認知症の疑いがあった母親を制止しただけで2年以上拘束されたのは、捜査に問題があったとして大阪の夫婦が国などを相手に損害賠償を求めた裁判。大阪地方裁判所は10日、訴えを認めない判決を言い渡しました。
大阪市に住む佐保輝之さんとひかるさん夫婦。
およそ10年前に輝之さんの母・重子さんに暴行を加えて死亡させた傷害致死の罪で逮捕されました。
【佐保輝之さん】
「完全に犯人に仕立てあげられてしまう恐ろしさは体験した人じゃないと分からないかもしれないけど、現代の日本でも(決めつけ捜査が)が行われているということを知ってもらいたい」
2人は「暴れた母親を制止しただけ」と無罪を主張しましたが、1審では傷害致死罪が認定され懲役8年でした。
2審の判決では弁護側が提出した「重子さんが認知症で暴れた疑いがある」とする、認知症の専門医の意見書が反映され、故意の暴行によらず致命傷となったことも十分にありえると指摘。一方で、押さえつけるなどした暴行罪として、罰金20万円が言い渡されました。
【佐保輝之さん】
「無罪かあるいは差し戻しの想像をしていたので、ちょっと複雑といえば複雑ですけど」
2年以上身柄を拘束され、輝之さんは大阪大学歯学部で助教をしていましたが、休職期間が規定を超えたとして解雇。
さらに接見禁止がつけられ、高校生だった2人の子供たちとも会えず、2人は国や大阪府などを相手取り「傷害致死と決めつけた見立てで、不当に3年間勾留された」などとして1億円の損害賠償を求めて民事裁判を起こしました。
【佐保輝之さん】
「『お前達が暴力をふるって殺したんだ』って言うのを、当日からずっと決めつけで取り調べをされてて。全く何の謝罪もなく、その間職を失ってるにも関わらず1円の補償もないって、それが許されていいのかって」
刑事裁判で弁護士費用など800万円以上かかったことなどから、代理人のいない夫婦だけの戦いを選びました。
証拠として申請したのは、当時2人が警察官や検察官に言われたことを毎日記録していた被疑者ノート。
輝之さんのノートには、「自分がやってないんやったら奥さんがやった」などと自供を迫るような発言をされたことが書かれていました。
国や大阪府はこれまでの裁判で、「違法と評価される余地はない」「被疑者ノートは都合よくかけるし、真実とは限らない」などと全面的に争う主張をしています。
そして10日の判決で大阪地方裁判所は「担当警察官の捜査では重子さんが暴れていたことを裏付ける証拠がなかった」と指摘。
その上で「警察官の取り調べの一部で、言葉遣いなどで適切とは言えない場面があったが、捜査状況を踏まえると国家賠償法上の違法とまでは言えない」として佐保さん夫婦の訴えを退けました。
【佐保輝之さん】
「認知症について『専門外の解剖医が判断したからいいんだ、それで事足りるんだ』という前提の内容になってしまってる。判決が確定してしまうと、おちおち介護もできない。その点はしっかり主張していきたい」
2人は今後、控訴を検討しています。
(2022年3月10日放送)