りました。
5月2日朝、保育所には新たにオムツを捨てるごみ箱が設置されました。
【保育士】
「全部をこのごみ箱に捨てられると、作業の時間は短縮になる。その分、子供と関わってズボンやパンツをはく時間をしっかりとれるかなって」
保育所では、便の状態などで体調に変化がみられる場合には、これまで通りノートに書いたり、お迎えの時間に保護者に伝えていくということです。
ごみ箱などの初期投資に100万円、そのほか処理代などで毎月数万円の費用がかかるということですが、熊取町は大きな負担ではないとしています。
【保護者】
「めっちゃ楽になりました。袋セットしたり持って帰ったりっていうのが手間だったので」
■多くの自治体に残る「持ち帰り」 ルール保持の理由とは
近畿では、去年から今年にかけ、23の自治体が持ち帰りを見直しています。
廃棄にかかる費用は、2019年に見直した大阪市の場合、55カ所の公立保育所で、年間550万から560万円程度となっています。
まだ「持ち帰りルール」を見直していない自治体に、その理由を聞きました。
堺市は、「布オムツからの名残で、オムツの重さからおしっこの量などを把握し、体調管理につなげて欲しい」と回答しています。
また京都市は、「オムツ処理に税金を使うとなると、民間との不平等が生じる」と回答しています。
保護者も保育士も望まず、専門家が感染症を広げるリスクを指摘する「オムツの持ち帰り」。
ルールの見直しには、自治体によってまだ温度差があるようです。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年5月2日放送)