事件現場の証拠を集める「鑑識作業」。警察官全員が基本は学ぶということですが、実際に「プロ」として勤務するのはごく一部です。このプロの任務に就きたいと希望する女性警察官の挑戦を取材しました。
■長年のあこがれ「鑑識現場に異動したい」
事件現場で犯人の手がかりを探る、警察の鑑識作業。「ミリ単位」の技術の世界で、様々な部署の警察官が、その技術を向上させるために京都府警では毎年、競技大会が開かれています。
京都府内で検挙数の多さが上位に入る山科警察署チームの「班長」になったのが、刑事課の巡査部長、片山奈美さんです。
普段は、捜査に関する書類などをまとめる、事務作業を担っています。実は片山さん、鑑識現場に異動したいと、長年思いつづけています。
【片山奈美さん】
「現場でとった足跡が被疑者につながったっていうのを聞いた時とか。そこがきっかけでしたね」
■初めての練習に悪戦苦闘
競技大会に出ることになった片山さんは、初めての練習に臨みました。タッグを組むのは、普段から鑑識係で働く平井結花さんと、3年目の交番勤務、中村吹雪さんです。鑑識作業の基本は、全ての警察官が警察学校で学びます。指紋は、粉を振って浮かび上がらせて、シールに写し取ります。独特な「感覚」が大切だといいます。
片山さんは練習で悪戦苦闘。粉が多すぎて、指紋の凹凸が真っ黒になってしまいました。
【片山奈美さん】
「つぶれちゃったんです。やりすぎた!と思って。難しい」
大会では90分間で、どれだけの証拠を集められるかを競います。3年前に練習して以来だという鑑識作業。感覚を取り戻すのにも一苦労の様子です。
【片山奈美さん】
「本当に久しぶりやったんで、こんなにとれないもんなのかと。時間の勝負ですから、現場でこれ90分でやれって言われたら、えーってなる量ですね」
実際の事件でも、採取した指紋やDNAによって早期の容疑者特定や、長年「未解決」だった事件で容疑者逮捕につながるケースは多数あります。鑑識は、捜査を左右する重要な作業なのです。
■3人の子どもを育てるお母さん
勤務と練習を続ける片山さん。夕方になり、一層あわただしい様子です。
【片山奈美さん】
「帰ります係長」
【片山さんの上司】
「おう、はよ帰り」
片山さんが向かった先は、保育園。片山さんは3人の子供を育てるお母さんです。子供が生まれたことで、刑事という仕事への意識も強くなったと言います。
【片山奈美さん】
「子供ができてなおさら、自分の仕事っていうのがすごくやりがいを感じるようになりました」
(子どもたちに)「みんなのな、安心を守るのが仕事やからな」
捜査の最前線への希望を、子供たちも後押ししています。
【片山奈美さん】
「(子どもたちが)たくさん泥棒つかまえてね、頑張ってねって言ってくれたんですよ。たまに手紙とかもくれます。(そういった後押しがあると)やっぱり頑張ろうと思えます」
■ついに本番当日 緊張で手痛い時間のロスも…結果は?
練習を重ね、指紋も、つぶさずきれいに採取できるようになってきた片山さん。ついに、年に一度の鑑識大会の日がやってきました。
大会は、架空の事件に対応するという形で行われます。
事件の概要は、銀行員を装う人物が、高齢者の家を訪問。マスクをしたまま、家の電話機を使って、銀行とのやり取りのような会話をして信じ込ませ、キャッシュカードを取ったというもの。
90分間で、犯人の遺留品、足跡、指紋、DNAの採取と、似顔絵の作成を見落としなく、正確にしなくてはいけません。
足跡に、ボタンに、糸と…次々と犯人の手がかりを発見してきます。
【片山奈美さん】
「あそこ行ってくれへん?インターホン」
片山さん、班長として2人に指示を出しながら進めますが…
【片山奈美さん】
「電話の送話口いきます…あ、間違えた。これ(DNAを)とらへんわ」
犯人がマスクをしていたことから、電話機のDNA採取は、口元は要らず、耳の部分だけと、本番前に打ち合わせをしていました。にもかかわらず、手痛い時間のロス。
そして、指紋採取ですが…
【片山奈美さん】
「びっくりするくらい、(指紋が)でないんやけど 無いんかな」
犯人が握ったはずの受話器から、なかなか指紋が採取できず、焦りが募ります。
【片山奈美さん】
「1時間の経過やね あと30分 汗だくや」
3人で手分けして、必死で採取した証拠品を提出しました。
【片山奈美さん】
「失敗した部分もあるんですけれども、それも含めて時間内にできたので、今回は良くできたんじゃないかなと」
結果発表の日。入賞の6位までが発表されますが、入賞とはなりませんでした。足跡の見落としが、減点になってしまいました。
入賞はかなわなかったものの、全力で臨んだことは片山さんに改めて決意を抱かせたようです。
【片山奈美さん】
「今回学んだことを実際に現場でやりたいなっていう気持ちはすごくわいてきたので」「これで終わりと思わずに、これを仕事に生かしていきたいなと思いました」
――Q:お子さんたちにはなんと報告しましょう?
「興味を持ってくれて、応援もしてくれましたし、そのままを伝えようと、頑張ったよと伝えます」
(関西テレビ「報道ランナー」2021年12月15日放送)