2月3日、大阪市の松井一郎市長は、保健所に届く「発生届」の入力が、1日あたり最大3000件遅れていると明らかにしました。
「発生届」とは、医療機関などが陽性者の情報を記入するもので、保健所に送られると、職員は国の情報管理システム「ハーシス」に打ち込みます。
入力が済んで初めて、行政として患者を把握したことになります。
しかし、大阪市保健所では1月26日以降、合計1万2700件の発生届が入力できていませんでした。大阪府が毎日公表する新規陽性者数から、漏れていたことになります。
この事態を受け大阪市保健所では、司令塔である担当課長自らが休日に出勤し、入力作業を手伝うなど対応に追われ続けています。
なぜこれほどまでに入力が遅れたのか。原因は大きく3つあります。
1つ目にあげられるのは、保健所が想定する新規陽性者数を大幅に超えたこと。
大阪市保健所では第5波までの経験を踏まえ、新たに体制を強化しました。
1日あたりの新規陽性者数が1700人程度までを想定した体制にしましたが、ここ連日、大阪市内で3000人を超える陽性者数を記録しています。
大阪市保健所では、発生届を入力するための人員を拡充し、40人体制で対応していましたが、処理能力を大幅に超える事態になってしまったのです。
■追い打ちをかけた「ハーシス」の不具合
そこに追い打ちをかけたのが、国の情報管理システム、ハーシス(HER-SYS)の不具合でした。
1月下旬から全国的に不具合が生じていたということで、入力する際に画面が固まってしまうなど作業が集中する日中はほとんど使えず、夜になって入力せざるを得なかったといいます。
■いまだFAXによる送付
そして、3つ目の理由としてあげられるのは、、FAXによる発生届の送付が多いということです。
発生届がシステムに反映されるまでには、医療機関が直接「ハーシス」に入力するケースと、保健所にFAXが送られ、職員が「ハーシス」に入力するケースに分けられます。
大阪市保健所では、徐々にFAXによる受理件数の割合は減っているものの、6割の発生届がFAXで送付されているといいます。
大阪市も再三医療機関に協力を求めているといいますが、松井市長は「医療機関にこれ以上の負担をお願いするわけにもいかない」としています。
■陽性者の全件把握 意義どこまで
こういった3つの要因から至った今回の発生届の入力遅れ。保健所の備えにも限界がある中、抜本的な工夫はできないのでしょうか。
実は、2月2日におこなわれた国の専門家会議では、全国保健所長会から緊急提言がなされました。
(以下抜粋)
感染者の多くが軽症であることから、その中で重症化リスクのある感染者を見逃さないため、早急に届出基準を簡素化し、保健所の資源を重症化リスクのある者に集中していくことが必要である。(略)新型コロナウイルス感染症の発生数の把握については、持続可能な感染症サーベイランスを行うよう転換し、全ての感染者に対して個人情報を得て保健所が健康観察や生活支援を行う必要はなく、医学的判断により治療のための入院が必要な患者のみ保健所が把握し、地域医療において適切な医療を行う体制に早急に移行すべきである
現在、新型コロナウイルスが指定されている感染症法上の「2類相当」では、医療機関は全件、ただちに、発生届を出す義務があります。
しかし、これだけ市中感染がまん延し、重症率化率が低いオミクロン株では、全件把握の意義がどこまであるのかといった意見が相次いでいます。
3日、発生届の入力遅れについて記者会見をおこなった大阪市保健所の久野恭伸副所長に、陽性者の全件把握のあり方について問うと、「国の方針に則って現有戦力でやっていくことになろうかと思う」と答えるのみでした。
現場の対応力を優に超える感染規模が襲っている今、「発生届」のありかたを、国は早急に見直すべきではないでしょうか。
(関西テレビ放送記者 大阪市政担当 稲垣伸)