「落ちたら必ず死ぬ」黒い津波の脅威 すさまじい破壊力・肺に深刻なダメージ…今もなお肺炎に苦しむ 東日本大震災から11年 2022年03月09日
東日本大震災からまもなく11年。
「いま知ってほしい言葉」と題してお伝えするのは、「黒い津波」の知られざる脅威についてです。
街に流れ込み、多くの人の命や生活を奪った津波は黒く濁っていました。
その影響は今も続いています。
■「落ちたら必ず死ぬ」街を襲った黒い津波
「電信柱倒れます。タンクそっちに迫っています」
宮城県気仙沼市で撮影された2011年3月11日の津波の映像。建物が次々に破壊される様子が記録されています。
気仙沼市では異臭を放つ「黒い津波」が街を襲っていたのです。
気仙沼市で飲食店を営む菊地正男さんは、「黒い津波」によって当時の自宅や店を流されました。
その時の事は今も忘れることができません。
【菊地正男さん】
「長いようで短い。やっぱり…たまに思い出す、夢で見たりはしないけど」
【妻・幸江さん】
「すごく怖い思いしたから私以上に、家ごと流されたことがあったから」
菊地さんは地震直後に娘や孫と知人の3階建ての家に避難しました。しかし…
【菊地正男さん】
「3階まで上がった途端に波がドーンときて、ああ終わった、もうだめだと思った。(津波は)真っ黒です。家が持ち上がってそのまま流された。蛇行していっている」
――Q:逃げられない?
「とんでもない、落ちたら必ず死にます」
流れされた家で身動きがとれないまま、助けを呼ぶことしかできませんでした。
菊池さんたちが救助されたのは発災から2日後のことでした。
■黒い津波の正体 重く…圧力は2倍
大きな被害をもたらした「黒い津波」一体、どのようなものなのでしょうか。
震災の翌日、気仙沼市で津波を採取した上田克郎さん。今も容器に保管しています。
【上田克郎さん】
「これが当時採取した津波の水です。沈殿している状態なので、上が海水、下にヘドロ、砂などが沈んでいる」
「黒い津波」は海底の砂やヘドロなどを巻き込んで襲ってきたのです。
【上田克郎さん】
「振って混ぜてみるとおだやかさは全くなくなります。海から来るやつは黒いんだという。恐ろしいの一言です」
中央大学の有川太郎教授は、上田さんが採取した津波の成分を調べました。すると、海水よりも10%重いことが分かりました。
有川教授は今回、水が壁に衝突する際の圧力をはかり、「黒い津波」を再現する実験を行いました。
水だけを流した場合、壁にぶつかるとしぶきをあげて跳ね返ります。
細かい砂などを混ぜた「黒い津波」の場合と比べると、「黒い津波」は堆積物を巻き込んで跳ね返りが大きくなっています。
実験では「黒い津波」の方が、水だけの場合よりも壁にかかる圧力が2倍になりました。
【中央大学・有川太郎教授】
「(黒い津波は)破壊力が増したり、浮力が増したりということになるので、建物であれば壊れやすくなる。もしくは流れやすくなる状態になる。人に対しても流れやすくなる」
■人体にも影響 「津波肺」
黒い津波は、人体にも大きな影響を及ぼしていました。
【2012年の医学雑誌日医雑誌より】
「津波で溺れたが死を免れた人の中で、津波肺を発症する人がいた」
「黒い津波」に流された90代の女性のレントゲン写真。
広範囲に白い影があり、「津波肺」と呼ばれる重い肺炎症状がみられます。
海水とともに汚れた泥などを飲み込んだことが原因とみられ、女性は搬送から4日後に死亡しました。
健康への影響はそれだけではありません。
斉藤節子さんは、津波から逃げ切ることができたものの、連日、自宅の復旧作業を続けた結果、肺に異常が見つかり、今も治療を受けています。
【肺の治療を続ける斉藤節子さん】
「1日3錠毎日薬を飲んでいる」
――Q:11年前からずっと?
「ずっと、ヘドロの悪いのを吸ったんだろう。(病院で)肺を洗った時は真っ黒だった。肺活量がない。喋るのもつらい、本当は」
被災地では、がれきや乾いたヘドロの粉塵を吸い込んだことで発症したとみられる肺炎で、体調を崩す人も多くいたのです。
■黒い津波は関西でも発生する可能性
「建物」と「人」、双方に深刻なダメージを与える「黒い津波」。東北の各地で確認されています。
気仙沼で起きた津波をシミュレーションした専門家は、関西でも「黒い津波」が発生する恐れがあると指摘します。
【関西大学 社会安全学部 高橋智幸教授】
「気仙沼湾のように細長い湾で、途中で狭くなっているところがある。そこでは流れがより速くなり、砂をまきあげて黒い津波が発生しやすい。関西圏で一番怖いのは南海トラフ巨大地震、それによる津波で大阪湾は比較的開かれた所が多いが場所によって地形が複雑な場所がある。黒い津波で被害が拡大する可能性がある」
身近に迫る黒い脅威。その時、わたしたちに何をもたらすのでしょうか。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年3月9日放送)