■早朝から湖へ “新人漁師”は女子大生
夜明け前の午前5時、琵琶湖の海津漁港に現れた1台のバイク。
赤いつなぎを身にまとい、早朝から漁へと繰り出したのは大学生の田村志帆さん(21)です。
“琵琶湖の漁師”になるため、2021年8月に高島市の漁師・中村清作さん(36)に弟子入りし、琵琶湖の漁を学んでいます。
今では網にかかった魚をてきぱきと外していきますが…
ーーQ:最初はどんな感じ?
【田村志帆さん】
「え~、それ聞きますか?(笑)」
【中村清作さん】
「最初は、魚一匹外すのに10分くらいかかってた時あったんちゃう?どんどん成長していってますよね。」
志帆さんは神奈川県・相模原市の出身。
小さい時から地元の川や湖が遊び場でした。
そんな志帆さんにとって琵琶湖は“憧れ”の場所です。
【田村志帆さん】
「琵琶湖にしかいないお魚とか貝だったりもたくさんいるので、そういう面で面白いですね。生き物の営みとか、琵琶湖の恵みとか様子とか、丸ごとをお届けできるような漁師になりたいですね」
早朝からの漁は午前中に終了。
自宅に戻ると、今度は漁師から大学生に戻ります。
■リモート授業なら… 決断した「移住生活」
在籍する東京海洋大学では、コロナの影響でほぼすべての授業がリモートに。
志帆さんは元々は企業に就職するつもりでしたが、どこでも授業を受けられるこのタイミングに大転換。
琵琶湖の漁師の世界に飛び込む決断をしたのです。
【田村志帆さん】
「いろんなところに行って、現場に触れながら、好きな時に勉強できるというのは自分には合ってました。」
一緒に暮らすのは、同じ大学の先輩で恋人の宮崎捷世さん(25)。
2人の食卓には、志帆さんがとった魚だけではなく、鹿の肉も。
宮崎さんも“山の猟師”を目指して修行中。
将来は2人で自給自足の生活を目指しています。
ーーQ:今の生活は合ってる?
【2人】
「合ってますね」
【宮崎捷世さん】
「趣味を仕事に…じゃないですけど、楽しいことを仕事にして、お金はあんまりないかもしれへんけど」
2人は自分の「好き」を仕事にして、この高島市で生きていくと決めています。
■高齢化が進む地元の漁港 新人漁師を歓迎
志帆さんの移住は海津漁港にとっても大きな意味が。
漁師は年々減っていき、支えているのは、ほとんどが高齢のベテラン漁師です。
ーーQ:優しく教えてるんですね?
【ベテラン漁師】
「そうやで、もうええおじさんやからな」
【中村清作さん】
「漁師本人はまだ漁に出たいと言っても家族が『もうやめとき』って言う。そんな世代の方々が、これからますます出てくるかなと思います。(志帆さんが)ここを選んでくれるというのはすごくうれしいことやし、僕たちは彼女が一人前にしっかりなれるように、サポートしていく必要があるんだろうなと思っています」
■女子大生の新人漁師 特別な漁「氷魚漁」に挑む
琵琶湖に最も大切な季節がやってきました。
12月に解禁となる「氷魚漁(ひうおりょう)」。
氷魚はアユの稚魚で、日本でもごくわずかしか水揚げされない貴重な魚です。
夏には「びわます漁」も行われていますが、主要な取引先である飲食店への出荷が緊急事態宣言の影響で激減。
そのため、ことしは例年以上に氷魚漁が琵琶湖の漁にとって生命線となります。
志帆さんが挑むのは、「エリ漁」とよばれる漁法。
湖岸から網を張り巡らせ、水の流れに乗って来る魚を網の中に入れる1000年以上続く琵琶湖の伝統漁法です。
【ベテラン漁師】
「そっち持っていて引っ張って」
【田村志帆さん】
「はい」
網が少しでもずれると、体の小さい氷魚はすぐ逃げてしまうため、先輩漁師に教わりながら丁寧に仕掛けます。
【田村志帆さん】
「風がちょっとあって船が流されるので、船を操りながらロープをくくったりするのが大変でした、入ってくれって思います。祈るしかない…」
準備を整えて解禁日を待ちます。
■波乱の「氷魚漁」が解禁 厳しい自然の洗礼も…
志帆さんが初めて迎えた氷魚漁の解禁の日。
天気は大荒れ。
【中村清作さん】
「ノブさん、はまったら死ぬで」
【ベテラン漁師】
「ええんや、死ぬんは覚悟や」
【中村清作さん】
「最悪でしょ、最悪とまでは言わんけど、ひどい日。冬の大荒れ」
激しい風が襲いかかってきます。
【中村清作さん】
「ぜんぜん船が動かーん!馬力が足りん!」
荒れ狂う波に船が捕まり、思うように進みません。
【中村清作さん】
「志帆ちゃーん、バケツでいけすの水抜いて、ちょっと重たすぎるわ。」
志帆さんも船が進むよう、必死に作業しますが…。
漁ができるのは、午前8時まで。
時間制限が来て、この日の漁は断念することになりました。
【田村志帆さん】
「パニックになってました…怖いとかいうよりは大丈夫かなと。明日こそ、たくさんの氷魚を見れるようにと願ってます」
迎えた翌日。
前日の風はやんだものの、この日の高島市の最低気温は2.4℃。
厳しい寒さの中の漁になりました。
【田村志帆さん】
「氷魚いっぱいおる!」
志帆さんたちが仕掛けた網にはしっかり氷魚がかかっていました。
【田村志帆さん】
「初めてなので、これがいっぱい取れてるのか少ないのか分からないんですけど、よかったです、うれしいです」
この日水揚げされた氷魚は43キロ。
大漁とまではいかないものの、及第点の取れ高です。
■女子大生漁師 必死に挑んだ「氷魚漁」
漁師の特権、獲れたての氷魚を釜揚げにしてお昼ご飯に。
【田村志帆さん】
「あ~、おいしいです!」
【中村清作さん】
「めっちゃがんばってたでしょ!かわいそうに頭べしょべしょやなと思って」
厳しい状況でも必死に食らいついた志帆さんに「合格点」が出ました。
ーーQ:課題は?
【田村志帆さん】
「え…多分いっぱいあります、ここでしか食べられないという感じのお魚なんで、いろんな方に食べてもらえたらと思います。」
コロナ禍で訪れた人生の転機。
自然を愛する大学生は、“湖の漁師”への道を歩んでいます。
(2021年12月9日放送)