■タリバンの支配が続くアフガニスタンはいま…
2月16日、アフガニスタンの首都・カブール。
混沌が長期間続くこの地に、一人の日本人が入りました。
【西谷文和さん】
「これですね。『俺たちはアメリカをやっつけたぞ』と書いてあるわけですよ。この壁の向こうがかつてのアメリカ大使館だったんですよ」
20年以上にわたり、アフガニスタンを取材している大阪のフリージャーナリスト・西谷文和さん。
【西谷文和さん】
「ドローンですね。アメリカの無人飛行機からその車に目掛けて爆弾が落ちて、ちょうどこの車で遊んでいた、車の周りにいた子どもたちが亡くなったと」
街に残る紛争の傷跡。
テロと軍事作戦で民間人も犠牲になりました。
【西谷文和さん】
「旧ソ連が一方的に(アフガニスタンに)侵略して戦争が始まったんですね、1979年に。その後でまた10年内戦するわけですよ。それで、『9.11テロ』が起こって、ビン・ラディンがいるということで今度はアメリカに空爆されて。だからアフガニスタンが怠けていて復興できないのではなくて、(43年間)ずっと殺され続けてきたという。そこをやっぱり私たちは見ないといけないのではないかなと思います」
そして去年8月、アメリカがイスラム主義組織・タリバンへの軍事作戦を打ち切り国は再び激変します。
アメリカ軍がアフガニスタンを撤退すると、アフガニスタン政府は崩壊し、タリバンが暫定政権を樹立。
多くの人が国外への脱出を試みました。
■タリバン支配で深刻化するアフガニスタンの貧困
大混乱から半年のアフガニスタンの街。
道路を車で走ると、止まるたびに物乞いする子供が声をかけてきます。
【少女】
「お金をください」
タリバンは正当な政権として認められておらず、各国の制裁で経済は壊滅的な状態です。
国連は、このままでは人口のおよそ半数が飢餓状態に陥り、世界最悪の人道危機になると警告しています。
アフガニスタンの難民キャンプには、貧困に陥る人々が集まっています。
泥まみれのキャンプ内を子供たちは裸足で走り回り、中には滑って転んでしまう子供も。
【西谷文和さん】
「おお、きみ大丈夫か?すごいな、ドロドロやなこれ」
キャンプ内の家の屋根は、布やプラスチックでできているため、屋根に雪が積もると、簡単に崩落してしまいます。
【西谷文和さん】
「屋根が非常に弱くて。雪が降りまして、その雪の重みで屋根が崩落しまして。ちょうどこの時にヒーターが爆発して、ここで火事になったんですね。8人寝てたんですけど、子供たちがけがをしてしまったと」
キャンプの地面に置かれたお皿には、食料がわずかに残っていました。
【西谷文和さん】
「何食べてるんやろうかな。これは豆。これお茶、お湯やな」
カブール市内で唯一、大規模な手術を受けられる子供病院。
何回訪れても悲惨だというこの病院で、意外な光景を目にします。
■タリバン支配下での変化 病院には十分な食料
前の政権では、ほとんど届かなかった人道支援の食料や薬が、タリバン政権になってからは届くようになったということです。
イスラムの教えに厳格なタリバンのもとでは、前の政権であった汚職や横領が無くなったからだといいます。
【西谷文和さん】
「食料は足りてる?」
【病院スタッフ】
「足りてるよ」
【西谷文和さん】
「それは肉か?」
【病院スタッフ】
「そう」
【西谷文和さん】
「素晴らしいね、前政権では食べ物がなかったのに。タリバン政権で院内の環境は改善された?」
【病院スタッフ】
「食べ物の質が良くなった。以前はジャガイモしかなかった」
■女性や少数民族 タリバン支配下で今後は…
一方、タリバンの支配に対して国際社会が懸念しているのは、女性や少数民族の抑圧。
国内で少数派のハザラ人は、タリバンやIS(イスラム国)による大量虐殺など、長年迫害されてきました。
カブール市内でも多くのハザラ人が住む地区にある女子高校では、去年5月にISによるテロ事件が起きました。
【西谷文和さん】
「今、私はハザラ人地域にいまして、ここはサイード・シュハーダ女子高校です。去年の5月にここで大規模なテロがありまして、女子高生が67人ここで殺されてしまいました」
タリバン政権下で、女性の教育はどうなっているのか。
西谷さんはテロがあった女子高校で、女子教育が継続されているかを学校の責任者にインタビューしようとしますが、取材には応じてくれませんでした。
アフガンスタンで海外メディアが取材する際には、必ずタリバンの護衛と一緒に行動しなければなりません。
西谷さんは、女子高校の責任者が取材に応じなかった理由は、タリバンの護衛がいたからなのではないかと話します。
【西谷文和さん】
「女性の校長にインタビューをするんですけど、タリバンの護衛がいるので、僕のカメラの前では話したがらないし、結局話してくれませんでした。タリバンは、一応女子にも教育を、学校を開いていると言ってますけど、6000人いた女子高生が一人もいないというのは、ちょっと変やなと思いました」
ロイター通信によると、タリバンは「女性の中等教育を3月23日に再開する」としていましたが、当日になって突然延期に。
登校してきた女子生徒たちは、追い帰されたということです。
【西谷文和さん】
「少なくとも銃撃戦はないし、少なくとも自爆テロは減りました。だからそれはいいんです。ただ自由がないね、カブールの中で。今後ですね、(国際社会は)ウクライナの支援もせなあかん、なおかつコロナで経済的にしんどいから、ここ1、2年がやっぱり一番アフガンの支援の底やと思うんですね。そういう中で、なんとか生き続けてほしいなと思います」
■命を狙われ…日本に避難したハザラ人医師家族
命を脅かされ日本に避難してきた家族がいます。
ハザラ人のロキアさんと夫のナジブラさん。
日本に住む妹家族や支援団体の支えのもと、埼玉県で2人の子どもと暮らしています。
【夫・ナジブラさん】
「(アフガニスタンでは)子供たちが家を出るとき、無事家に帰ってこられるかどうか、わからなかった。とても危険な状況だった」
アフガニスタンでは、ナジブラさんは開業医、ロキアさんも医師として政府軍の病院で働いていました。
ロキアさんのように、ハザラ人で社会的地位も高い女性はタリバンの標的となりました。
【妻・ロキアさん】
「たくさんの友人を失いました。タリバンは同僚の医師2人を殺し、3、4人は行方不明。どこにいるかが分からないの」
タリバンに自宅やクリニックを破壊され脱出を余儀なくされました。
妹家族が住む日本へ避難しようと、大阪の支援団体・シナピスとつながり入国を待つこと5カ月。
「高度な技能を持った人材である」と認められたことで、「技能・人文知識・国際業務」ビザを取得することができ2月末、やっと日本へ来ることができました。
【息子・セイラトくん】
「こんにちわ!」
【ナジブラさん】
「元気ですか?」
【セイラトくん】
「元気です! おはようございます!」
一家は日本で生きていくと決め、日本語を一から勉強しています。
【ロキアさん】
「ここでは私たちは安全です、子供たちも安全です。そのことが嬉しい一方で、母親や家族を置いて逃げたことが本当につらいです。家族のことを考えると、本当につらいです」
世界のなかで孤立し、先が見えない混沌のなかにあるアフガニスタン。
生きるために逃げないといけない人たちがいます。
(2022年3月28日放送)