日本人医師を中心とした人々が必死に支援活動を行っていたアフガニスタン。
この3カ月、イスラム原理主義の武装勢力・「タリバン」による支配で社会が根底から変わってしまいました。
そこに住む人々が今直面している危機とは。
現地からの訴えです。
■「仕事を失った」「物乞いの子どもが増えた」現地からのSOS
11月15日に、アフガニスタンの首都・カブールで撮影された動画に映っているのは、路上に止められた装甲車と、武装勢力タリバンの旗。
動画を撮影したのは、日本への留学経験があり、元々政府の職員だった男性です。
関西テレビのインタビューに現状を語りました。
【アブドゥルさん】
――Q:タリバンが再び権力を握り、米軍が撤退した後、あなたの生活はどのように変わりましたか。
「仕事を失いました。政府とは縁を切り、SNSのアカウントも使っていません。国内で自分の意見を発することもやめました。できる限り存在を薄くしています。タリバンが首都を制圧し、恐怖を感じました。アフガンの人々は、1990年代半ばや2000年代のタリバン政権下で非常に残酷な扱いを受けたからです」
今年8月、国際社会の支援を受ける政府からイスラム系武装勢力「タリバン」の支配に変わったアフガニスタン。
その後、混乱の中、駐留していたアメリカ軍が撤退。
陥落した首都は風景が一変しました。
【アブドゥルさん】
「タリバンのように武器を持ちターバンを巻いた男性が多くなり、軍や警察の制服を着た人が少なくなりました。市内の路上には食べ物やお金を恵んでもらおうと、物乞いする子供たちが増えました」
かつて、政府を支援していた国際社会は「タリバン政権」を信用できないと、資産凍結や制裁措置を実施。
人口の半数以上が深刻な食糧不安、最大で9割以上が貧困に陥るとみられています。
そして、アブドゥルさんは、タリバンの思想による「イスラム」化も進んでいると話します。
【アブドゥルさん】
「日本で教育を受けたエンジニア、経済学者、弁護士、政府機関で働くアフガン人は、1000人以上はいます。しかし、タリバンは、留学や海外に住んでいたことのある若者を信用していません。タリバンは、イスラム教のもとで教育を受けた人を雇うことを望むと思います」
■凶弾に倒れた中村哲さん 日本で写真展
混沌とするアフガニスタンで、かつて住民の命を救うために医療支援を行い、用水路建設を続けた日本人がいます。
アフガニスタンの支援事業を行うNGO団体「ペシャワール会」の代表だった医師の中村哲さんです。
11月、中村さんの活動を記録した写真の展示会が大阪で開かれました。
主催したのは、写真家の中山博喜さん。
中村さんと一緒に2001年から2006年までアフガニスタンで支援活動に携わり、その様子を写真に収めていました。
【主催した写真家の中山博喜さん】
「これはもうまさに、通水試験真っただ中です。水がスーッと流れてきた瞬間。実はこれカメラで撮っている後ろには他にたくさん人がいて、みんなで水が来てる!とか言いながら大人が騒ぐんで、子供たちも集まって。そういう瞬間なんです」
【中山さん】
「最初は、いわゆるオペレーター、操縦する人がいて、(中村さんが)彼に指示をしていたんですよね、ここをこうしてくださいとか、ああしてくださいとか。だけどやっているうちに、まどろっこしくなったんでしょうね。いつの間にかご本人が乗ってがちゃがちゃやり出したんですよね。周りの人はたぶんヒヤヒヤしながら見ていたと思います」
荒野に水を通し、人が生きていける土地にしたい。
その活動中の2019年、中村さんは凶弾に倒れました。
中村さんを慕う現地の人々によってカブール中心部に壁画が描かれましたが、外国勢力を敵視してきたタリバンの政権が発足すると、壁画は塗りつぶされました。
そして、制裁の影響で現金の引き出しや、海外からの送金は困難になる中、ペシャワール会の事業は、細々とでも有志が続けています。
【中山さん】
「20年前はタリバンが政権をもっていたんですね。そういう意味ではまた20年前、ちょうどそれこそ井戸を掘っていた頃に世界が戻ったなという感覚なんですね。僕らがまず見なきゃいけないのは、ここにそうやって人が住んでいて、生活を今もやっていこうとしているし、実際にやっていっている。それに対して、世界はどうアフガニスタンをしっかりと見ていけるのか意識しなければならないと思います」
■「外出するとどんな目にあうか分からない」現地女性の訴え
危機に直面しているのは経済やインフラだけではありません。
この20年間、少しずつ認められてきていた「女性の権利」。
タリバンは記者会見で、「イスラム法の枠組みの中で女性の権利を尊重する」と表明しましたが、その実態はどうなのでしょうか。
本名を出さないことを条件に、現地に住む女性に聞きました。
【ヘナさん(仮名)】
「タリバン復権前までは、銀行やオフィスで働く女性、先生として働く女性はたくさんいました。しかし今は皆、家から出られません。女性は教育面でも問題に直面しています。タリバンは女性が学校や大学に通うことを認めていないのです」
一部の女性たちは、平等な権利を求めて抗議デモに参加しましたが、タリバンの戦闘員に鞭で叩かれ、阻止されます。
【ヘナさん(仮名)】
「外出すると、どんな目に遭うかわかりません。外出するのが危険なため、マーケットに買い物に行く際は、兄弟と行きます。私は国際社会に助けを求めます。この状況下で、私たちを見捨てないでください。私たちは国際社会の援助が必要です」
タリバンの支配となって3ヵ月。
現地はまもなく厳しい冬を迎えます。
そこに暮らす人たちにのしかかる「混乱」が消える日は来るのでしょうか。
(関西テレビ「報道ランナー」2021年11月18日放送)