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■言語聴覚士　困難からの回復に寄り添う

いつもの「話す」「食べる」ということが難しくなったら…
そんな境遇に寄り添う「言語聴覚士」という職業があります。

全国には、食べ物を飲み込みにくいといった嚥下（えんげ）障害を抱える人が少なくとも２００万人。
話すことが難しいといった、音声言語に障害を抱える人は、およそ３５０万人いるとされています。
高齢社会の中で、そうした人たちは今後も増えることが予想されていて、誰もが同じ境遇になる可能性があります。
しかし、そうした人たちに向き合う言語聴覚士の数が足りていません。

障害を抱える人を、リハビリで支え続けている高田耕平さん（42）。
この日は、15年前にくも膜下出血を患った74歳の男性のリハビリを行いました。
男性は、全く喋ることができませんでしたが、高田さんとリハビリを行い、7年前から少しずつ声を出せるようになったのです。

【高田さん】
「人の人生を良い方に変えることが出来る仕事だと思いますね」

高田さんの職業は「言語聴覚士」。
「話すこと」や「食べること」に不自由を抱える人について原因を分析し、機能を回復するためのリハビリなどを行う国家資格を持つ医療のプロです。

■医師からは「もう自力では食べられない」それでも…

高田さんがこの日訪れたのは京都市に住む仲秀子さん（72）の自宅。

【言語聴覚士・高田さん】
「きょうのサツマイモ、だいぶねっとりしております、ええやつです」

【夫・良二さん（74）】
「もう余命何ヶ月ですよね、最後の。病院は、それ（看取り）しか選択肢はないとはっきり言われたんですよね」

秀子さんは脳梗塞や誤嚥性肺炎などを繰り返し、３年前「この先、口から食べることはできない」と医師に告げられました。
諦めきれない夫の良二さん（74）は、高田さんに相談。
高田さんは、飲み込むために必要な筋力が、わずかに残っていると分析。
トロミのついた水を飲むことからリハビリを始めました。
食べられるものは徐々に増えてきて、今では舌でつぶせる物は食べられるまでになっています。

【夫・良二さん】
「命の恩人というか、こうして食べることができるようになったというのは、彼なしでは、考えられないでしょうね」

【夫・良二さん】
「これは、私の結婚式の写真です」

結婚して半世紀。
２人で一緒に会社を起こしました。
忙しい仕事の合間に美味しいものを食べにドライブするのが夫婦の楽しみでした。

【夫・良二さん】
「ずっと一緒ですわ、四六時中、家も事務所も一緒でしたんでね、食べさすことがちょっとまだ私がね、できたらいいんですけども。車で行くんやったら、もうどこでも行くと思うんですけどね」

２人のような人たちが、安心して食事を楽しめる居場所もつくりたい…。
2021年３月、宇治市にオープンした「みんなのカフェぐりぐり」。

【言語聴覚士・高田さん】
「仲さんのは、丸のみカツでよろしくお願いします、準備万端でございますね」

高田さんはメニュー開発の中心を担います。
蒸気などで食材を軟らかくする家電を用いるなど試行錯誤の末、12月末「丸飲み？カツカレー」（１１００円）の発売にこぎつけました。

■やわらかいメニューで　3年ぶりの外食

【良二さん】
「これからレストラン行くんやで」

良二さん、秀子さんを助手席に乗せ、ハンドルを握ります。

向かった先は「みんなのカフェぐりぐり」。
2人にとって3年ぶりの外食デートです。

「お待たせしましたー」

２人のもとに、ほとんど見た目が同じ2皿のカレーが運ばれてきました。
高田さんが、ペットボトルに入れた水の重さを利用して、食べものの硬さを測る道具「カメルカ」でカツの硬さを最終チェック。

高田さんは、感覚ではなく客観的に食べ物の硬さを図れる道具があれば、秀子のような人が食べられるもののバリエーションが広がると感じ、「カメルカ」を2年ほど前に、開発しました。

「カメルカ」でカツの硬さをチェックします。

【言語聴覚士・高田さん】
「いいっすね、めちゃめちゃ軟らかいです。ばっちりです」

カツは、舌でつぶせる軟らかさに仕上がりました。
秀子さん、カレーをどんどん食べ進めます。

【言語聴覚士　高田耕平さん】
「久しぶりですね　自分でいかはったん」

自らスプーンを持ち口に運びます。なかなか自宅では見られない光景です。

【言語聴覚士　高田耕平さん】
「おぉすごい、最後までいく、すごい！すごいね」

見事、完食です。

■不足する「退院後」の支援…　”諦め”を減らすために

【言語聴覚士　高田耕平さん】
「そんな隅々までいく（食べる）人やったとは」

【夫・良二さん】
「本当に想像しませんでしたね、びっくりしましたね。外で食べられる所ができたっていうのは、ほんとに。とにかく外に出ることが好きなんで、これからできるだけ外に連れ出したいなっていう思いがしますね」

在宅支援や居場所づくりを続ける言語聴覚士の高田耕平さん。
もともと、2014年までの８年間、病院に勤務していました。
その時、退院後に自宅で十分なリハビリを受けられず「食べること」や「話すこと」などを、諦めてしまう多くの患者を目の当たりにしました。

【言語聴覚士　高田耕平さん】
「病院にいる間によくなりきらないとか、本当に家に帰ってから、差し伸べられる支援っていうのが全然ないっていうのを知って、知れば知るほど自分がその間（病院と在宅）をつなぐような人になりたいって思ったのが大きいですかね」

医療などの現場で働く言語聴覚士はおよそ２万人で、そのうち在宅支援を担う人は1割程度。
自分が受け皿になりたいと今の道を選びました。
高田さんが支えるのは、病気が原因で不自由を抱える人だけではありません。

■生まれつき言葉が…　”発音”の訓練で得たもの

発達の課題や困りごとを抱える子供たちが放課後に集まる京都府・宇治市の「放課後等デイサービス きぼうの木」。
ここで高田さんが４年前から診ているのは、小学6年生の小寺拓充くん（12）。
生まれつき、言葉を上手く発音できません。

拓充くんは、「きぼうの木」で高田さんと月に１度、言語トレーニングをしています。
この日は、風船を使ったトレーニングです。
拓充くん、風船を膨らませようとしますが、なかなか膨らみません。

【言語聴覚士　高田耕平さん】
「もうちょい、もうちょい」　

【拓充くん】
「無理 無理 無理」

【言語聴覚士　高田耕平さん】
「いけるよ、いけるいける」

何度もチャレンジ！勢いよく息を吹き入れた結果、風船が膨らみました。
【言語聴覚士　高田耕平さん】
「いったいった、ばっちりばっちり」

唇をしっかり閉じ、鼻から声を漏らさず「パ」や「バ」をキレイに発音するため、風船やおもちゃの吹き矢を使って筋力トレーニングをします。
自宅でも拓充くんのトレーニングは続きます。
ペットボトルを口にくわえ、大声を出す拓充くん。
高田さんから教わった、はっきりとした言葉の発音を身につけるためのトレーニングの一つです。
高田さんに出会う前、拓充くんは、周囲とうまく話せず殻に閉じこもっていました。

【母・朋子さん】
「言葉がまだうまいことしゃべられへんから、それに対して『何を言ってるかわからへん』とか言われると『もう（友達と）遊びたくない』みたいに言うことがあった」

【拓充くん】
「1年生くらいのときは伝わらなくてイライラしてた。だから『こうやって言ってんのに！』みたいな感じになってた」

そんな拓充くんの心を解きほぐしてくれたのが、高田さんでした。

【拓充くん】
「援護してくれた人。（高田さんに）すごく心が癒される愛されてるかなって思います」

この日は、拓充くんが通う「きぼうの木」の新年会。

「あけましておめでとうございます」

子供たちが抱負を発表するのが恒例となっています。
拓充くんの出番が回ってきました。胸をトンと叩いて気合を入れた後で立ち上がり、注目する20人ほどの友達や先生の前に立った拓充くん。
いざ、新年の抱負を述べます。

【拓充くん】
「頑張ることは、何事でもチャレンジすることです」

人前で話すのは苦手でしたが、ハキハキと抱負を述べることができました。

【拓充くん】
「この日のために高田先生に感謝の言葉を言いたいなと思って、昨日から練習したんですよ」

拓充くんは、この春、中学生になります。
高田さんに伝えておきたいことがありました。

【拓充くん】
「４年間、本当に言葉も上手になる一歩を踏み出せたかなぁと思っています。本当に高田先生には、ほんまに感謝しています。また、これからよろしくおねがいします」

【言語聴覚士　高田耕平さん】
「おー、ありがとうございます、ばっちり言えてるやん、感動したわ。言葉って少しずつ少しずつ変わっていくところの積み重ねなので、そういったことが4年の中でこんだけできるようになったっていうのを、言ってくれるっていうことが、本当にこっちもやりがいがあるなって思いますし、この仕事してて良かったなって思います」

【拓充くん】
「そう言ってもらえると、ちょっと泣きたくなります」

【高田さん】
「お互いそれはそうだよ。こっちもちょっとウルッとくるもん。これからもがんばりましょう、気楽にね(笑)」

話したい
食べたい
あきらめたくない人の「できる」を一緒に探す日々が続きます。

(2022年1月20日放送）