関西テレビ「報道ランナー」キャスター・新実彰平が、スタジオを飛び出し気になる話題を深掘りする「新実取材」。
今回のテーマは、昨年度、過去最多を更新した「不登校の子どもたち」。
学校ではない場所で一歩を踏み出した3人の中学生のお話です。
■“学校に行けない”子供たちの居場所
中学2年生のびくか君と中学3年生のみそらさん。
【新実】
「おはようございます」
【びくか君とみそらさん】
「おはようございます」
【新実】
「カメラもう回ってます、大丈夫ですか?」
【びくか君とみそらさん】
「大丈夫です、大丈夫でしょう、ハハハ」
会った時から明るく、よくしゃべる印象の2人ですが、学校に行っていません。
その代わり、商業施設の中にあるこの場所に通っています。
【みそらさん】
「おはようございます」
大阪・八尾市のフリースクール「輝」。
不登校の子たちに、学校以外の居場所を提供しています。
現在、小中学生19人が、この場所で勉強したり、興味があることを調べたり、思い思いに過ごしています。
元教師で、退職してからこの場所を作った浦上弘明さん。
【NPO法人「輝」浦上弘明理事長】
「傷を背負った子供たちを、学校に耐えられるようする…ということを私はやっている訳ではないんです。そうではなく、きょう・明日・明後日を生きていけるものをつかみとろう!というのが一番大事なんですよ」
学校に行けない子には、行けない理由が必ずあります。
【新実】
「ほんまに小4で明らかにトラブルあったんや?」
【びくか君】
「そうですね」
【新実】
「小4の時に何があったん?言える範囲でいいので…。言える範囲ない?」
【びくか君】
「ないかもしれない」
自分の口では多くを語らないびくか君。
学校に行けなくなったのは、今から5年前、小学4年生の時です。
【びくか君の父親】
「ちょっと学校の先生と行き違いとかあったみたいで。それも、なんか自分がやってないことを『やった』って言われたことがあるみたいで。それもひょっとしたら原因の一つなのかも分からないですけど、初めの頃は僕は、甘えやと思ってたんで、無理やり車に入れてガーって連れて行ったりしたけど、学校に入れなかった」
■“学校ではない場所”で踏み出した一歩
ちょうどその時期、両親ともに仕事が忙しくなり、一緒にいる時間が少なくなっていました。
寂しい思いをさせてしまったことも原因ではないかと、お父さんは、自分を責めたこともあったそうです。
【びくか君の父親】
「僕も嫁もどのように本当に対応していいか分からなかった。ひょっとしたら、ちょっと育て方がなんか悪かったんかなぁとか」
行けなかったのは、学校だけではありません。
【NPO法人「輝」浦上弘明理事長】
「お父ちゃんがぜひとも入れたいと(輝に)入会したんやけど、この部屋に入れない。だからお父ちゃんと一緒に「輝」までくるんやけど、絶対入られへん、お父ちゃんだけ入ってきて、本人はどこにおりまんねん言ったら、そこの階段のところでじっとしてますねん、そんな子だった」
変化のきっかけは、もともと得意だったプログラミングでした。
「輝」で、ボランティアの大学生にプログラミングを教わり、自らホームページも作成。
周りに認められる体験が、自信につながりました。
【びくか君の父親】
「プログラミングとかで自信がついたんだと思うんです。そこから一気に本当明るくなってきて。本当怒りにくくなりましたし、輝さん行ってから本当にうん、なんかほんと表情良くなりましたね。自信がついたんだなあって」
不登校の子どもへの対応は、ここ数年で大きく変わっています。
文部科学省は2017年に”学校以外での学び”を認め、「学校に戻すこと」から「社会的に自立すること」を目指す方針に転換しました。
実際、八尾市の中学校も、輝での学びを学習の成果として評価し、学校への出席扱いにしています。
【八尾中学校・副田美臣校長】
「学校に行くのが嫌で先生も嫌やと、この心をほぐしてあげるのは非常に難しい。本当にそれぞれの子供たちの背景が違うので。そこでの葛藤は本当にありますけど、保護者は子どもが行かないと不安だと思うんです。我が子が学校行ってない…そういうところについては、そんなに負い目に感じずに『フリースクールでもいいですよ』と。こちらは認めて評価をしますから」
長い間、人との関わりを全く持てなかった子もいます。
香川県高松市に住む中学2年生のかず君。
【新実】
「輝と出会うまで、ほんまにそういう(人と関わる)場はなかった?」
【かず君】
「本当になかったです」
【新実】
「何年ぐらいなかった?」
【かず君】
「何年ぐらいですかね、5年半ですね」
【新実】
「会話する相手はその間は?」
【かず君】
「いないです、親だけ」
■家族としか話せなかった…ある中学生の歩み
そんなかず君が一歩踏み出すきっかけになったのが、輝が作ったオンライン上の仮想空間「かがやきの森」。
家から出ることもできない子のために、ボイスチャット機能で交流ができる場です。
【新実】
「いちばん最初、チャットだけで参加した時はどんな気持ちでした?緊張しました?」
【かず君】
「もうめちゃくちゃ緊張してて、過呼吸になるくらい緊張してたんですよ。マジでね、人との関わりなかったんで、バリ緊張してました」
【新実】
「今、会話させてもらってたら、信じられないくらいコミュニケーション円滑だし、ニコニコしてくれるし。まったく違ったってこと?数カ月前までは」
【かず君】
「まったく違いますね」
家族としか関わりを持てなかったかず君が、びくか君たちとのオンライン上のやりとりを通じて、作ったのがこの小さな絵本です。
【絵本のストーリー】
「カエルのきらりちゃんはいつも悪いことに巻き込まれてしまいます、だから出来るだけ家から出たくなくて引きこもっていました」
家から出ようとしなかったカエルのきらりちゃんが、お母さんに連れられ、夕陽を見に出かけたことで、「外に出るのは悪いことばかりじゃない」と気づいていくストーリーです。
お話を考えたのは去年から不登校になっているみそらさん。
【新実】
「この絵本で訴えたかったのは何ですか?」
【みそらさん】
「外きれいだよと。私、個人的に空見るの好きなんで」
【新実】
「自分の好きな外に出られない期間があって、それで余計に感じたことも?」
【みそらさん】
「気持ちが落ちてずーんってしてて、ちょっとずつ元気になって、外に出たらやっぱり気持ちよかった」
そして、イラストは、家にいる多くの時間を絵を描いて過ごしてきたかずくんが担当しました。
【新実】
「みそらさんが書いたストーリーを最初見たときはどう思いました?」
【かず君】
「俺じゃん!と思いました」
【新実】
「印象的やったんが、涙流してるこのシーン。こぼれてるって感じかな、これはかず君自身の感情でもあった?」
【かず君】
「本当にちょっと悲しかったんで、その時。誰とも関われないっていう状況が」
小学2年生の時、教室のザワザワとした雰囲気や、周りのなにげない一言などが苦しくなり、学校に行けなくなったかず君。
【かず君の母親】
「誰とも接せられないイライラ感とかで、しんどそうだなって表情が毎日だったんです。それがかがやきの森に入って、お友達と話せるようになったら、すごく笑顔、顔が明るくなって」
学校に行くことに対するお母さんの考えは徐々に変化していったそうです。
【かず君の母親】
「はじめのうちは必死になって『学校に行こう』ってやってたんやけど、どんどん学校へ頑張って行けば行くほど朽ちていくんです、子どもが。それを見てたら、何してたんやろうと思って。学校に行ってしんどくなるって、そこまでして学校って行かないといけないんかなって思った時に、『あ、常識はそうかもしれんけど、そうじゃなくていい、100人おったら100人の生き方があっていいから、この子にはこの子にあった生き方をすればいいじゃないか』っていうふうに思えたので、今は私もこの子も学校に行かないことに関して後ろ向きなことは一切ないです」
コロナ禍のなかで、オンライン以外で会ったことがない3人。
実際に会う日が来ることを楽しみにしています。
コロナが落ち着いたら会うことになるかと聞くと、3人は「ゲーム機と枕を持ち寄って、家に押し掛けるよ」などと、口々に答えました。
どうやら、かず君の家に泊まり込んで、夜通しでゲームを楽しむことになりそうです。
「学校に行かない」という選択に違和感を覚える人もいるかもしれません。
ただ3人は今、学校にいた時以上に「自分らしく」生きています。
NPO法人 輝(かがやき)
https://npo-kagayaki.org
オンライン上の仮想空間「かがやきの森」
https://www.kagayakinomori.org
(2022年2月22日放送)