■障害者とその家族を支えるミニコンサート
奈良県に多くの人の人生を、音楽で応援する女性がいます。
後押しするのは難病の娘の言葉です。
2021年9月、奈良市で障害がある人や、その家族が無料で参加できる小さなコンサートが開かれました。
自宅から出られない人はオンラインで楽しみます。
【石原さん】
「ゆったりとして聞いてくださいよ、こっちも緊張しますから」
コンサートに演奏者として招かれたのは、石原左知子さん(59)。
以前、中学校で音楽の教師をしていました。
【障害がある子を育てる母】
「すごく良かったです。知っている曲ばっかりで楽しませてもらいました。子どもも機嫌よく聞いていました」
【石原さん】
「にこやかな顔で聞いてくださっていたのがすごく嬉しくて、最後の最後までアンコールも頂けまして、楽しんで頂けたんかなって思って、喜んでおります」
石原さんは、2人の子どもを育てたシングルマザーで、今は学童保育の指導員や小学校の支援員として働いています。
■演奏者の母…26歳の娘は難病ALSを患う
石原さんが休みの日に向かう病院。
娘の理江子さん(26)が入院しています。
【石原さんが病院でオンライン面会する様子】
「りえちゃん来たよ。どうだ顔色いいかな、いいな」
理江子さんは、難病のALS・筋萎縮性側索硬化症を、保育園の職員として働いていた7年前に発症しました。
筋肉がだんだんと痩せて、力がなくなる進行性の難病です。
最初は言葉がうまく話せなくなり、やがて体も支えられなくなりました。
そして、自力での呼吸もできなくなっていきました。
【石原さん】
「なんでうちの子ってことしかない…理江子はどうなるんだろうっていう心配ばかりで、不安とつらさと、かわいそうやなって気持ちでいっぱいでしたね」
理江子さんの体は、足の先しか動かせなくなりました。
視線で文字を入力する機械を使って会話をしていましたが、発症から3年が経った頃、それもできなくなりました。
理江子さんは、反応はできませんが、石原さんは優しく話しかけます。
面会は、コロナの対応でオンラインの10分間しかできません
【石原さん】
「リコーダー演奏しきてん。みんなの前で演奏してんで。すごくない?結構みんな聞いてくれはってよかったんよ。りえちゃん元気になったら(一緒に)演奏したいねんけどな…、りえちゃんフルート吹いてたもんな」
石原さんは1年以上、理江子さんに触れてあげることができていません。
【石原さん】
「時間きちゃったよ、りえちゃん、すぐやな…10分間って。またいろんなこと話しにくるわな…。またね、りえちゃん、待っててな、また来るよ、じゃあね」
【石原さん】
「WEB面会だけでも来て、会えるだけでもありがたいかなって感じです」
ーーQ:音楽会の報告を理江子さんはどういう風に聞いてたと思う?
「『お母さんやったん?』って感じ。『リコーダーしたん、見に行きたかったな』って言ってくれてると思います」
石原さんは地元のブラスバンド「ママさんブラスnara」の団長です。
■ブラスバンドの団長を続ける理由
理江子さんは、石原さんが音楽をする姿が大好きでした。
【石原さん】
「発表会・演奏会ごとに来てくれて、ますます好きになって、自分も演奏したいという夢を持っていました。フルートを習い始めて、中学生の時ですけど、ずっと好きですね」
石原さんは理江子さんの病気が判明した時に、ブラスバンドをやめようとしました。
【石原さん】
「練習に行くんやったら病院に行ってあげたいと思って、『お母さん次演奏会あるけど、やめようかな?休もうかな?と思ってんねん』って言ったら、『ダメダメ、ダメダメ』って、こっちが分かるぐらいダメダメって言ってくれて、『続けてもいいの?』って言ったら、『うん、うん』って言ってくれたから今も続けています。今も信じて」
石原さんは、理江子さんのこの言葉に背中を押され、音楽を続けることにしたのです。
■難病の娘が続けて欲しかったコンサート
11月、理江子さんが大好きだったコンサートが2年ぶりに開催されました。
石原さんは、バスクラリネットを演奏します。
さらに…
ディズニーの曲では、映画に登場するキャラクターになり、来場者と一緒に振り付けを踊ります。
【来場者】
「司会者の方(石原さん)が毎回毎回楽しませてくれるので、とても笑かしてもらいました」
【来場した子ども】
「楽しかった」
ーーQ:いっぱい踊った?
「うん」
【来場者】
「小さな子どもでも、本物の音を聞くことが出来るっていうのはすごくいい体験だと思います」
■難病の娘が押した母親の背中
石原さんは、理江子さんが入院する病院に向かいます。
コンサートの写真をパソコンのカメラに向け、理江子さんに話しかけます。
【石原さんの面会の様子】
「りえちゃん、目あけて、来たよ。これセバスチャン、また着たのよ。アンダー・ザ・シーで踊ったから。りえちゃん見て欲しかったな」
【石原さん】
「見たかったなと思ってくれたら嬉しいなって思って」
ーーQ:また頑張れそうですか?
「頑張りますよ、いつも理江子のことを思いながらやっているから、また頑張ります」
娘の言葉に後押しされて、多くの人の人生を音楽で応援し続けます。
(2021年12月22日放送)