■同時に育児と介護…「ダブルケア」の日常
広島県呉市に住む大谷佳代さん。
毎朝早くから、2人の小学生の子供の学校の準備や、家事で大忙しです。
【大谷佳代さん】
「きょうは5時起き、夫が5時半ぐらいに(家を)出るので」
長女の夏凛ちゃんは、4歳の時に脳の病気を患い、軽度の後遺症が残りました。
算数や体を動かすことがちょっぴり苦手です。
いつもより早く準備ができた2人の子供たち。
子どもたちを見送ると、トレーを持ってすぐに動き出す大谷さん。
向かったのは10メートル先にある両親の家です。
母の久仁子さん(78)は自分で歩くことができない「要介護2」。
食事の準備に加え、1日に3回のトイレは大谷さんの補助が欠かせません。
父の隆繁さんは、肺がんを患ってから足腰が悪くなり、家に引きこもりがちに。
最近は認知症の症状も出てきています。
【大谷佳代さん】
ーーQ:2人だけなら生きていけない状況?
「そう。父はそう思ってないんだけど、まず母のトイレが無理だから。『おむつにしたらいい』と父は言うけど、そのおむつを誰が変える?それを分かっていない。私が朝・昼・晩とやって、本当はトイレは3回じゃ、自分で考えるとかわいそうなんですけど。でも私ができるのは3回なんで…」
朝の介護を終えた大谷さん、息つく暇もなく、車に乗り込みパートタイムで働いているコンビニエンスストアに向かいます。
【大谷佳代さん】
「親の事と子供のことがあるから、パソコン使って仕事を在宅でしたいんですけど。人と喋らなくて、喋っても両親だけ。職場に行って人と会うのは自分自身でも分かるぐらい、(自分が)明るくなっている」
4時間の勤務を終えた後は、両親の昼ごはんの準備です。
【大谷佳代さん】
「パックうどん、恥ずかしいんですけど」
介護がひと段落すると、子供たちが帰宅。
この日は夕食に使う野菜を取るため近くの畑に。
起きている時間のほとんどが、「介護」と「育児」に当てられる「ダブルケア」。
取材したこの日は、まだ「平穏」だといいます。
■ダブルケアラー 全国に25万人以上
【大谷佳代さん】
「夏凛が難しいことがあった時に、どうしてもそこに手がかかることで、涼翔がすごく我慢したり必要以上に頑張ったりしていることを、親としては分かってるので、そこはなんとかしてやりたいと思うんだけど。でも、そっちのことをずっと考えていられない。親のことしなきゃという感覚で、常に頭の中が…。1日ゆっくりこの事を考えるということができない」
「子育て」と「介護」の両方を同時に行っているダブルケアラーは、全国におよそ25万3000人いると言われています。(2016年内閣府公表)
1975年に25.7歳だった第1子出産の平均年齢、2020年には30.7歳になりました。
晩婚化が進む現代で、子育てと介護の時期が重なることは珍しくなくなってきています。
ダブルケアラーのうち、女性の4割と男性の2割が「仕事を減らした」と回答、経済的に困窮するケースも出ています。
そんな実態を知ってもらおうと、大阪で開かれているパネル展(2月15日で終了)。
主催する当事者団体の代表・宮内葉子さん、自身もダブルケアの当事者です。
全国の支援団体とともに、オンラインなどで相談ができる居場所づくりをしています。
【当事者団体 「君彩」 宮内葉子 代表】
「(当事者は)外に出たい、誰かと話して発散したい気持ちを持つ人は多い。なかなか周りに、介護もして子育てをして…という方は周りにいなかったので。誰にも相談しづらい。特に介護のこととなると、場の雰囲気が重く暗くなってしまうから、とても言いづらいのです」
「ダブルケア」が社会に浸透していないことで、当事者は相談ができず追い込まれてしまう現実があります。
【大谷佳代さん】
「介護のことでケアマネージャーに相談したら、すごく親身になってくるけど『それはできん』って。子供はまだ小さかったし、子供のことも相談員に相談した時に『お母さんの頑張りなんよね』って言われた。『家でお母さんが頑張ればちょっと違ってくる』とか言われると、そりゃ頑張ってやりたいじゃろって思うけど。(育児と介護の)両方のバランスが見えてたら、そういう話にはならんと思うのだけど」
子供の「育児」と親の「介護」。
どちらも大切な家族だからこそ、満足にできない自分を責めてしまうといいます。
こうした問題に、動き出す行政も出ています。
■ダブルケア対策に動き出す行政も
大阪府堺市では、これまで別々だった「育児」と「介護」の相談窓口に加え、ダブルケア専門の窓口を設置。
保育園の利用調整基準に、ダブルケアの状況に応じて“加点”されたり、特別養護老人ホームの特例入所の基準にもダブルケアであることが考慮され、入園や入所が優先されるようにしています。
ダブルケアラーが増えていく一方で、こういう対応をしている自治体はまだわずかです。
【当事者団体 「君彩」 宮内葉子 代表】
「全国的に注目されて広がってくれるのかなと期待していたんですけど、残念ながら堺市止まりで。なかなか他の地域で専門の窓口が次々にできましたというのを残念ながら耳にしなくて・・・。もっと相談しやすい環境を行政の方でも作っていただきたいと思います。」
誰もが直面するかもしれない「ダブルケア」。
みんなが笑って暮らせる社会になるように、まずは知ることから始めてみませんか。
(2月14日放送)