■新人獣医 憧れの職場に
神戸を代表するエリアの一角に誕生した水族館「アトア」。
アートとアクアリウムの融合を打ち出した「劇場型水族館」です。
展示されている生き物はおよそ100種類にのぼります。
まだ周辺が工事中だったオープンのおよそ一か月前。
仕事に追われる1人の男性がいました。
藤原拓哉さん。26歳の新人の獣医です。
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「水族館によく親に連れていってもらっていて、自分より小さいけどすごい速さで泳いでいるペンギンを見て、単純にかっこいいなと、好きになりました」
水族館の獣医は小学生の頃からの夢。
獣医学部のある大学に進学すると、豚や牛など主に家畜動物について学ぶ6年間でした。
獣医の資格を得て、動物病院への就職が決まりかけましたが…
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「やっぱり水族館に行きたいという憧れが抑えきれなかった。技術的に足りない、でもやっぱり行きたいなと思って」
憧れの職場を選び、アトアのオープン準備から関わる日々。
■獣医として細心の注意 ペンギンを神戸へ
この日は、大好きなペンギンを引き取るために高知県に向かいます。
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「僕自身初めての経験なので、緊張しているのが正直なところですけど。自分で迎えにいけるのはすごく嬉しいですし、楽しみです」
到着したのは、坂本龍馬像でも有名な「桂浜水族館」。
すぐにペンギンのエリアに行き、対面です。
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「トマトってどの子ですか?」
【桂浜水族館・飼育員(ペンギン担当)】
「こちらで泳いでいる子です」
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「真ん中の子ですか」
【桂浜水族館・飼育員(ペンギン担当)】
「白のタグに赤字でトマトと書いてある子です」
連れて帰る1羽1羽について、引継ぎを受けます。
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「エサとかは普段どんなものをあげているのですが?」
【桂浜水族館・飼育員(ペンギン担当)】
「これぐらいのサイズのマアジですね」
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「あまり元気がないのか、などの判断基準が、3尾食べるか…どうかぐらい?」
細かいところまで質問攻めにします。
【桂浜水族館・秋澤志名 館長】
「彼を見ていると勤勉ですし、任せておいても安心かなとすごく思います、信頼できるのではないかと思っています」
愛情をかけて育てられたペンギンを1羽ずつ大切にゲージに入れていきます。
神戸にはペンギン7羽を連れていきます。
ここからは、ペンギンの健康を守るのは、獣医・藤原さんの責任です。
出発してすぐ、サービスエリアに。
休憩のためではありません。
車を停めること4回。
その度に、しっかり様子を確認して神戸までのおよそ270kmの道のりを進みます。
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「動物の様子に変化がないか、呼吸数などを確認して、落ち着いているかどうかを見て判断しています」
獣医として細心の注意を払いつつ、ペンギンたちの様子を伺いながら、無事にアトアに帰ってくることが出来ました。
高知から神戸までおよそ5時間のロングドライブでしたが、ペンギンたちも元気そうです。
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「みんな一緒に動いています。無事、ここに連れてきてあげることができて、良かったなと思います」
引きとりは無事終了。
オープンに向けて準備は着々と進んでいきました。
■新人獣医の仕事 水族館のオープンで本格スタート
ペンギンたちも、元気な姿でお客さんを迎えます。
ーーQ:これ高知から運ばれてきたペンギンですよ
【来館者】
「えー!遠!」
「ようこそ神戸へ!」
「神戸っ子になろうよ!」
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「もうちょっとびっくりして慌てたりするかと思っていたのですけど、いまのところ問題は無さそうなので一安心しています」
水族館の獣医としての生活。本番はこれからです。
藤原さんの主な仕事は、生き物の「定期検査」や「検診」になりますが、水族館にいるのは、大学で学ぶ「家畜動物」以外の生き物ばかりです。
ーーQ:サメについては詳しい?
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「専門外というか、全然知らないことが多いので、知識を蓄えていかないと。なにかあったときに対応できないと実感している。大学では習ったことのないような生き物を、水族館の獣医は見ないといけない。海外の英語の論文を読んだり、先輩方の意見とか、いろんな意見を聞きながら自分でどうしたらいいのだろうと考えていく毎日です」
試行錯誤が続きます。そんな中、水族館に異変が…。
12月1日、水族館をのぞくとペンギンの姿がありません。
兵庫県内で鳥インフルエンザが確認されたことを受け、展示が中止になっていました。
■勉強と試練の日々 大好きなペンギンの採血
この日は、藤原さんが定期検査ではじめてペンギンの採血をすることに。
細い足に針を刺しますが、ペンギンが動いてしまい、うまく血を採れません。
先輩に交代します。
その技術を、じっくり見つめます。
アドバイスも受け、再び採血を試みます。
結局うまくいかず、先輩がすべて採血する結果に。
【アトア獣医・明石富美子さん】
「お疲れ様でした」
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「血管には刺さっているみたいなのですけど、うまく保持ができなくて。悔しい結果にはなったのかなと思います」
【アトア獣医・明石富美子さん】
「私が新人の頃よりは、(血が)取れていると思います」
ーーQ:採血は難しいものなのか?
「ペンギンは難しいと思います」
ここで巡り合った生き物たちとずっと過ごしていく藤原さん。
命に寄り添うために、獣医として学ぶべきことは山ほどあります。
【アトア獣医・藤原拓哉さん】
「目の前にいるこの動物たちをいかに健康で元気に、ストレスなく生活させてあげられるかをまず考えて。『こいつに任せておけば大丈夫!』だと思ってもらえるような獣医になれるようにまずは頑張りたいと思います!」
ーーQ:それに対して、到達度はいま何パーセントくらい?
「そうですね、まだまだ・・・。1パーセントいけているくらいです」
(2021年12月14日放送)