新型コロナウイルス「オミクロン株」の感染拡大で、医療現場からは、後遺症に苦しむ人がさらに増えるおそれがあると指摘されています。
後遺症治療の現場を取材すると、1年以上に及ぶ身体的な症状に加え、会社を辞めるように迫られるなど、二次的な「被害」に苦しむケースが。
コロナ後遺症の「知られざる実態」を取材しました。
■「起き上がれない」後遺症外来に多くの人
1月29日、大阪府堺市の邦和(ほうわ)病院。「コロナ後遺症外来」を開くこの病院の待合室には、多くの人が訪れていました。
【医師】
「あれからどう?」
【タクシー運転手の男性(50代)】
「まだちょっと…起き上がれない。やる気が(出ない)。腹に力が入らない。倦怠感というか…」
【医師】
「仕事は?」
【男性】
「いま休んでいます」
去年4月に後遺症外来を始めた邦和病院では、これまでに530人以上が通院していて、症状にあわせて漢方薬を処方し、治療にあたっています。
【邦和病院院長 和田邦雄 救急専門医】
「(症状は)倦怠感、息切れ、味覚や嗅覚の障害、睡眠障害。あるいは体のあちこちが痛い。ブレインフォグ(脳の霧)といって、脳に関する症状で、判断力の低下、記憶力の低下。それから脱毛。それぞれの症状を複合している人の方が多い」
■長期化する治療 医師は「仕事控えたほうがいい」
調理師の40代の男性。去年8月に感染し当初は「軽症」でしたが、約半年にわたって倦怠感などが続き、感染前と同じようには仕事ができなくなりました。
【後遺症が続く調理師の男性(40代)】
「上司からもやっぱり…こういう状態というのが浸透していないのもあるので」
【医師】
「さぼってんちゃうか、と?」
【男性】
「言われます」
診断書をもらい、今後2カ月は休職するということです。
【調理師の男性】
「仕事が(感染前は)できたことが…頭が回らない。考える力が働かないというか。僕は調理師なので、それに見合った料理が作れていない。単純にお客さんに出せないので、雑務というかもっと簡易的な仕事を任せられている状況。本当に負のループ」
後遺症の人は、無理に仕事や運動をすると症状が悪化することがあり、邦和病院の患者で仕事をしている人のうち約8割は、感染前と同じようには働けなくなっています。
【邦和病院院長 和田邦雄 救急専門医】
「治る期間は個人差がある。なるべく体を休める。仕事も控えた方がいい。その方が治りやすい」
■オミクロン株拡大期 軽症でも後遺症訴え
長期間の治療が続く後遺症。そして今、オミクロン株が拡大した時期に感染した人も、治療を受け始めています。
1月に感染が判明した女性。当初は「軽症」で1月下旬まで自宅で療養していました。
【医師】
「体はだるい?」
【1月に感染が判明した女性(70代)】
「倦怠感が」
【医師】
「味覚や嗅覚の障害は?」
【女性】
「味覚ない、おいしくない」
女性が感染したのがオミクロン株かどうか、保健所から連絡はありませんが、倦怠感や味覚障害などがあり、今後の経過を見ていくことになりました。
オミクロン株に、どんな後遺症があるのかはまだ分かっていません。
東京で、これまで約3300人の後遺症患者を診てきた、平畑光一医師。すでにオミクロン株の後遺症とみられる患者を、少なくとも5人は診ていると話します。
【ヒラハタクリニック・平畑光一医師】
「(5人は)オミクロンが急激に増えて、その時の感染者なので、おそらくオミクロンだろうと。メインの症状は、倦怠感なんですけど、1人は今年1月の発症で、すでに寝たきり状態になってしまっている。オミクロン株は軽症と言われがちだが、後遺症になった場合に(後遺症が)軽症かどうかは話が別。(感染すれば)かなりの長期間働けなくなる可能性があると意識して、感染防御に努めなければいけない」
国立国際医療研究センターが、去年までに感染した457人を対象にした調査では、感染から半年後に何らかの症状が続く人は26.3%と4人に1人。
さらに1年後も症状が続いている人は8.8%と、約10人に1人いることが分かりました。
■長引く後遺症 精神的に追い詰められ…
長期化する後遺症は、身体以外にも影響を及ぼしています。
大阪市にある北野病院の後遺症外来。診察を受けているのは、去年4月に感染が判明し後遺症が続く、20代の女性です。
【後遺症が続く女性(20代)】
「普通にテレビ見ているだけで、脳がぐにゃんとなる感覚、脳に血がいかない感覚とか。何が原因かわからなくて、ちょっと運動したら急に眠い、家に帰りたい、体が重たい。ものすごく悲しくて、なんでこんなに絶望的なんやろう」
仕事にも復帰できないまま、先が見えない状況に精神的に追い詰められています。
【後遺症が続く女性(20代)】
「不安が止まらなくて、それがしんどくて…働けるところまで体力がいつ回復するのかとずっと考えてしまって、心配で」
女性を診察する医師は…
【北野病院・丸毛聡医師】
「体が本当にしんどくて、長い期間、それに悩まされる。そういったことから途中で二次的に精神疾患、うつ病や不眠症などを発病する方がいるが、決してそれは精神的な要因だけでなっているものではなく、(周囲には)本当に身体がしんどい病気だということは認識して欲しい」
■後遺症 職場の理解なく退職迫られる人も
後遺症を職場から理解されず、退職を迫られる人もいます。
大阪市の40代の男性は、1年2カ月にわたって息切れや倦怠感、腹部の痛みなどの症状が続き、仕事も休んだままです。
【後遺症が続く男性(40代)】
「4歳の娘がいるんですが、娘がパッと逃げて、5~8メートルぐらい軽く追いかけると倒れそうになります」
男性は2020年の11月に、建設関係の職場でクラスターが起きて感染が判明。会社からの申請で労災と認められ、休業補償が出ることになりました。
しかし、体調不良が続き、感染の翌月、2020年の12月に医療機関で後遺症と診断されます。すると、社長の態度は一変しました。
【後遺症が続く男性(40代)】
「(社長は)会社が負担している分の厚生年金と社会保険料がもったいないから、辞めろと」
去年2月、男性と社長のLINEでのやりとりです。
【社長】
「うちも毎月半分負担してるから実際しんどいねんけどな」
【男性】
「完治したらまた働くつもりでしたが、どうしたら良いのでしょうか?」
【社長】
「多分無理やから、それとなしに言うてるつもりやけど、早く自宅で出来る仕事を見つけた方がいいんちゃう」
さらに去年10月には、社長から直接、こんな言葉を投げかけられたといいます。
【男性が社長とのやり取りを記したメモ】
「お前の生活、何してるか見てるからな」「監視してるからな」
去年12月からは、会社は休業補償を続けるための書類を、男性に渡さなくなったということです。
【後遺症が続く男性(40代)】
「(社長から)後遺症は仮病やと言われたので。なに仮病使ってんねんと」
「元に戻るためにいろんな病院に通っていて、正直、そこでいっぱいいっぱい。ただ(休業補償を)もらわないと、生活ができなくなる。(休業補償がなければ)持ち家でローンも払っているので、多分家も売らないかん」
男性は労働基準監督署に相談して、今後は会社を介さずに休業補償の手続きを進めることにしています。
男性は、後遺症のことを、周囲に理解して欲しいと訴えます。
【後遺症が続く男性(40代)】
「さぼりたいから病院に行っているわけでもないし、しんどくないのにしんどいと言っているわけでもない。行政、会社を経営されている方、人事の方、同僚とか、そういう方たちにも分かって欲しい」
長期化する、コロナ後遺症の現実。今後、さらに苦しむ人が増えるおそれがある中、周囲の理解とサポートが求められています。
(関西テレビ「報道ランナー」2月3日放送)