JR福知山線脱線事故から17年の4月25日朝、JR西日本の長谷川一明社長が、事故現場を訪れました。
【JR西日本 長谷川社長】
「鉄道はやはり安全が第一。それが基本でございます。そのことをしっかりと今日からまた積み上げていかなくちゃいけない」
その一方で、経営はかつてない厳しい環境にさらされています。
新型コロナの影響と生活の変化の中で、約2332億円の赤字という史上最悪の事態に陥った2020年度に続き、2021年度も巨額の赤字が見込まれ、経営の立て直しを迫られています。
17年前、事故で明らかになったのは、「稼ぐ」ことが至上命令だった企業風土。
当時、私鉄との競争の中で「スピード」と「本数の多さ」を売りにする一方で、遅れなどのミスに対して懲罰的な措置が取られ、運転士が定時運行へのプレッシャーからスピードをオーバーしたと指摘されました。
企業の体質を見直してきたJR西日本。
今進める策は大幅な「コスト削減」ですが、それは「安全の確保」が前提だ、と念を押します。
【JR西日本 長谷川社長】
「安全性についての修繕・検査、そういったものはしっかりやっていきながら、その上に立ってなるべく設備をスリム化していくとか、あるいはよりメンテナンスがかからない形の設備に変えていく」
JR西日本は、3月のダイヤ改正で、過去最大規模の減便を実行。
4月11日には、赤字ローカル線の収支を公表し、自治体との話し合いへ本腰を入れました。
さらに押し進めるのは、デジタル化による人員削減です。
山陽新幹線では、座席の確認作業がデジタル化されたことから、乗務員の数を3分の2に減らす方針が示されました。
また、線路などの保守点検の人員を減らすため、カメラ50台を搭載して線路を走る点検車両の開発が進められています。
その一方で、求められる「安全の確保」は拡大しています。
2021年は東京の京王線で乗客が襲撃されるなど、列車内での事件が相次いで発生しました。
【JR西日本 長谷川社長】(2021年11月)
「今後はこれらの車両に防犯カメラの設置を促進していく必要があると思っています」
12月、JR西日本は、今後製造する車両には基本的に防犯カメラを設置し、運用中の車両についても新快速や特急から設置していく方針を示しました。
【JR西日本 長谷川社長】
「加害企業としては、安全に対しての取り組みはどの事業者よりも高いところを目指していかないといけないという思いがあります。そのことを可能にするためにも、やはり改革すべきところは改革をしていく」
新たな社員を迎えた春、入社式が執り行われました。
【JR西日本 社員】
「福知山線列車事故でお亡くなりになられた方々に哀悼の意を表し、黙とうを行います。黙とう」
今年の新入社員は143人。
コスト削減の結果、例年の2割と過去最低の人数にまで激減しました。
【JR西日本 長谷川社長】
「当社の置かれた状況と課題を理解した上で、私たちの価値観、使命、そして目指す未来に共感して、当社を選択してくれたことに、私は大変心強く思っています」
事故当時、まだ小学校に入学するかしないかという年齢だった新入社員たち。
配属前にまず学ぶのは、鉄道の安全を守る大切さです。
【JR西日本 研修担当 阪口さん】
「福知山線の列車事故ではお客様の当たり前を守ることができなかった。お客様の当たり前を守るために、私たちは何をしなければならないのかをしっかり考えてほしいなと」
社員全体の60%近くが事故後の入社となった今年、事故を風化させないことが課題となっています。
研修を担当するのは、普段、新幹線の指令所で勤務している阪口崇博さん。阪口さん自身も事故後の入社です。
【JR西日本 研修担当 阪口さん】
「当時の状況を知る先輩社員から語り継いでいます。『安全かどうか分からない』という報告を受けたら、そこは迷わず僕らの指示で列車を止めに行くという意識。ここ最近は『列車を止める』という意識に変わっていっている」
高橋直也さんは、大学で学んだIT技術を活かしたいと入社を志しました。
【JR西日本 新入社員 高橋さん】
「改めて事故を起こしてしまった会社に入社するということで、しっかり事の重大さは理解していますし、同じようなことが起きないように、今後頑張っていかないといけないなと考えております。人の力ではどうしようもないところっていうのは結構あると思うので、そういったところは情報の力を使って、安全性というのはより高めていけると思っているので。しっかり自分の仕事ができるように頑張りたいと思います」
事故から17年。
犠牲となった人たちを思い、遺族らが祈りをささげました。
【事故で娘を亡くした藤崎光子さん】
「JRがここ1~2年、経営が赤字だということは分かっておりますが、そんな時だからこそ安全に気を付けてほしいと思います」
激動の時代に求められる変化と、忘れてはならない教訓。
生活に欠かせない鉄道を守るために、今、正念場を迎えています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年4月25日放送)