■熱湯をかけ… 同居男の逮捕から1か月
「ハッピバースデートゥーユー・・・、おめでとう!」
誕生日ケーキを前に笑顔を見せる男の子。
新村桜利斗(にいむらおりと)ちゃん。
わずか3歳で命を奪われました。
2021年8月、摂津市のマンションで桜利斗ちゃんに熱湯を浴びせ続け殺害したとして殺人の罪で逮捕・起訴されたのは、母親の交際相手で同居していた無職の松原拓海被告(24)。
幼少期から知る友人が語る松原被告は…
【松原被告の友人】
「一番下の妹、歳離れていて面倒見が良い方やと思っていた。めっちゃ可愛がっていた。保育士になりたいという話も聞いたことあって。優しい感じで、きつい感じもなかったので今までも。ニュース見てびっくりしました。最近は自分で会社するから働きたい人いたら声かけてって、頑張ってるんやなぁと」
かつて保育士を目指していたという松原被告。
当時の状況について、逮捕前に周囲に語った内容が録音されていました。
【松原被告】
「(浴室で遊んでいて)給湯の温度を上げたりしていたんですよ。その遊び、そういうことをしたのが今回初めてじゃなくて。おりちゃんってリビングから呼んだんですよ。返事みたいなのがなかったから急いで見に行って浴槽を開けたら、おりちゃんが浴槽じゃないほうの床にうつ伏せになってて」
【知人】
「手をあげてたやろ、桜利斗に」
【松原被告】
「あげたことはあります」
熱湯をかけたことを「遊び」と説明していた松原被告。
逮捕された当初、「故意に熱湯を浴びせていません」と容疑を否認し、現在は黙秘しているということです。
■7年連続で全国最多 大阪府内での児童虐待 通告件数
大阪府内で警察が児童虐待の疑いで児童相談所に通告した子どもの数は年々増加し、7年連続で全国最多となっています。
新型コロナウイルスの対策として「外出自粛」が叫ばれた2020年の通告件数は、2019年に比べ、やや減少に。
虐待がより“密室化”し、見えにくくなったと危惧する声もあがっています。
そんな中・・・
■大阪府警の児童虐待専門チーム「児童虐待対策室」
【虐待対策室員】
「大阪府警の虐待室から来ました。××と申します。ちょっと聞き込みで来させてもらったんですけど、よろしいでしょうか」
最悪の事態を防ぐために日々続く警戒。
児童虐待を防ぐための活動の現場を取材しました。
【虐待対策室員】
「はい、児童虐待対策室です」
大阪府警少年課児童虐待対策室。
2017年に全国の警察で初めて発足した、児童虐待の対応に特化した部署です。
連日、虐待を疑う情報が入ってきます。
【虐待対策室員】
「ネグレクト容疑入っているんやけど、詳細が入っていないので確認してくれる?」
住民から通報があると、まず地域の警察署が対応しますが対策室では、その対応に抜けや漏れなどがないかを確認し、指導・支援を行います。
対策室が特に力を入れているのは「泣き声通報」への対応です。
しかし、「聞こえた」という情報だけからその場所を特定するためには地道な作業が必要に。
この日は、男性の怒鳴り声と子供の泣き声がするといった通報を受けあるマンションに出動しました。
【虐待対策室員】
「大阪府警の虐待室から来ました。××と申します。ちょっと聞き込みで来させてもらったんですけど、宜しいでしょうか。調査に回っているんですけどまだ特定できなくて」
【住民】
「子供の声は聴いたことないんですよ。男の人が怒鳴ったり、わめいてるのは何回か聞いています」
【虐待対策室員】
「10時過ぎくらい通報があってどこか分からない状況、お子さんは?」
【住民】
「2歳前です」
【虐待対策室員】
「泣いていた?」
【住民】
「泣いてなかったと思います」
ーーQ:この時期通報数は?
【虐待対策室員】
「春先と秋口に窓を開けて過ごされるので、泣き声があれば通報するのが増えますね」
この日は特定に至らず、注意を続けることに。
最悪の事態になってしまう前に発見するための地道な作業が行われています。
【大阪府警少年課児童虐待対策室・平山信幸室長】
「警察が関わっている部分は、その時その時の瞬間的な部分なので、それ以外の部分をどうやって見抜いていくかが難しい。児童虐待の情報は通報で入る場合もありますし、児童相談所や市町村に相談という形で入ったり、すべて事件化するわけではないので、どこが対応するのが適切かを判断して対応していくことが大切」
■虐待を疑う情報のすべてを警察と児相で共有する「全件共有」システム
児童相談所との連携も3年前から強化されました。
児童相談所に寄せられた虐待を疑う情報のすべてを、警察と共有する「全件共有」のシステムが導入されています。
【虐待対策室員】
「目的が児相と警察で2つの目でダブルチェックして重篤な虐待を防止しよう、未然に防ごうというもの」
ーーQ:どれくらいのペース
【虐待対策室員】
「毎月1回、1000~1500人分くらい」
そのなかでも「緊急性が高い」とされる家庭については、個別に訪問します。
【虐待対策室員】
「基本的にはアポなしでしています。普段の状況を見ないと、今から行きますというと構えられる。隠されてしまうこともあると思うので」
ーーQ:どうでしたか
【虐待対策室員】
「お母さんとお子さんの元気な姿を確認できまして」
ーーQ:どういうチェックを
【虐待対策室員】
「身体的虐待が疑わられれば服をめくって普段服の上から見えないところもチェックしています」
SOSを探し出し、児童虐待を未然に防ぐ。
■市に寄せられる虐待を疑う情報 なぜ生かされなかった?
実は、今回の桜利斗ちゃんが殺害された事件でも周囲からSOSは発信されていました。
桜利斗ちゃんが通う保育所は顔のあざなどを市に報告。
さらに複数の母親の知人も…
【母親の知人】
「ほっぺたにあざがある。お母さんが『これたっくん(松原容疑者)がやっちゃったんです』って。松原と引き離して欲しいとお願いはしてきたんですけど」
【母親の知人】
「このまま放っておくと桜利斗くん亡くなっちゃうよ、死んじゃうよって」
市の相談課は桜利斗ちゃんの母親と91回面会し、母親について「第三者からの暴力を放置する」ネグレクトの傾向があると判断していました。
必要と判断すれば、府の児童相談所に対応を委ねることになるのですが、面談で桜利斗ちゃんにあざが確認できなかったことなどから「緊急性はない」と判断していたのです。
摂津市の相談課で虐待事案に対応するメンバーは5人、このうち4人は、児童虐待を含む家庭の問題に対応する「社会福祉士」の資格を持っていました。
児相などに関与を求めるか、自分たちで対応を続けるか…。
専門家はその判断で、自治体の担当部署が悩むことは珍しくないと指摘します。
【関西国際大学・道中隆教授】
「強権発動を児童相談所がやった時に子どもを家庭に帰すときにこれは難しい。警察が入れたとなると相談これまでやっていたのに『裏で警察に言ってるやんか』と。『信用してるから話してるのに児相言うてるやん』と。信頼関係を崩してしまうと相談関係を崩してしまう。相手がそういう受け取りをするんじゃないか。そういう思いがあるからケースをリファー(照会)することを躊躇する(ことがある)」
救えたはずの幼い命。
SOSにどう反応するのか。社会の仕組みが問われています。
(2021年10月21日放送)